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動機と目的

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「いかに味をなるべく損ねることのないように、どれだけ賞味期限を延ばすことができる製品を開発できるか?」
 という問題が大きかった。
 それは製品自体にも言えることであったが、オオワダグループとしては、
「今までの原材料に変わる新しい人口の原材料の開発」
 というものがクローズアップされるようになった。
 そういう意味で、最初は大きなプロジェクトであったが、途中下火になっていき、少人数での開発を余儀なくされてきた、
「牛乳アレルギーでも、食べれる乳製品の開発」
 という問題が、再度、日の目を見ることになってきたのだ。
 清田健三を中心に開発が細々であるが進んでいた。実際に開発段階は終盤に差し掛かり、経費の問題さえなければ、試作品を作り、実験を重ねられるくらいにまで進んでいたのだ。ある程度の机上ではできあがっていて、後は、実験。実は、そこから先が製品化まではなかなか長い道のりなのだが、一つの区切りがもう少しでできるところまで来ていたのだった。
 ただ、思わぬ社会現象の急変によって、彼らの研究は、牛乳という特定のものだけではすまなくなった。
「これから、今までの牛乳アレルギープロジェクトは、今度、賞味棄権延長プロジェクトとして再編成を行い、会社としても、全面的にバックアップしていくことが決定した。これまでの小さなプロジェクトから、正式に新部署として立ち上げることになるので、そのつもりでお願いしたい」
 というない湯が、経営者会議で図られ、正式に部署として立ち上げが決定した。
 その名も、
「食品改造開発研究所」
 という正式部署である、
 そこの所長に抜擢されたのが、これまでずっとプロジェクトでの実績を買われた清武であったのは、言わずと知れたことであった。
 清武は、入社すぐは、研修を行った音、牛乳アレルギーに関しての仕事一本だったが、規模の縮小に伴い、普段は食品開発部の部員として所属しながら、牛乳アレルギー開発も兼任していたという中途半端な立場であったが、今度は正式な配属になったばかりか、そこでの所長に就任するという大抜擢には、驚いた人も多いだろう。
 清武はその辞令を甘んじて受けたが、ただ、一つ条件として、
「私は研究者としての立場を変えるつもりはありません。あくまでも、所長である前に、研究リーダーも兼任する形をお願いいたします」
 というものだった。
 それは会社としても、望むところだったので、彼の望みはすぐに受け入れられた。
 こうして、
「食品改造開発研究所」
 は正式に立ち上がり、会社の重要な新部署として、日の目を見ることになったのだ。
 最初の頃は、食品開発部から移籍という形で少しずつ部員を増やしていたが、次第に外部からの募集を掛けたり、引き抜き部門の人たちも、回想開発に絞って人員を精査するようになってきた。
 新入社員などと違って、他の会社からの引き抜きなどは結構難しいところがあったが、今では他の会社でも行っている引き抜きに比べると、オオワダグループは歴史があるので、そのあたりは有利だった。
 研究員はある意味、
「売り手市場」
 であった。
 今までは会社に縛られる形が大きかったが、今は会社の方から歩み寄ってくる形で、
「思っている条件にそぐわなければ、別の会社に移籍すればいい」
 と考える人が増えてきたのだ。
 会社としても。開発者を養うというのは難しいことだった。営業社員や事務系の社員であれば、ある程度相手の気持ちを推し量ることは社会人として普通にできるであろうが、開発者というのは、いわゆる、
「偏屈」
 と呼ばれる人も多く、自分の理想や下手をするとわがままと呼ばれることも言い出すような人も少なくはない。
 自尊心が強く、プライドの高さとライバルに負けたくないという気持ちも営業などとは違う意味で強いだろう。
「会社のために」
 という考え方よりも、すべては自分のため、それも自分の名誉欲が強いので、えてして金銭の問題ではないだろう。
 会社トップの人の中には、
「何かあったら、金で解決すればいい」
 などという楽天的な考えを持っていると、大きな損をしてしまう。
 特に研究員にそんな姑息な考えを見透かされでもすると、すぐに見切りをつけられ、金銭では解決できないことを、その期に及んでも理解できない会社役員などがいる会社は、次第に没落していくことになるだろう。
 ある意味では、この時期は、業界再編と言われた時代でもあった。
 今まででは考えられないようなことが起こったバブル崩壊を思い出される時代であり、こういう業種ごとの再編というのは、目立たないが、毎年のように、どこかの業種で起こっていることなのかも知れない。
 だが、
「食の安全」
 のように、すべての国民に栄養を及ぼすような事件が元となっての業界再編は、何かの形を示さない限り、事件として終結はしないのだ。
 それを思うと、これからの時代、いかに先んじた開発が見られるか、大きな問題になることだろう。
 清武所長が就任してから、開発部では、いろいろな改革が行われた。それを行ったのは清武所長ではなく、別の会社から引き抜きにあった副所長に就任した、波多野祐介氏であった。
 波多野氏は、洋菓子関係の老舗ともいうべき会社で、総務部長をやっていた。
 最近の、
「食の安全」
 に関しての考え方が、幹部連中と大きな隔たりgあり、お互いに歩み寄ることのできない大きな溝ができてしまった。
 そのことを突き止めた引き抜き専門員が密かに波多野氏の考え方と、相手会社の考え方の隔たりがどこにあるのかを調査し、波多野氏がオオワダグループにふさわしい考えを持っていることを理解したことで、急接近したのだ。
 接近してから、移籍を決意するまで、さほど時間が掛からなかった。
 すでに波多野氏は、年齢的に五十歳を超えているので、それなりのポストを用意するつもりでいたオオワダグループだったが、彼が提示した条件は、
「改造開発研究所に携わるポスト」
 というものであった。
「所長はすでに決まっている」
 というと、
「副所長のポストで十分」
 ということもあって、一気に移籍が決定したのだ。
 そもそも、彼が元の会社で幹部と揉めたのも、
「他の会社のように、食品改革に重きを置いた部署を独立させて、自分がその部署のトップに立ちたいからだ」
 という意思があったからだった。
 波多野氏は、その意識を幹部との経営者会議で力説はしたが、他に漏らすことはしなかった。それだけに、その事実を知っているオオワダグループが恐ろしいとも感じたが、そこまで自分を必要としていることの表れであることが分かっただけに、大いにオオワダグループに興味を持ったのだった。
「こんな会社は、今までに見たことがない」
 と、波多野氏にして思わせるほどであり、オオワダグループに、残りの人生を掛けてみるのも悪くないと思うのだった。
「所長に就任するのは、我が社の生え抜きで、元々小規模な食品開発を行ってきた人物なのだが、まだ年齢は三十代前半と若いが、我々がもっとも信頼している社員なんだ」
 ということを聞いても、
「なるほど、御社がそこまで期待されている人物というのがどういう人物なのか、会ってみたいものですね」
作品名:動機と目的 作家名:森本晃次