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動機と目的

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 捜査主任は、辰巳刑事が帰ってきたところで、山崎刑事の先ほどの話をもう一度、話してみた。すると辰巳刑事は大いに興味を持ったようで、
「なかなか面白い発想を聞かせてもらいました。私も実は似たような意見を持っていて、それがさっきに私の推理にも結び付いてくるような気がするんです」
 と言った。
「どういうことかな?」
 と捜査主任は身を乗り出すように言った。
 こういう時の辰巳刑事は、普段は自分だけの意見しかなかったり、自分の意見を裏付けるような話が捜査本部で浮かび上がってこなかった時は、まったく何も言わずにその場を終わるのだが、他の人の意見であったり、証拠が自分の意見を裏付けてくれるようになれば、急に有頂天になって考えていることをいうことがある。
 それもまくし立てるように話すことが多く、一度では理解できないこともあるほど、細かいところまで分析できていて、舌を巻くことがあった。
 ひどい時には、辰巳刑事自体が、頭の中で整理できておらず、話を訊きながらまわりが確認することで、話の骨格が整ってくることも多く、そのおかげで、事件が解決することが多かった。
 しかも、あくまでも推理だと言っていたことが真相だったりするから恐ろしい。
「ひょっとすると、辰巳刑事というのは、犯罪推理が真相を捻じ曲げてしまう力があるんじゃないか?」
 まどというオカルト的な発想をして苦笑してしまうこともあるくらいだった、
「まず、私が大いに興味があって、だけど、いまだに真相に近づけないでいるのが、動機ということなんです」
 と辰巳刑事が言い出した。
「動機……ですか?」
 と山崎刑事は訊ねた。
「ああ、動機なんだよ。殺された波多野千晶、そして不倫相手と目されている阿佐ヶ谷課長、しかもこの二人はすでに破局を迎えているというではないですか。もっとも付き合っていたとして、心中なら分かりますが、どうして殺されなければならないのか、しかも、分からないように殺害するどころか、まるで会社の人間に見せびらかすようにして発見させる。そこに何の意味があるのかということですね。発見させることが目的だったとすれば、動機は怨恨や復讐、少なくとも金銭的な問題などではないですよね」
 と辰巳刑事はいった。
「それは俺も思っていたんだ。一体何を目的に殺害したのかということですよね? 二人の接点となると、どうしても不倫ということになるんでしょうけど、別れている二人ですからね。ひょっとすると、誰かの秘密を握ったために殺されたのかというのも言えるんじゃないでしょうか?」
 と山崎刑事がいうと、
「だったら、なぜ同じタイミングで殺したんでしょうね? 一人一人殺す方が確実に殺害計画を立てられるというもので、一緒に殺す必要もないですよね。それを一緒に殺したというのが、今の意見からするとありえない気がするんです。だったら、二人に対して別熱に殺害動機を持っている人が殺したとも言える。だが、一緒に殺すには何かそれなりにメリットだったり目的があるのではないかと思ったんです。そこで気になってくるのが、凶器の問題です」
 と辰巳刑事が言った。
「女は刺殺であり、男は絞殺だったということだね?」
 と捜査主任が訊いた。
「ええ、そうです。たぶん、殺害のタイミングは別々だったと思うのですが、正直私が最初に波多野千晶が殺されたのが別の場所だと感じたのが、このことだったんですよ。違う凶器で殺しておいたということですね。でも、男が最初に殺されたのであればそれも分かるんですが、どうやら、辻褄を考えると、女が先に殺された気がするんですよ」
「どういうことだい?」
「女は即死だったのは分かります、表情に変化がありませんでしたからね。でも男の表情はあきらかに歪んでいました。その表情は首を絞められて苦しんでいるという断末魔の表情でありながら、よく見ていると、怯えや驚くも感じられるんです。検視の結果で男は後ろから首を絞められています、犯人の顔を見ていない可能性があるような気がするんですよ。そうなると、被害者は何に驚いたのかということになりますよね? 目の前で女性の死体が転がっていればどうでしょう。阿佐ヶ谷課長に死体を見せつけておいて、視線をそこに釘付けにしておいて、後ろから近づいて首を絞める。そう考えた方が辻褄が合いますよね。そして、どうしてナイフを使わなかったのかというと、ナイフを抜き取ると血が飛び散るからです。波多野千晶の死体が血まみれだったら、せっかく他で殺されたかも知れないというトリックが使えなくなる。だから首を絞めて殺したんでしょうが、さてこうなるともう一つ気になることがあります。果たしてその時に死体が一体だったのかどうかということです」
 と辰巳刑事はおかしなことを言い始めた。
「ん? よく分からないが」
 と捜査主任がいうと、
「ここからは私の本当に空想にすぎません。あまりにも飛躍しすぎていて、自分でも怖いくらいの発想なんだということをまず、断っておきますね。さて、波多野千晶をナイフで殺害した犯人は、本当に殺したい相手は波多野千晶だったんでしょうか? 彼女に深い関係のある人物の抹殺を目論んでいたと考えると、いまだに表に出てこない人物が気になってきませんか? ええ、そうです、波多野千晶のお兄さんである、波多野副所長の存在なんです」
 と、ここまでくると、皆話についていけないとばかりに、誰も何も言わなかった。
 捜査員の中には、ポカンとバカみたいに口を開けたまま、閉めるのを忘れているくらいで、ただ、その場に佇んでいるだけだった。
 辰巳刑事は続ける。
「私が、この事件の大きな問題として、動機ではないかと先ほど話をさせていただきましたが。それがここなんです。つまり、本当に殺したかった相手は誰なのか? 本当ン波多野千晶なのか、それとも阿佐ヶ谷課長なのか、そしてその動機は怨恨なのかということですね。二人の間に怨恨があるとすれば、それは二人が不倫をしていたが、別れたという事実を知らなかった人ということになる。つまりは、付き合い始める時は相談を受けたが、別れる時には相談されなかった人物、そうですね。千晶にとって、最初は信用できたけど、信用できなくなってしまった人物、その人が怪しい。じゃあ、なぜ二人は別れることになったのか、それを探ってみると、どうやら、誰かが阿佐ヶ谷課長の奥さんにチクったことが理由だったようです。奥さんは当然激怒する、阿佐ヶ谷毛は修羅場ですよね。阿佐ヶ谷は養子だったこともあり、奥さんには頭が上がらない、不倫のような火遊びで到底自分の人生を壊すわけにはいかない。つまりは、よくある結末だということでしょうね」
「なるほど」
 と山崎刑事は頷いた。
作品名:動機と目的 作家名:森本晃次