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謎を呼ぶエレベーター

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「ところで、この正治という男ですが、ある日、急に狂ったように妹に襲い掛かって、ついには最後の一線を越えてしまったということです。そこで完全に切れたんでしょうね。自分が、アジトとして借りていた部屋に妹を本当に幽閉してしまったということです。妹はすでに抵抗する意識もなくなっていて、精神に異常をきたしていたということです。だから、雄平に関しても簡単にできた。それがさらにやつを共謀にしたんでしょうね。それからのやつは家にも帰らず、女の部屋を泊まり歩いて、たまにアジトにやってきては、妹を食い物にする。さらにこいつの酷いところは、あれだけ恋焦がれて自分のオンナにした妹も一度抱いてしまうと、もう、他のオンナと立場は一緒なんですよ。ただ、手放さないのは、自分のものを他人が触るのを嫌がるやつっているじゃないですか。それと同じ発想なんですよ。好きだからだというわけではない。そこまでやつは鬼畜な人間なんですね。私も今までに何人もの色情好の鬼畜のような男を見てきましたが、ここまでの鬼畜は見たことがありません、妹は親に発見されてから、密かに病院に入院させたそうです。神経が病んでいるのでしょうがないところがあるんでしょうが、両親は、世間体を考えて、この鬼畜のような事実を隠蔽することにしたようです。だから、奥さんが殺されたといって事情を聴きに行った時、あっけらかんとしていましたからね。私も何かおかしいと思って調べてみたんですが、まさかここまでだったとはですね。正治は監禁暴行の罪で、やつがアジトにしていた所轄署の方で、収監されています。ある意味でやつは鬼畜にも劣るというのはそういうことだったんですよ」
 という、辰巳刑事からの衝撃的な事実が語られたのだった。
「じゃあ、奥さんが不倫をしていても、どっちもどっちということでしょうか?」
 と辰巳刑事に山崎刑事が聞くと、
「そういうことですね。不倫くらいではおつりがくるくらいですよ」
 と、本当に苛立ちを隠せない辰巳刑事がそこにはいたのだ。
 辰巳刑事の話は、捜査本部の空気を一変させた。今までは、殺人事件ではあるが、それほど複雑な事件でもないかも知れないと楽観視していた人たちの気持ちを一気に重くしたのである。しかし、死体発見の状況から考えて、少なからずのおかしな状況に、清水警部補は、
――そう簡単なものではないな――
 と思っていたが、それは、あくまでも状況の不思議さからであった。
 さすがにこのような精神的な歪さが絡んでこようとは思ってもいなかったのだ。
「この男を耽美主義による精神異常だというだけの物差しで測っていいものかどうか、少し疑問に思うが、どうだろう? 今回の事件に、この男の異常性癖が関係していると、君たちは感じるかね?」
 と言われて、辰巳刑事と山崎刑事は顔を見合わせたが、まず山崎刑事が答えた。
「私は関係があるように思いますね。私はここまで短期間ですが、今度の事件を見ていて、本当の被害者って誰なんだろう? って感じるんですよ。殺された玲子さんは確かに被害者以外の何者でもないですが、逆に誰かに対して加害者だったのかも知れない。また加害者にしか見えない、殺害された女性の旦那の浮気相手の旦那だって、ただの加害者だとした尺度で図ってもいいものかどうか、考えさせられますよね。本当は奥さんに浮気されたのが原因かも知れない。それでも許せない行為ではあるんですが、そうやって考えると、男女の間のこと、しかも夫婦間、あるいは不倫関係の相手などと、一組でさえ、何を考えているのか分からないところに持ってきて、この複雑な関係をどう考えればいいかなんて考えろという方が無理な気がします。間違った判断をしてしまいそうで、よほど慎重に考えないといけないとは思います」
 と、いう山崎刑事の返答は、どこか模範解答のようで、納得できる内容ではあるが、どこかいまいち心に響いてくるものではなかった。
 それを聞いた辰巳刑事が、ゆっくりと自分の意見を述べた。
「確かに、関係がないとは言えないと思います。でも、直接関係があるかどうかについては、どうも疑問が残るんですよ。人間関係というものは、なかなか難しいことですからね。私はそれよりも、現状の分析の方が先決のように思うんです、今、山崎刑事が言ったように、人間関係は難しい。だから、よほど慎重にやらないと、間違った判断をしてしまう。まさにその通りです。だから、まずは見えない部分よりも見えている部分を分析しながら、そこに精神的な部分を嵌めこむような感じでいかなければいけないと思うんです。それを思うと目の前に見えている不思議なことを一つ一つ考えてみる必要があると思うんですよ。人の気持ちはその時に出てきた矛盾を潰すために解釈するという方法もあると思うし、まずは状況なんじゃないかと思うんです」
 と、辰巳刑事は答えた。
「じゃあ、辰巳君は、今度の事件の不可思議な点を、どう考えるんだね?」
 と言われて、
「まず気になったのが、被害者を乗せたまま、数十分も同じ階にエレベーターがいたということです。実は防犯カメラで見てみましたが、防犯カメラの設置位置があまりよくなくて、入り口は見えるんだけど、エレベーターの中は見えないんです、確かに犯人が、ぐったりした被害者をエレベーターに乗せるのは見ました。発見された時間から遡って、大体二十分くらい前だったと思います。そこで、ごそごそとやっているようなんですが、エレベーターの中が見えないので、何をしているのか分かりませんでした。ただ、一つ気になったのが、被害者と思しき人をエレベーターに乗せてはいるんですが、どうも、雰囲気が違うような気がするんです。それから、しばらく誰も中から出てくる気配はありません。明るさが漏れていることから、その階で止まっているのは間違いないと思うのですが、乗り込んでくる人を映すカメラですので、仲はまったく分かりません。犯人も当然のことながら、目出し帽をかぶっていて、人相その他は分かりません。服装は作業服のような感じですので、帽子を脱いでしまえば、怪しまれることはないでしょう。ただ、もう一つ気になったのは、犯人が最後に降りる時、大きなカバンを持っていました。普通の旅行カバンに比べても、かなり大きなものです。コントラバス化何かの楽器くらいの大きさですね。アタッシュケースの比ではありませんでした」
 と辰巳刑事は言った。
「その映像が意味するものは一体何なんだろうね?」
 と清水警部補に言われて、
「さあ、今のところ分かりません。ただ、この謎が解けないと、人間関係を考えるのも難しいと思われます。犯人が何かの小細工をしたのは間違いないとして、その大きなカバンの中に何が入っていたのか、それも不思議ですよね。犯人は、そのバッグを持って、そそくさと隣のエレベーターに乗り込んで、階下に降りていきました。実に不思議な光景だったと思います」
 と、辰巳刑事は言った。
作品名:謎を呼ぶエレベーター 作家名:森本晃次