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謎を呼ぶエレベーター

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「それが何かが分かれば、少し事件の核心に迫ることができるんでしょうけど、私の意見としては、何か最初にその矛盾の原点が隠されているような気がするんです。ただ、そのことに気づいたとしても、謎は残る。却って深い謎になるかも知れないと思うんですが、それが事実に近づいているような気がして、そのあたりはどうなんでしょうね」
 と、秋月は言った。
「なるほど、なかなか興味深い考えですね。秋月さんは、結構こういう事件に興味をお持ちなんですか?」
 と訊かれて、一瞬ムッとした気分になった。
――仮にも被害者は、義理とはいえ姉ではないか――
 という思いが秋月にあったからだ。
 その気持ちを察してか、
「これは失敬、少し言葉が過ぎました。申し訳ありません」
 と、辰巳刑事は口ではそう言ったが。本心は、違うところにあった。
 これもわざと口にしたことであり、失敬とは思ったが、相手の反応を見たところがあった。
 これも、辰巳刑事なりの刑事としてのテクニックであり、そこから今まで見えていなかった部分を垣間見ることができると思ったのだ。
「いや、私の方もですね。この間一緒にいた女性の方もこの事件に興味を持っているようだったんですよ。趣味のサークルでミステリーを書いているといっていたからですね。そういう意味で、あれから一、二度会って、意見交換をしたくらいですね。まあ、分かったこととすれば、この事件は思ったよりも人間関係が複雑で、私などから見れば、何か愛憎絵図のようなものが渦巻いているような感じですね」
 と秋月は答えた。
「ほう、そんなに人間関係が複雑なんですか?」
「ええ、もう警察の方では捜査が行き届いているとは思うんですが、私の兄が不倫をしていて、その相手の旦那というのが、とんでもないやつらしいんですよね」
 というではないか。
「それをどうして?」
 と訊かれた秋月は、
「僕と一緒に死体を発見した綾子さんの幼馴染が、実は私の兄の浮気相手である片桐澄子さんらしいんですよね。彼女から話を訊いているといっていました」
 と言った、
 さすがに彼女が感じている「主従関係」のような抽象的な話はしなかったが、それを聞いて刑事も少し怪訝な顔になった。
「そうですか、それはすごい偶然ですね」
 といって、少し言葉を切ったが、すぐに続けた。
「でも、幼馴染が浮気相手だったからといって、彼女は被害者とは直接関係があったわけではないんでしょう? それなのに、そこまで事件に首を突っ込むというのは、何か違和感のようなものがありますね」
 と、ここでも違和感があるようなことを今度は辰巳刑事の方から話した。
「話をすればするほど、矛盾であったり、違和感のようなものが出てくるような気がしますね。それがこの事件の特徴になるのかしら?」
 と、秋月がいうと、
「犯罪を捜査していると、そういうことは得てして多いものです。それは私はいつも感じていることなんですけども、その矛盾がたまに結び付いて、共有することがあります。それを思うと、今回の事件、人間関係が複雑すぎることで、見えない部分も結構あるんじゃないかと思うんですが、そういう意味では見えすぎるのも難しいところではないかと思うんですよ」
 と辰巳刑事はそう答えた。
「刑事さんの方では、人間関係に関連した捜査はしていないんですか?」
 と言われて、
「もう一人の刑事の方が、その問題を探っています」
 と辰巳刑事がいうと、
「山崎刑事さんですよね?」
 と言われて、
「ああ、そうだけど?」
 と辰巳刑事が怪訝な表情で眉をゆがめながら答えると、
「一度山崎刑事さんからも、お話をいただけたらなと思いまして」
 と言い出した。
――どうやら、この人は、この事件を人間関係の縺れが動機に潜んでいると思っているようだな――
 と思った。
 しかし、今出てきている事実だけを見ると、人間関係の縺れ委以外に犯行の動機は見つからない。むしろ、それ以外の犯行の動機があるとすれば、巧みに隠されたものであるとしか思えないが、隠そうとするとどこかに見えてくるもので、もしそれが今までに上がっている矛盾であったり、納得しがたいものであると考えるのは、少し突飛であろうか?
 今回のこの犯罪において、たくさんある矛盾を考えていくと、表に出ている部分だけを考えても仕方がないとも思えてきた。
 せっかく人間関係やその裏に潜む愛憎が見えてきているのだから、そっちも考えてみる必要があるのだろうが、その部分は山崎刑事が担当している。
 山崎刑事に遠慮しているわけではないが、今の段階で山崎刑事の捜査に首を突っ込むことはしてはいけないことだと思っている。
 秋月というこの男が、なぜゆえに山崎刑事と話をしたいと望むのか、そのあたりと、彼がもう一人の発見者である、前から知っていたわけではない、その日知り合っただけだというもう一人の女性がどうしてこの事件に感心を持って絡んでくるのかということも、考えなければいけない謎として浮上してきた。辰巳刑事の方も、第一発見者のもう一人である綾子と話をしてみたい気がしてきたのだった。
 最初は、
「第一発見者の一人に聴けばいい」
 とだけ思っていたが、考え方が少し変わってきた。
 そこにどんな心境の変化があるのか、その時はまだその気持ちの核心について辰巳刑事は分かっていなかった。
――ひょっとすると、彼が山崎刑事に会って、話をしてみたいと言った気持ちも、自分の今と同じようなものなのかも知れない――
 と辰巳刑事は思った。
「秋月という男、刑事にしてみたら面白いかも知れない」
 と、このうだつの上がらない男を見ながら、辰巳刑事はそう感じたのだった。
 そんな話をしているところに、綾子から連絡があった。
「今、刑事さんが来られていて、いろいろ事情を聴かれているところなんですよ」
 と秋月が答えると、さらに、綾子が何かを言っているようだ。
 すると、秋月が、
「辰巳さん、綾子さんが辰巳さんにお話ししたいことがあると言っているんですが、ここに来てもらってもいいですか?」
 というと、辰巳刑事も話を訊きたいのもやまやまのようで、
「ええ、もちろんですよ。事件に関しての新たな話が訊ければ嬉しいですよ」
 と、答えたが、辰巳刑事としては、半信半疑なところがあった。
 彼女が知っているくらいのことは、こっちも掴んでいるという意識はあったが。万が一見逃している部分があれば、その指摘はありがたい。善良な市民の通報レベルで考えていた。
 それから十分ほどで彼女がやってきた。
「意外と近くにいたんだね?」
 と訊かれて、
「ええ、今日は副業の方もないので、秋月さんに連絡を取ってみると、刑事さんと話しているということだったので、お邪魔かと思いましたが、やってきました」
 という綾子に対して、
「いいえ、お邪魔だなんて。事件に関しての何かお話でしたら、こちらから伺いたいくらいのものを、ご足労いただけて、ありがたいと思っていますよ」
 と、当然のごとくの社交辞令に秋月には聞こえた。
「警察の方では、片桐正治さん。つまり殺された女性の不倫相手が、ひどい人だという情報は掴んでいますか?」
 と訊かれて、
「ええ、まあ、知ってはいます」
作品名:謎を呼ぶエレベーター 作家名:森本晃次