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謎を呼ぶエレベーター

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 そもそも、第一発見者が、被害者の義理の弟で、しかも、二人は学生時代からの知り合いだったということからして、とっかかりから、偶然というには、不思議に思える話だった。
 そこに持ってきて、被害者も、被害者の夫もお互いに不倫をしていて、旦那の不倫相手とは、二人は以前恋仲だったということが発覚してくると、どこまでが偶然でどこからが必然なのか分からなくなってくる。
 今回の事件がなければ、まったく接点がなかったはずの偶然が、一つの殺人事件で明るみになってくるというのは、偶然というよりも、殺人事件が結び付けた事実として、殺人事件そのものに、違った意味の「真実」があるのかも知れないと思えた。
 そう考えると、
「殺人の動機というものが、このあたりの複雑な恋愛関係にある」
と言ってもいいかも知れない。
 もちろん、それだけを事件の動機として絞り込んでの捜査は、
「見込み捜査」
 ということになり、事件を簡単に見てしまうことで、危険なところはあるだろうが、とっかかりとしての捜査では、まず、恋愛関係から当たるのが、一番の方法なのではないだろうか。
 そのことを一番感じているのは山崎刑事であり、今までの自分の刑事としての勘が、
「事件を一つに絞ってしまうのは危険だ」
 と言っているように思えて仕方がなかった。
 山崎刑事がそんな風に考えているのを他の捜査員が気付いているのかどうか分からないが、まだ事件の捜査は始まったばかりだということに違いはなかった。
 秋月は、綾子と連絡を交換していた。もちろん、本名、お互いのことを必要以上に詮索しないという条件であったが、綾子がこの事件が気になって仕方がないということからだった。
 この日、呼び出しを掛けたのは綾子の方からだった。綾子はこの日、デリヘルの方は休みで、昼間のバイトも三時までということで、そこから先は時間があるということだった。秋月も、その日は残業もない日だったので、仕事が終わってから、秋月の会社の近くで待ち合わせをしたのだ。
「いいんですか? 会社の近くで」
 と言われたが、
「いいんだよ、どうせ、皆僕のことなんか気にしているわけでもないし、見られたとしても、妹か何かじゃないかって思うだけだろうからね。どうせなら、彼女だって思ってくれた方が嬉しいくらいさ」
 ということで、秋月の会社の近くの喫茶店で待ち合わせをすることになった。二人が会うのはあの事件から初めてで、五日ぶりきらいのことだった。
 秋月が店にいくと、綾子はすでに来ていた。キョロキョロと店内を見ていた秋月に、綾子は手を振って答えた。
「お久しぶりです」
 と声をかけてくれたが、秋月は、おやっと感じた。たった五日しか経っていないのに、久しぶりというのはどういうことかという意味である。
 秋月の方からすると、五日というと、まるで昨日のことのように思えるくらいで、綾子はそれをどれくらいの感覚でいるのか、きっと毎日が充実しているからなのかも知れないと感じた。
 秋月が感じる日々の感覚は、少し不思議な感覚であった。
 一日一日があっという間の時は、一週間くらいの単位では結構長かったような気がするし、逆に一日一日が長かったと思うと、一週間があっという間だったりするのである。
 この五日間は、一日一日は結構長かったような気がしていたので、今から五日前の綾子とのことを思い出すと、あっという間だったように感じるのだ。
「あれから、何か事件の進展はありました?」
 と、いきなり事件の話をし始めた綾子に、一瞬冷めた感覚になった秋月だったが、その様子に気付いたのか、
「すみません、いきなり会って最初の会話で色気もないですよね」
 というので、
「いや、いいんだ」
 と答えたが、綾子の方が自分との接点を考えた時、事件が一番強かったことを思えば、それも無理もないことだった。
 でも、少なくとも男女が、久しぶりに(もっとも彼女が言っているだけだが)会った相手に対して、あまりにもそっけないという思いになったのは、男としては辛いところではないだろうか。
「事件の方は、今のところそんなに進展はないようですよ。僕のところにも最初に事情聴取されただけで、それ以降は何もないですからね」
 と秋月がいうと、
「じゃあ、お兄さんの方は? お兄さんは被害者の近親者なのだから、当然いろいろ聞かれたんでしょう?」
「まあ、そうですね。二階くらいは言っていると思いますよ。最初に被害者の身元確認だったり、その後の事情聴取だったりでね。でも、それ以上に葬儀などの手配もあったりするので、そっちの方が忙しいんじゃないかな? でも、綾子さんの方も、どうしてそんなにこの事件に興味を持っているの?」
 と秋月が聞くと、
「確かに私はミステリーが好きなので、興味があるというのが一番なんだけど、この事件の人間関係に興味があるんですよ」
 と、綾子は言った。
「どうしてなの?」
「私の家族も複雑で、この間の秋月さんの話を訊いていて、他人事のように思えないんですよ。きっと、それはお互いの家族の性格なのか、本性のようなものに同じようなものがあるんじゃないかと思ってですね」
 と綾子は言った。
「じゃあ、綾子さんの家族関係の中で、だれか浮気や不倫をしている人がいるということなのかい?」
 と秋月が聞くと、
「ええ、そうなのよ。それも皆隠しているわけではなく。不倫をしているというのは、公然の秘密のようになっていて。お互いを詮索しないということで、少しの不倫ならしょうがないということになっているようです。もちろん、金銭的な問題や、子供ができるなどという話は問題外なんですが、お互いに浮気性というか、気が多いということは気になっていたようで、それだけに相手の気持ちも分かるということで、お互いに相手に知られないようにごまかしながら不倫をするよりも、お互いにオープンな方がいいという考えのようなんです」
 という話を綾子から聞いて、
「それってどういう心境なんだろうね? 普通ならありえない感覚なんだけど、僕に言わせる、浮気を我慢できないくらいだったら、結婚なんかしなければいいと思うんだけど、違うんだろうか?」
 というと、
「でも、子供はほしいという話なんですよ」
 という綾子の話を訊いて、さらに分からなくなった秋月だった。
「それこそおかしいじゃないか。子供ができても不倫するということでしょう? 女性は身重の時は精神的に不安定になるはずだから、それを男の人は気にしないということなんだろうか? しかも子供ができても、子育て中にも、不倫をするということ?」
 と言われて、綾子の方では、
「私もよくは分からないんだけど、そのあたりは当然考えているんじゃないかな? お互いに気が多いわけだから、相手の気持ちも分かるわけでしょう? まあ、男と女の違いはあると思うんだけどね」
 と考えているようだが、
作品名:謎を呼ぶエレベーター 作家名:森本晃次