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催眠副作用

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 彼女は話を訊きながら、自分と同じように頷いていたが、つかさが自分を意識しているのに気付いたのか、急にこちらを見て、すぐに目を合わせたことから、思わず会釈をしてしまったつかさに対し、表情を変えることなく、頷いていた。語り手の先輩は二人のそんな様子を知ってか知らずか、気にすることもなく、話をしてくれた。
 それが、最初から決まっている口上だったのか、それとも先輩が二人の話を訊いて、率直に感じたことを話してくれたのかは分からない。だが、話の内容に信憑性を感じたのは事実で、少なからずの興味を覚えた。
 もちろん、入部するかどうかなど、その時に分かるはずもない。何しろストレスという言葉に反応し、ストレスという言葉だけの話しかしていないのだから、相手も最初から勧誘しようという意思があるのかどうかも、よくわかっていなかった。
「私は何となく興味を覚えたので、今日は時間がありませんが、また寄らせてもらおうと思います」
 と、弥生は答えた。
「私も同じですね。今のところは頭の中は白紙の状態です」
 とつかさは言ったが、つかさの意識としては、
――さっきの話は大いに興味があったが、自分が冷静に考えた時に、考えとして浮かんできそうなことでもあるので、「頭の中が白紙だ」という言葉になったんだ――
 という考えがあった。
 もちろん、その言葉をすぐに口にするのはおこがましかったので、せめて「白紙」という表現になったのだが、下手をすれば、あまり上品な言い方ではない。相手に、喧嘩を売っていると思われるかも知れないとも思ったが、正直な気持ちとして、これくらいの表現はつかさという人間の個性として、普通にあることだと思っていた。
 その証拠に、誰も不快そうな顔になっているわけではない。スルーされたのであればそれでもかまわない。その方が今日の段階ではいいのではないかと思えたのだ。
 何と言っても今日はまだ入学式初日、死期が終わって、大学というところがどういうところなのか、今日一日で分かるはずもなく、それだけに部活にしても、まだまだ聞いてみたいところはこれから出てくるだろう。
 入学前から決めていた人であったり、高校時代から続けていたことを、大学に入っても続けたいという思いのある人でもないかぎり、初日から部活を決める人はなかなかいないと思われた。
 学部と名前を記載しているので、連絡があるかも知れないが、この部活であれば向こうから連絡を取ってくることはないような気がした。ただ、興味があるのもウソではなく、それよりも、今日は、ストレスという言葉に興味を持った自分がどういう心境だったのかを、また後になって思い出すことがありそうな気がする瞬間だった。
 二人は挨拶をしてから、ブースを出たが、お互いにすぐに会話になることもなく、少しぎこちない瞬間があったが、弥生が笑ってくれたのを見て、つかさも緊張を一気に解いて、自分も笑った。今の間の緊張は、無意識の緊張ではなく、意識的な緊張だったのだということをいまさらながらに感じさせた瞬間だった。
「それにしても、弥生さんがあんなにしっかりした考えをお持ち何だと思うと、私はなんだか恥ずかしく感じられるくらいだったわ」
 とつかさがいうと、
「そうかしら? つかささんだって、ご自分の気持ちを話していたはずでしょう? 自分の表現方法に違いがあるだけで、あの人たちが言っているように、やっぱり感じていることは同じなのよ。そういう意味では、私たち、どこか気が合うところがきっとあるはずだと思うのよ」
 と言っていた。
 これはまさしく友達宣言と言ってもいいのではないだろうか。
「うんうん、これでお友達になれたという感じがするわ。私にとっての大学生活で最初のお友達。仲良くしてね」
 というと、
「ええ、それはお互い様よ。私にとっても最初のお友達ですからね」
 と弥生は言ったが、その弥生の言った「最初」という言葉は、
「大学に入ってから」
 という意味ではなく、今まで友達と言える人がいなかったことで、
「本当の友達になれる人ができた」
 と言いたかったのだろうと気付くのは、もう少ししてからのことだった。
 大学時代の友達というのは、大きく分けて二種類ある。
 いつも一緒にいて、自分の気持ちをぶつけ合いたいと思う人で、いないと寂しい相手であり、もう一つは、大学内でただ挨拶をするだけの、そんな相手なので、いないと寂しいとまではいかない友達である。
「ただの友達と、親友」
 の違いと言ってもいいだろう。より
 二人は、同じ文学部、いろいろ話をしてみると、共通の話題もあった。マンガやアニメ、ゲームなどよりも、読書などの本を読んだりするのが好きだという共通点には、お互いに嬉しい気分にさせられていた。
「やっぱり、想像力というものが、大切かというよりも、素直に楽しいと思えるところが私は嬉しいのよ」
 と、つかさがいうと、
「それは私も同じ。高校時代まで友達がいなかったのも、そのあたりのハードルがあったからなんじゃないかって思っているくらいなのよ。相手を求めないわけではないんだけど、どこか認めたくない自分がいるのも事実で、その気持ちを口にさせない自分に苛立ちを感じてしまうのよ。それが何か理不尽な気がして。変な意味での堂々巡りを繰り返していたような気がするわ」
 と弥生が答えた。
「だから、ストレスという言葉に反応したのかも知れないわね」
 とつかさがいうと、弥生は苦笑いをしながら、
「そうかも知れないわ」
 と言って、笑ったのだった。

              躁鬱の問題

 あれから数日が経ったが、つかさは挨拶をする程度の友達は何人か増えたが、一緒に行動を共にするような友達は、弥生だけだった。弥生も同じようで、
「いつも一緒にいるのはあなただけよ」
 と言いあって笑っているような仲になっていた。
 一緒にいるからと言ってどこに行くというわけでもない。そもそも同年代の皆が連れ立ってどこに行くのかなど知る由もなく、二人はたまに街に出てショッピングをすることはあっても、それ以外は馴染みのカフェに行って、会話に勤しむか、話題がなくなれば、お互いに今読んでいる本を読むので、別に時間を持て余すようなことはなかった。
 会話も、その時々で違っていたが、話題も漠然としている。漠然とした話題の中で、平気で二時間も三時間も会話できるのだから、想像力が旺盛だからなのか、それだけ気が合っていることで、一足す一が三にも四にもなるということだろうか。気が付けば、かなりの時間が経過していたなどというのは珍しくなかった。
 時間の経過というのはお互いに会話をしている時の共有完に満足しているのか、まったく気にならない。会話が途絶えることもほとんどなく、途絶える時は、話題に対して意見が出尽くした時であり、時間もいい具合に経過しているのだった。
 かと言って、いつも意見が一致しているわけではない。一つの話題に対して、結構違った意見のこともあり、そんな時は会話が白熱することで、却って気持ちが高揚してきて、相手の意見も耳に入ってくる。他の人に言えば、
「自分の意見を言い張れば、相手の意見を受け付けなくなるものなんだけどな」
作品名:催眠副作用 作家名:森本晃次