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謎を呼ぶエレベーター

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それを一番感じたのが、
「澄子が結婚した」
 ということを知ったからだった。
 結婚するということは、、
「自分が夫婦生活において、十社になるということである」
 と、綾子は感じていたからだ。
 綾子は、今でも、
「人間関係というものには、少なからずの主従関係というものが存在している」
 と思っている。
 それは誰にでもあるものであり、見えているか見えていないかの違いだと思っているのだった。
 だから、夫婦関係は、二人三脚だなどと言われているが、それはきれいごとであって、実際には、
「旦那が主人というその名のごとくの主であり、女房は従なのだ」
 と思っていた、
 夫婦というものは、いくつも形があり、中には、
「女房が主であり、旦那が従である」
 という関係もあるようだが、そんなものは本当に稀であると思っていた。
 だから、澄子は結婚した時点で、主ではなくなった。いわゆる、
「普通の人に成り下がったんだ」
 と思ったのである。
 その瞬間、自分の呪縛は解け、逆に彼女に対して、
「自分が主になれるのではないか?」
 とまで感じたほどだった。
「結婚は人生の墓場だ」
 と言われているが、本当は主従関係をまったく意識せずの言葉であるが、
「主従関係があってこそ、この言葉は重いんだ」
 と綾子は感じていた。
 だから、綾子はまだ結婚はしたくはなかった。このままの精神状態で結婚などすれば、自分は永遠に従という立場から逃れることはできないと思ったからである。
「澄子のような女性が、従のままで満足できるわけはない」
 と、綾子は思った。
 そういう意味からも、
「澄子は誰かと不倫をするようになるんじゃないか? それも早い段階で」
 と、感じた、
 その理由は自分がデリヘル嬢をしているからで、デリヘル嬢をすることで、男女関係であったり、男性の気持ちなどが分かるようになり、常連の客と話をすることで、彼らが心の奥に秘めた思いを知ることができるようになっていた。
 そのおかげもあってか、一度だけの客でも見ていると、どのような性格かを大体分かるようになってきた。
 確かに人間というのは、男女問わず、個人個人で性格は違うものであるが、基本的には数種類のもので、微々たる違いはあっても、その数種類に区別することができるというものだ。
 人の性格を把握するのが難しいと思うのは、
「人間、皆一人一人性格が違っている」
 と思うからで、微々たる性格を把握するのは後でもいいと考えて、まずは数種類のパターンに分けることで、人の性格をある程度把握できると考えれば気が楽だと思えるはずではないだろうか。
 綾子は今のお仕事を始めたことでそれができるようになったと自負している。ただ、そこまで分かっていても、なかなか気づかないのは自分のことであって、やはり自分の姿は鏡のような媒体を見ない限り、感じることができないと思うからだった。
 綾子は、再会した澄子に、根本的なところでの従の気持ちは抜けていなかったが、彼女の性格を把握することで、従ではありながら、決して相手に、自分に対して主の気持ちを起こさせないということへの自信のようなものがあることを感じていた。
 そんなことを考えている時、
「僕の兄貴も不倫していたんだが、その相手というのを、最近知ったんだ」
 と秋月は言った。
 それを聞いた綾子は、漠然として、その話を訊いていた。
 名前を聞いたところで、知らない相手であれば、それは他人事でしかないということを感じていたからだった。
 だが、彼の口から出てきた名前が、
「片桐澄子っていうんだ」
 というではないか。
 綾子は文字通り、頭の中で、「!」マークがチラついたのを感じた。思わず、
「えっ!」
 と呟いてしまったことが分からないくらいで、しかもその声は、かなり素っ頓狂だったようで、秋月にとっては、かなり大きく意外な気分にさせるほどだったようだ。
「どうしたんですか?」
 と、思わず秋月が呟いたほどだった。
 その時、秋月はその声の意味をすぐには把握できないほどの意外なタイミングだっただけに、綾子の戸惑いが見えてはいたが、その時の綾子の心境がよく分からなかった。そして我に返った綾子から、自分がその片桐澄子とは知り合いだということを訊いても、別に不思議はない気分になったほどだった。
 相手が自分の想定以上に反応した場合、自分の方から相手と若干の距離を取るようになったのは、それが自分の性格であるということに、綾子はまだ気づいていなかった。
「秋月さんは、どうしてそのことをご存じなんですか?」
 と訊かれた秋月は、
「実は、玲子さんからその話は聞いていたんです。でも、僕としては本当はそんな話を訊きたくもなかった。でも、相談があるからということで訊きに行った話がそれだったんです」
 というではないか。
「それを聞いたのって、いつだったんですか?」
 と訊かれて、
「実は、例の死体を発見したあの日だったんです。つまり、あの日は僕にとって、まず玲子さんから想定してはいたが、それ以上にその話を、玲子さん本人から聞かされてショックを受け、そして、そのショックの衝動から、デリヘルに初めて連絡を入れ、綾子さんと出会ったんです。しかもさらに最後の最後でエレベータ―の中で殺されている玲子さんを発見するという羽目に陥ったというような、波乱万丈な一日だなったんです」
 と秋月は言った。
――あの日の彼が、普通の初めてのお客さんの中でも、少し違って見えたのは、そんな理由があったからだったんだ――
 と綾子は一人考えた。
 確かに初めての客というのは、その時々で違った感情を持っているが、ほとんど想定内のことなので、綾子の方も、初めてをもらえるということで、いつもドキドキできて、えっ香嬉しいものである。
 秋月に対しても同じようにドキドキした感覚を与えられて、これ以上嬉しいと思ったこともなかった。
 だが、そこには、何かを絞り出すような感情があり、その絞り出す感覚を一緒に自分が味わってあげられることが嬉しさを有頂天にさせたのだった。
 その後の死体の発見ということで、事件への興味と言って、彼との連絡先を交換したのが理由だと言ったが、本当はそれがなくても、彼に対して、今までにないだけの感情を抱いていたことで、
――ぜひ、連絡先を交換できれば――
 と思っていただけに、殺人事件を目撃したということを理由にできたのは、嬉しいことだった。
 今までにも綾子は、
――このまま別れたくないな――
 と思ってはいたが、連絡先を交換したことがなかった。
 もちろん、店からの禁止要綱でもあったし、変な相手だったら、どうしようもないという思いがあるからで、ただ、後者の場合は、あくまでも、自己責任においてのことだという思いがあったのも事実だった。

                耽美主義

 綾子がこんなにも秋月に対して思い入れているのは、綾子の方だけの問題ではないような気がしていた。
――この秋月という男性は、女性を惹き付ける魔力のようなものを持っているのかも知れない――
 と感じた。
作品名:謎を呼ぶエレベーター 作家名:森本晃次