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謎を呼ぶエレベーター

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 それはまるで、試験勉強を怠って成績が悪かったというよりも、私見があるということを忘れてしまったかのような感覚だ。それも本当に自分が悪いのかどうか分からない。
「ひょっとすると、犯人に一杯食わされたのかも知れない」
 とも思ったが、少し表現が違っている。
「何もかもこちらが見逃すことを承知してのことだったんだ」
 とまるで計算されていたかのように思うのが癪なのだった。
「木を隠すなら森の中」
 と言われるがまさにその通り。
 さらにもっといえば、
「一度調べた場所であれば、何か変化が見つからない限り、二度とそこを調べるはずがないので、これ以上安全な場所はない」
 という発想と同じで、完全に警察の特徴を分かり切っている、いや、人間というものの特性をしっかりと分かってのことだったのではないかと思うと、防犯カメラの映像というのは、まさに、一度調べたところを二度と捜索しないという死角を持っているのではないかと思えてきた。
 なぜ、そう思ったのかというと、
「うなると、どこまでさかのぼっていいのかというのも困りものですよね」
 という先ほどの自分のセリフに対し、
「あっ」
 と感じたからだった。
 そこまでさかのぼっていいのか分からないということは、まだまだ遡る余地があるということだ。それなのに、遡りながら、犯人の姿と被害者がエレベーターに押し込まれるところから後しか確認していなかった。それ以前を見る余裕もなければ、考えもまったくなかったのである。
 人間の想いこみとは恐ろしいもの。それよりも前に何が映っているか分からない。そのことにどうして気付かなかったのか、それを思うと、犯人の策略にまんまと嵌ったと言えるだろう。
 そういえば、思い出してみると、犯人は目出し帽をかぶったその目で、時々防犯カメラを意識しているのを感じたではないか。ということは犯人には防犯カメラの存在も、そしてその位置も分かっていたことになる。
 何しろエレベーターの中に死体を放置するなどという、まったく考えられない犯行に、普通の常識を当て嵌めようなどというのは、最初から無理だったのだ。相手が歪んで考えたのなら、こちらも歪んで解明しようと考えてこそ普通と言えるはずである。それも分からずに、辰巳刑事は、自分の浅はかさを痛感した気がして、
「今度こそ、逃がさないぞ」
 とばかりに、署に戻り、まだ回収したままの防犯カメラを遡って見ることにしたのだった。
 辰巳刑事が、あまりにも慌てて帰ってきたことで、それを見た清水警部補も、
「ん? 何かいつもと違うな」
 と思い、一緒に防犯カメラを見ることにした。
 清水警部補は、実はまだ防犯カメラの映像を見たわけではない。捜査員が分析したことをなるべく信じたいと思っていることで、自分から、再度確認するような無粋なことはしなかった。
 だが、今回は辰巳刑事からの、
「できれば、一緒に確認してください」
 という要望もあり、要望があった時は遠慮しない清水警部補だったので、
「それならば」
 と、自分も犯行を見抜く気は満々であった。
 映像室で、防犯カメラの営巣を確認していると、まわりの機械の音がいつもは耳についてくるのに、この日はあまり気にならなかった。それだけ集中しているのだとうと、自分で感じた辰巳刑事だったが、隣に清水警部補がいてくれるのは心強いこと、最初の得も何度も見返した画像だったが、時間が経ってみれば、最初に感じなかったことも少しずつ分かってきたような気がした。映像に映った内容で一番の不思議なものといえば、やはり、あの大きなアタッシュケースだったのだろう。そして次にきになったのが、アベックが驚いたシーンだが、死体を見たことでのショックには違いないのだが、通報をしなかったのは、ラブホテルという微妙な場所だったからだろう。自分たちが発見者となって、バレてはいけない人にバレるのが怖かった。通報されないで済む場所として、ラブホテルという選択は間違いではない。
 二人が見ていくと、犯人が運び込んだ死体のそれ以前の状態で、そこには、もう一体の死体を運び込んでいる様子が見られた。
「誰なんだ? これは」
 と思わず、清水警部補は叫んだが、辰巳刑事は何も言わない。そこから一時間ほどさらにさかのぼってみたが、もう、何もなかった。しいていえば、最初の死体が運ばれる前に、そのエレベーターを使用した人がいたというくらいだった。
「じゃあ、死体は二つあったということなのかな?」
 と清水警部補は、そういった。
「これで、あのアベックがなぜあんなに驚いたのか、そしてアタッシュケースの謎も分かるというものですね。アベックが驚いたのは、死体が二体あったからです。そしてアタッシュケースは、そのうちの一体を運び出すために使われたんでしょうね」
 と辰巳刑事が分析した。
「じゃあ、一体どういうことになるんだ? 被害者は二人?」
「ええ、そうです。ただ、一人は殺害意志はなかったかも知れません。これは私のあくまでも想像でしかないんですが、このホテルの部屋で、猟奇的なプレイが行われていたのではないんでしょうか? 一人は片桐正治。そしてもう一人は殺された遠藤玲子、そしてもう一人は……」
 と言いかけて、
「えっ? ということは、三人で、そのプレイが行われていたということかい?」
「ええ、そうです。その女は、以前、片桐がおもちゃにして、記憶を失わせた女、かわいそうにその女は身寄りもないので、結局片桐が施設にでも入れたんでしょうね。でも、時々親切なふりをして呼び出し、裏でこうやって猟奇プレイを楽しんでいた。その間、いつの間にか不倫相手の遠藤玲子も参加するようになったんでしょうね。そんな時、プレイの中で間違いがあったのか、それとも、病気だったか、事故だったかは分かりませんが、その女性が急死してしまった。片桐も玲子も慌てたでしょうね。片桐のような男に考えなどあるわけもない。きっと玲子が入れ知恵をしたんでしょう。エレベーターで下におろしてどこかに埋めにいくようなね、それには、こういうプレイをするために、ひょっとして人形のようなものを使ったのか、幸いにも人間が入るくらいのアタッシュケースがあった。それを使おうということになったのでしょうね。ただ、そこであまりにもテキパキと動く、玲子が怖くなった。ただでさえ臆病なこの男が、女を殺して、今、もう一人の女が必死に偽装工作している。このままいったら、自分は脅迫されるとでも思ったんでしょう。こういう男は被害妄想も半端ではないからですね。そうなると、二人とも生かしてはおけなくなった。ここまで来ると、男も冷静にあって、いろいろ考えるようになる。幸いなことに、女はまさか自分が殺されるなど思ってもいないし、何檻も偽装工作のために必死だ。そうなると、ある程度までの偽装工作をさせた後で、この女に罪を抹殺してしまえば、何とかなるとでも思ったんだろう。少なくとも、本当に死んだ女の死体が出てこずに、この女自体が偽装工作をしようとしたのだから、自分は安全だとでも思ったんでしょうね。そこで、女を殺して、本当なら女に罪を着せるようにしようと思ったのだが、計画が狂った」
 とそこまで辰巳刑事がいうと。
作品名:謎を呼ぶエレベーター 作家名:森本晃次