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催眠副作用

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 と訊かれて一瞬たじろいだつかさだったが、実はその横で今のセリフを聞いて、ムッとした表情に、もう一人の彼女がなっていたことに誰が気付いたであろう。
「あっ、いえ」
 としてしかつかさは言えなかった。
 もう一人の彼女ほど自分に度胸がないことに気づいたつかさは、その時から隣の彼女を見る目が変わってしまっていたことに気づいたのだろうか。
「とりあえず、こちらのノートに学部とお名前をよろしいですか?」
 と言われた。
 つかさは、警戒したが、ただ学部と名前を書くだけならと思い、迷いもなくそこに書いた。
 彼女も先ほどの豊かな表情はどこへやら、まったくの無表情でそこに同じように学部と名前を書いた。
「文学部:徳島弥生」
 と書かれたのを見て、
「同じ文学部ですね、よろしくね」
 というと、やっと表情を緩めた彼女はニッコリと笑って、つかさと握手をしてくれた。
「先ほど徳島さんにも話しましたが、あなたも何かご質問があれば、遠慮なくしてくださいね。答えられることであれば、お答えいたします」
 と言った。
――私にも同じことを言ったわ――
 というのが確認できるとつかさは、遠慮はなかった。
 先ほどの疑問を、ぶつけてみることにした。
「堪えられることには答えるということですが、答えられないことというのはどういうことなんでしょう? 質問によっては、答えてはいけないことがそもそも存在しているということでしょうか?」
 という質問に、相手はタジタジだった。
「いや、そんな深い意味はありませんよ。我々は訊かれたことで分かることが答えるという意味で、それ以外の何者でもありません」
 というではないか。
 それを聞いて、つかさは少し失望した。最初から伏線を敷いていたということよりも、まるでこのセリフがシナリオに書かれたものであるとすれば、何かを質問しても、ある程度までは答えが用意されていると思ったからだ。
 それならそれで悪いわけではないが、こちらの知りたいことを的確に答えてくれはするだろうが、それは期待していたことと本当に言えるのかどうか、それが疑問だったからだ。それよりも、自分にも彼女と同じような聞き方をしたということは、最初は、
「誰にでも同じ質問をするんだろうな」
 と思ったのだが、次第に違う感情を抱くようにもなった。
――この人たちは、誰にでも同じことを言うわけではなく、ひょっとすると、私も彼女と同類という目で見たのかも知れない――
 と感じ、さらに、
――もっと言えば、このサークルはどこか変わったところのある人でなければ興味を示すところではなく、この人たちだって、少なからず変わったところがあるはずなんだわ――
 と思ったことで、
――さっきも私の質問に対しての答えは、まるで教科書のような回答だったけど、それは本心ではなく、こちらに対して変に勘繰られないようにしているからではないのだろうか?
 と感じたのは、仕方のないことではないかとも思えたのだ。
「ところで、このストレスと、このサークルとはどういう関係があるというのですか?」
 と訊ねてみたが、このブースに書かれているのは、先ほどあった、
「ストレスをためていませんか?」
 という言葉を書いた板と、それとは別に、
「精神分析研究会」
 という、まるで学術研究をしているかのような。少し敷居の高さを感じさせ、人の足を遠ざける、そんな看板だけであった。
「ええ、私たちは、ストレスということが、一番精神分析と分野で、一般の人に馴染みのあることだと思っているので、ストレスを入門として選びました。逆にいうと、ストレスを抱えていない人なんて誰もいないということの裏返しでもあります」
 と、一人の先輩が言ったのだ。
「ストレスって、今まで嫌というほど感じてきたんですけど、その内容って漠然としているじゃないですか。何に対して感じるのか、どうして感じるのか、そして感じた時、どうすれないいのか分からない。もちろん、その時々で違っているし、でも、結局、頭の中から何かが出てくるのを感じる瞬間があって、そんな時、ストレスって解消されるんじゃないかなって思うことが多いです」
 と、弥生は言った。
 それを聞くと、部員の二人は顔を見合わせるようにして、
「なかなか驚きましたね。ここまでストレスというものを自己分析できている人の話は聞けませんからね。やはり受験生時代というのは、それだけストレスを真正面に受け止める時期でもあるんでしょうね」
 と、自分たちも受験生だったはずなのに、一年以上経ってしまうと、その時の感覚を忘れてしまうのか、それとも受験生の頃に感じたあの強烈なストレスを忘れるほどに、大学時代というのは楽しいものなのか、それとも、ストレスというものが、
「喉元過ぎれば熱さも忘れる」
 という言葉にもあるように、気が付けば忘れてしまっているものなのか、つかさにはそのどれが一番考えられるものなのか、分からなかった。
「そちらの。高橋さんはどうですか? ストレスというものにどうして興味を持ったんですか?」
 と訊かれて、
「私の場合は、弥生さんのように具体的なことはいえないんですが、大学受験で合格し、気持ちが次第に高ぶってきて、昨日の夜眠れないくらいに気持ちが有頂天を迎えて、今日の入学式に望んだんですけど、実際に入学式に望むと、『こんなものだったのかな?』って正直落胆のようなものがあったんです。そんな気持ちのまま、ここを通りかかると、ストレスという文字が見えたので、何か引き込まれるような気がしたので、覗いてみたという感じでしょうか? だから、ここに来る迄の状況はいえても、今の心境を説明するのは難しい気がします」
 と答えた。
「なるほど、お二人にはお二人の答え方があると思うのですが、でも、感じ方は同じだと思うんですよ。ストレスというものは、最初から存在しているものではなく、その時の状況に持って生まれた性格や考え方が絵狂して、そして生まれてくるものだと思っています。ただ、、生まれてくると言っても、まったくなかったものができるわけではなく、ストレスという箱のようなものは存在していて、そこにどれだけ蓄積されてくるかということなんですよ。実際にその箱にまったく何も入っていない時というのは、存在しないと思っています。まったくストレスがないのだとすれば、それは、いわゆる感情というものがない状態なんじゃないかと思えて、それこそ、記憶喪失であったり、鬱病に陥っていたりして、記憶や意識と絡み合う形で存在していると思っているので、逆にいえば、ストレスがないというのは、ありえないと思うんです。すべてが悪いものだとは言いませんが、自分の意識を蝕むものをストレスだと思っているのであれば、それは少し違っているんじゃないかと考えているんですよ」
 と、話してくれた。
 その話は、つかさには理解できた。つかさが考えるストレスに近いものがあると思うからで、思わず話を訊きながら、頷いていた自分を感じていた。
 最初の方は話に集中していたので、まわりを見る余裕がなかったが、途中から自分の考えに近いものを感じてきたことから、隣にいる弥生の方を気にしている自分を感じた。
作品名:催眠副作用 作家名:森本晃次