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謎を呼ぶエレベーター

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「いいのよ。私、実はちょっとこの事件に興味があるの。秋月さんが私を呼んでくれたから、興味を持つことができたので、言い方は悪いけど、秋月さんには感謝だわ」
 と言って、ジョッキーのビールを半分くらいまで飲み干した。
「私が今度の事件でね。少し変だなと思っているのは、そういうところではないのよ。確かにこの事件はいろいろとややこしいところがあって、不思議なところの多い事件だと思うんだけど、私が感じたのは、その中の一つのピンポイントなところなんだけどね」
 と言って、少し黙った。
「どこなんだろう?」
 と、秋月も考えていたが、どうやら秋月には思いつかないようで、その様子を見ながら、綾子が答えた。
「あのね。それはね。死んでいたあの姿勢なのよ。四階にエレベーターがずっとあって、誰も呼ばないというのは確かに変よね。となるとさっきも推理したように、何か四階で開けっ放しにしておく細工がしてあったと思うの。一番考えられるのは、死体で開け閉めできないようにすること。でも、それだったら、すぐに中に押し込んだとしても、あんな不思議で綺麗な形にはならないと思うのよ」
 という意見を聞いて、なるほどと感じた秋月だった。

                捜査本部

 K警察署では、けど蔵捜査本部長を中心に、清水警部補、辰巳刑事、山崎刑事を中心としたお馴染みのメンバーが捜査に当たっていた。
 今回の事件の戒名は、
「ラブホテル主婦殺害事件」
 という内容で、ラブホテルという意味深な場所で、主婦が、部屋ではなくエレベーターの中で、奇妙な格好で、殺されていたという一つ一つを切り取っても、奇妙な内容が凝縮していることで、マスコミの反応も大きかった。
 新聞にも社会面では大きく取り上げられ、週刊誌にも話題となった。ただ、話題性として大きいのは地元だけのことで、ちょうど世間は、政治や芸能界のスキャンダルがマスコミを支配していたので、さすがに全国ニュースとまではいかなかった。それでも地元メディアは、この不可解な事件を取り上げ、地元紙面に幅を利かせることになっていた。
 警察にも当然メンツがあり、
「早期解決に全力を尽くしてほしい」
 という県警本部長の訓示もあり、捜査本部もそれなりの緊張感をもって捜査に望むことになった。
 第一発見者の一人である秋月も、最初こそここまで大きな事件になるなど思ってもいなかったようで、簡単に考えていたが、
――なるほど、ミステリーの好きな綾子さんが興味を持つだけのことはある――
 と思ったほどで、逆にことが大きくなってきたことからも、どこか他人事に思えてきた自分が、やはり小心者なのかと思うのだった。
 秋月は、あの日、綾子と話をした中で、不可思議な内容を思い出していた。一番おかしなことがエレベーターの姿勢だということを話してくれたが、そこに至るまでのいくつかの不思議なことも話をしていた。
「まず、どうして、四階にエレベーターを留め置かなければいけなかったのかということよね? 四階に何かあったのかしら? 警察が勘ぐるとすれば、あなたという身内がいたこと。そういう意味ではあなたはただの第一発見者としては警察は見ないかも知れない。少なくともあなたは、被害者と面識がある時点で、第一発見者から、参考人に立場が変わったのかも知れないわ」
 と彼女は言った。
「でも、僕があのホテルのあの部屋に入ったのは、最初から計画していたわけではない。普通の火照るや旅館だったら、予約が必要だけど、あそこは、到着してから部屋を自分で決めるんだよ。あの場所に死体があったのは偶然としか思えないんだけど?」
 と秋月がいうと、
「それは、あなたが自分の目で見て言っているだけでしょう? 客観的に見るとそうじゃないのよ。もしあなたが被害者と深い関係にあったとして、彼女があなたを尾行していたとすれば? それはあなたにとって都合の悪いことであれば、殺害も考えられる。しかもあなたを頭のいい犯人だと思ったとすれば、ラブホテルに入ったのも、今あなたが申し開きをしたように、偶然だったといって逃れるためだったと言えなくもない。だから、あなたの立場はこれから微妙になってくるでしょうね。第一発見者あから参考人になっていくかも知れない」
 と綾子がいったので、
「脅かさないでくれよ」
 と秋月は苦笑いをしたが、さすがにここまで言われると、苦笑いだけでは済まされなかった。
 背中に変な汗を掻いていて、何も頭に浮かんでこない自分に苛立ちを感じていた。誰かに相談相手になってほしいという気持ちになりながら、募ってくる不安に震えていたのだった。
「大丈夫。事件が解決するまで、この私が相談相手になってあげるから、心配しないで」
 と言ってくれた。
「本当かい?」
「ええ、ちょっと脅かしすぎちゃったわ、ごめんなさいね」
 というではないか、秋月は彼女の優しさに感動し、出そうで出てこない涙を感じ、目頭が熱くなるのは感じていた。
「でも、彼女があそこにいたということは、かなりの確率で、あなたを尾行していた可能性はあるかも知れないわね。その理由はよく分からないんだけど、ただの偶然ではないと思うんだけど、それは『ただの』という部分に限定したことであって、何かしらの偶然が含まれているのは、間違いのないことだと思うのよ」
 と、綾子は言った。
 ちょうど、似たような話を捜査本部でもしていた。綾子が句づいた、
「被害者の尾行」
 という発想は、辰巳刑事にあった。
「どういう発想なんですか?」
 という山崎刑事に対して。
「昨日の被害者の旦那が来た時の話を思い出してごらん」
 と、と辰巳刑事が言ったが、この話というのは、昨日の第一発見者である、秋月と綾子がその場所を離れてすぐのことだった。被害者の旦那であり、第一発見者の実兄である遠藤隆二が現場に呼ばれた時のことだった。
 遠藤隆二は仕事中でいきなりの訃報を聞かされ、しどろもどろだった状態から、摂るものもとりあえず現場にやってきたということだった。そのせいもあってか、彼は頭の中が整理できていなかったようで、中途半端で終わった仕事のことから頭を話すことができないほどだった。
 それだけ彼の頭の中が融通の利かないものだったのかということなのだろうが、気が動転していれば、人によっては、まったくの想定外ということもありうるはずなので、こういう時の肉親という関係者の中でも抗うことのできないほどの関係からは、想定外の行動や言動が出るのは仕方のないことだろうと思うのだった。
「いきなりで驚かれたと思いますが、ご足労いただきありがとうございます。まずは奥さんかどうかの確認をお願いしたいのですが」
 ということで、まだ現場に残っていた奥さんの顔の「実検」を一番の関係者である旦那にしてもらった。
「はい、女房に間違いありません」
 と言ってうな垂れているところ、
「それは本当にご愁傷様です。我々は今日奥さんに何が起こったのかを解明し、奥さんの無念を晴らしたいと思うますので、ご協力のほど、よろしくお願いします」
 と頭を下げると、涙ながらに隆二は頷いていた。
「奥さんのことで最近何か気になることとか、ありましたか>」
 という質問に、
作品名:謎を呼ぶエレベーター 作家名:森本晃次