謎を呼ぶエレベーター
「そういうことか、カップルに死んでいるところを見られてしまったということだな?」
と清水警部補が言った。
「ええ、せっかくのトリックが台無しになるかも知れないが、本当は最初に死んだ女を残しておこうと思ったのだが、あのオンナであれば、犯人は自分しかいないのがバレてしまう。しかしまだ玲子の方であれば、彼女の性格から、不倫相手が他にいてもいいと思ったのだろう。彼女を残すことにした。あの死体の形は、偽装工作をしているところを後ろから刺したので、あんな形になったまま、死後硬直が始まったんですね。だから、あのような不思議な死に方をしていたんですよ」
「じゃあ、エレベーターが四階にあったのは?」
「たぶん、同じ防犯カメラに収めておきたかったという理由があってのことでしょうね。同じ防犯カメラなら、遡ってみる場合、最初に死体が見えたら、そこから前を遡ることは普通はしませんからね」
というのが、辰巳刑事の見解だった。
「じゃあ、この事件の犯人は、片桐正治ということになるのかい?」
「ええ、そうですね。裏付けを行っていくうえで、他に犯人が出てこなければいいんですが……」
と辰巳刑事は意味不明な言葉を吐いた。
それから少しずつ証拠も出てきた。犯人を片桐に絞ってみると、証拠になるようなことはどんどん出てきた。玲子はエレベーター前で殺されたのだが、哀れな女性は部屋で死んだ。その部屋も特定されると、指紋もどんどん出てきて、その時与えようとした薬が床にこぼれているのも、捜査すればすぐに分かった。掃除で見つからなかったのは、ベッドの下に入り込んでいたからで、これが証拠にも繋がった。
逮捕されてからの正治は容疑を全面的に認めていた。辰巳刑事の危惧した、
「別の共犯者」
というのは、出てこなかった。
それを聞いた辰巳刑事は苦虫を噛み潰したような顔になったが、そのあとふと気になったのか、口にした言葉があった。
「綾子というあの女性、どうしてあのタイミングで、片桐のことを暴露しにやってきたのだろう?」
という思いであった。
綾子は警察にとっての救世主なのか、それとも、辰巳刑事の危惧する相手なのか、今となっては分からない。
綾子はというと、今日も元気に客についていた。
そして、秋月という男性はすでに過去の人になってしまったかのようだった……。
( 完 )
94
、
作品名:謎を呼ぶエレベーター 作家名:森本晃次