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謎を呼ぶエレベーター

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 と訊かれ、
「はい、そうです」
 じゃあ、空いているお部屋で少しお話をお伺いしたので、少しよろしいですか?」
 と、一人の刑事は検屍に立ち会っていたので、もう一人の刑事が二人を連れて、空き部屋に入っていった。
 それまで、他の部屋から出てくる人はいなかったが、実際に自分たちが部屋を出てから、事情聴取を受け始めるまでの間というのは、三十分も経っていなかっただろうから、それも不思議ではなかった。
「ご足労願って申し訳ありません。まずは、お二人のお名前からお伺いしましょうか?」
 と訊かれたので、二人は目を見合わせたが。それを見て刑事も察したのか。
「分かりました。お互いに、嬢とお客の関係というわけですね。個人情報になるでしょうから、こちらのメモに、本名と住所、電話などの連絡先をお書きください。差し支えなければ会社名や、所属先の名前も頂ければ幸いです。もちろん、口外は致しませんのでご安心ください」
 と言われたので、二人はそれぞれに、メモに言われたことを書いた。
「じゃあ、お名前をどのように呼んでいいか、それだけは教えてください。話しにくいですからね」
 と言って刑事さんは苦笑いをした。
 職務上、こういう関係の二人を相手にすることも結構あるのだろう。そのあたりは慣れているようで、それはどうしていいか分からないと思っていた二人にとっては、ありがたいくらいであった。
 二人が、さっきの呼び名を示すと、
「さくちゃんさんに、モコさんですね・分かりました。そうお呼びするようにいたします」
 と刑事は言った。
「お二人がお部屋を出られてから、エレベーターのところに来るまでに、誰か怪しい人をお見掛けしませんでしたか?」
 と訊かれて、
「いいえ、誰も見ていません」
 とさくちゃんが答えた。
「じゃあ、エレベーターは何階にあったんですか?」
 と訊かれたので、
「四階です」
 と答えると、
「じゃあ、下へのボタンを押したその時すぐにエレベーターの扉が開いたということですね?」
 と言われて、
「ええ、そういうことになります」
 と答えた。
「そこで、後ろ向きになって、背中にナイフの刺さった女性を見かけたわけですね? その時何を感じました?」
 と訊かれ、男女二人は顔を見合わせて、
「最初は恰好が滑稽だっただけに、何がどうなっているのか分かりませんでした。ナイフが刺さっていることも最初は分からなかったくらいです。正直、その滑稽さに一瞬噴き出しそうになるくらいでした。でも、鼻を衝く金属のような臭いがしたので、変だと思って我に返ったのか、その次の瞬間には、ナイフが刺さっていることが分かりました。その瞬間、横にいたモコちゃんが、『きゃっ』と言って小さな声で叫んだのを感じました。ほとんど同時だったと思います」
 と、さくちゃんが答えて、横を見てモコちゃんに同意を求めると、モコちゃんも頷いていた。
 その様子を見て、
「モコさんも同じご意見のようですね?」
 と刑事が聞くと、
「ええ」
 と、モコちゃんは、静かに答えた。
 その時、モコちゃんは、横目にさくちゃんをじっと見ていた。
――この人、もっと頼りないかと思ったけど、結構しっかりしているんだわ――
 と少し見直した気がしたからだ。
 そんなこととは知らないさくちゃんは、刑事から、次にどんな質問があるかなどに、思いを巡らせていた。
 さくちゃんは思ったよりも、頭が切れる人で、自分の世界に入ると、頼りがいのある人になるようだった。
――こういう人が男らしいのかも知れないわね――
 とモコちゃんは感じた。
 そういえば、サービスしている間は、完全に自分が主導権を握っていたので分からなかったけど、次第にうろたえた様子はなくなっていたような気がする。風俗デビューの客にも何回か当たったことがあって、最初から最後までオタオタしていて、イメージそのままになってしまい、最初の感動が最後までそのままだったことで、却って、冷めてしまうこともよくあった。
 それがデビュー相手の人に対しての時だと思うと、
――こんなものよね――
 と、自分のパターンの一つとして、確立された気がしていたのだ。
 そして、ほとんどの人はその期待を裏切らない。そういう意味では、さくちゃんは、いい意味で裏切ってくれた相手だったのだ。
 しかも、この日は、死体を発見するというハプニングまであり、さらに彼の落ち着きを感じさせられて、
――本当に今日が初めての相手だなんて思えないわ――
 と思った。
 それは、今日がデビュー戦だという意味と、自分と初対面だという意味の両方に言えることであった。
 さくちゃんは、モコちゃんのことを気にしていないかのように見えたが、実は気にしていたのだ。
 警察から、第一発見者としての取り調べが行われている時、手持無沙汰だったモコちゃんの手を握ってくれた。
――やっぱり優しい人なんだわ――
 と思っていたが、モコちゃんも手を握り返すと、その掌はぐっしょりと濡れているのを感じた。
 現場検証をしていた若い刑事がこちらにやってきて、
「とりあえず分かったことだけを報告しますね。被害者が殺されたのは、今から一時間前後くらい前ではないかということです。死因は見ての通り、背中に突き刺してあったナイフによるもの。おそらくエレベーターが開いて、中に乗り込もうとしたところを、後ろから追突するように覆いかぶさったのではないかと思います。エレベーターが四階で止まったままだったということは、どこからも呼ばれなかったのかも知れないけど、いくらラブホテルだとはいえ、三十分以上誰もエレベーターを利用しなかったというのも不思議な気がするんです」
 といった。
「何が言いたいんだ?」
 と、事情聴取していた刑事が聞くと、
「死体発見現場では、被害者は、奥の壁に寄りかかるようになって発見されたけど、実際には死体がエレベーターの扉を挟むようにしてあったとしたら、誰も気付かなかったことでしょうね。つまり、このエレベーターは扉が開いたまま、四階にずっといたのではないかと思うんですよ」
「じゃあ、誰かが死体を動かしたのか、それとも、死体をそのままにして、エレベーターの扉が閉まらないような仕掛けを使ったということなのかな? 何のためにそんなことをしなければいけないんだ?」
 と訊かれて、若い刑事が、
「それはまだ分かりませんが、ひょっとすると、そのことが、この事件の何か意味を成しているのではないかと思うんです」
 と言った。
 実際にこの刑事の発想は半分は間違っていなかった。それが証明されるのは、もう少ししてからであったが、どうやら、今刑事たちは、目の前の若い二人を疑っているかのようにも見えて、モコちゃんが、震え出したのを手を握っていたさくちゃんは感じた。
 さくちゃんがモコちゃんの手を握ったのは、不安がっているモコちゃんを慰めるという意味もあったが、それよりも、モコちゃんの心境の変化を探りたかったのだ。あくまでも不安を取り除きたいと思う一心でのことである。
「ところで、身元は分かったのかね?」
 と訊かれて、若い刑事は手帳を見ながら、
作品名:謎を呼ぶエレベーター 作家名:森本晃次