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動機と目的

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「さて、まず私が気になったのは、波多野兄妹のことでした。二人は、兄がこの会社に入社した痕、洋菓子やスイーツの研究がしたいという妹の意を汲んで、この会社に入社させたということでしたが、どうにも都合がいいような気がしたんですよ。しかも、そんな彼女を所長の清武氏が見初める形で、一気に気に入って、秘書にまで使おうとする。確かにこの事件では、偶然のようなことは多いような気がするんですが、人間の都合での偶然は少ない気がしました。そこで、何かここには意味があるのではないかと思ったんです。だけど、もし二人が関係があるとすれば、今回の事件の結末はおかしいですよね? でもこれを誰も疑う人はいませんでした。なぜなら、阿佐ヶ谷課長と波多野千晶が不倫をしていたというウワサも実際にあったからですね。これはフェイクなのか、それとも何かの保険でそういう事態になった場合を考えてあらかじめ流しておいたのではないかとも思いました。ひょっとすると、本当に不倫をしていたのかも知れない」
 と辰巳刑事は言った。
「よく理解できないのだが」
 と、捜査主任がいうと、
「要するに、この事件において、阿佐ヶ谷課長の存在というのは、事件の渦中にいるというだけで不思議な存在だったわけです。どうして彼があの場所で殺されなければいけなかったのか、見た目は二人が一緒にいて、二人に何かを見られたかも知れないと思って殺したという事件ではないんです。あくまでも計画された事件だと考えると、犯人が本当に殺したかったのは、千晶だったということになる。だとすれば、阿佐ヶ谷課長はただ巻き込まれただけということになるのか? と考えると、千晶が刺殺で、阿佐ヶ谷が絞殺だったことでそれも違うような気がする。そう思うと、阿佐ヶ谷の死体自体が何かのカモフラージュではないかと思ったんです。事件はおのずと千晶の殺害現場に目が向いてしまいますよね? 死体を動かしたかも知れないという疑惑、得体の知れない液体がばらまかれていて、さらに大根おろしまで巻かれていた。いかにも不思議な状況がてんこ盛りの千晶の死体に、捜査の目は集中してしまう。千晶の死体への疑問が解けたところで、やっと阿佐ヶ谷課長の死体の捜査になるはず。でも、なかなか捜査が進まないでしょうね。そもそもカモフラージュが阿佐ヶ谷の死体の方にあるのだから、そうなると、堂々巡りを繰り返し、真相に辿り着くことなどできるはずがないというのが、犯人の目論井だったおではないでしょうか?」
 と、辰巳刑事が推理をした。
 それを聞いて、まわりは誰も声を出す者もいない。捜査主任も黙り込んでしまって、辰巳刑事を見つめるしかなかった。
 そして、辰巳刑事は続けた。
「この事件のカギとして、『死体はどこから? どこへ?』という言葉が何かを暗示しているような気がして仕方がないんです」
 という謎めいた言葉を発した。

              真相へ近づく

「いまいちよく分からないんだが、詳しく教えてくれないだろうか?」
 と捜査主任が辰巳刑事に言ったが、捜査主任も辰巳刑事の性格をよく分かっているので、あまり強くは言えない。
 辰巳刑事はたまに、このような謎めいた言葉を口にすることがある。それは自分の考えがある程度まとまっているから言えることであって、だからと言って、確証を示せと言われると示すことのできないものである。あくまでも辰巳刑事の頭の中で構成された推理というだけなので、そんな確証のないことを、ハッキリと口にできる性格ではないのだ。
 だが、思っていることを口にしないと気が済まないのは、自分の中に自信として持っておきたいという気持ちであって、まわりから見ると、どこか矛盾があるように感じるのだが、少なくとも捜査本部にいる面々には、辰巳刑事の性格はよく分かっているのであった。
「まあ、そのうちに考えを言いますよ」
 と辰巳刑事ははぐらかしたが、ここまでがいつも辰巳刑事のいうところの、謎に対しての答えのようなものだった。
「何となくだけど、『入らなければ出られない』という言葉に似ている気がしますね」
 と言ったのは、山崎刑事だった。
「少し違うような気がするが、路線は間違っていないと思う。入らなければ出られないというのは、逆にいえば、出なければ入れないというのと同じ意味だろう? 要するに定員は決まっていて。今はちょうど満員なので、出ないと入れないのさ。でも、先に入ってしまうと、押し出される形になるから、結局が出されることになるんだけど、自分から出るのか押し出されるのかの違いはある。言葉が似ているからと言って、この言葉のように、それによって生じることが違っても、最終的に同じことだってあるということさ。でも、俺が言ったのはそうではない。どこから? どこへ? というのは一つのことではないんだ。つまり、さっきのことと同じで、どちらかに作為が働いていれば、もう片方も作為が働いているということさ。今回の事件のように、最初我々が考えたのは、千晶がどこ他で殺された、運び込まれたのではないか? ということだっただろう? ということは、阿佐ヶ谷に関しても同じことが言えるじゃないかと思ってね。それも作為があってのことだよ。それは殺害現場が他だったということを暗示させたいがためのものではなく、別に目的があるんじゃないかと思ってね。そう思わせるために、千晶の死体が他から運ばれてきたかのように見せたのではないかと思ったのさ。もし、あの時に、俺たちが、あの部屋がオートロックのような密室ではないかと言った時、犯人が訊いていたとしたら、やつはニンマリしていたんじゃないかと思うくらいさ」
 と辰巳は言った。
「ということは、そもそも我々が考えた下を運びこんだと考えたことは、犯人によってミスリードさせられたということか?」
 と山崎刑事がいうと、
「そういうことも考えられるということさ。俺はずっと死体が他から運ばれてきたことに何の意味があるんだろう? って考えていたんだ。でも、その結論が出てこない。出てこないのであれば、あれがフェイクだと考えて、犯人がわざと俺たちをミスリードするためだと考えると、別の考え方が生まれてくる。それがさっきの、『死体はどこから? どこへ?』という暗示になるんだよ」
 と、辰巳が説明した。
 捜査主任も、ハッキリと分かりかねてはいたが。言いたいことは分かるような気がした。辰巳の頭の中を垣間見た気がした捜査主任は、それ以上余計なことを考えない方がいいと思うほどになった。このまま辰巳刑事い考えさせておけば、必ず道は開けてくると、捜査主任は考えた。
「辰巳君は、ある程度まで事件の概要が分かってきているということなのかな?」
 と山崎刑事が聞くと、
「そこまではいってないですよ。でも今回の事件は、普段と違って全体からだけ見ていては解決できない気がしたんです。そうなると、どこかをピンポイントで見なければならない。俺はそれを、先ほどのキーワードに求めたというわけさ。そこから見えてくるものと、全体から見た時に見えてくるものが、どこかで重なれば、そこから繋がってくるものが見えてくる。それが光明なんじゃないかって思うんだ」
 と辰巳刑事は言った。
作品名:動機と目的 作家名:森本晃次