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動機と目的

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「だけど、彼女はすぐに引き下がるわけにもいかなかった。少しは修羅場にもなったことでしょう。ただ幸か不幸か、波多野千晶は、すでに阿佐ヶ谷課長に飽きが来ていた。別に執着するつもりはなかったが。奥さんに対して恨みごとの二ッ谷三つは言わないと気が砂ない。どうせ引き下がるつもりなので、修羅場になったとしても、本気ではない。私はそれを奥さんに確認してみましたが、奥さんも実は彼女の本心を見抜いていたようです。そえでもわざと修羅場を演じたのは、自分を裏切った旦那に対しての恨みと、また不倫をしたら二度と許さないという意思表示だったんでそうね。そんなことがあって、奥さんと千晶さんは仲良くもなったようです。昨日の敵は今日の友というではないですか。それと同じ感覚ですね。だから、阿佐ヶ谷課長の奥さんは犯人ではありえないんです」
 と辰巳がいつと、今度は捜査主任が、
「うーん」
 と頷いて。
「じゃあ、今の話のチクった人が怪しいということになるのかな?」
 というと、
「そうですね、今のところ動機を持っているのはその人、その人間は誰を殺したかったのかというのを考えてみると、どうやら、波多野副所長だったようです、ただ、波多野副所長の死体がそこにあると、自分が一番に疑われる。だけど、そこにあるのが不倫相手だったとすれば、話は変わってくる、自分はあくまでも蚊帳の外ということになるんでしょうね」
 ここまで言うと、山崎刑事も黙っていなかった。
「ということは、今行方不明になっている波多野副所長は殺されているという可能性が高いということなのかな?」
「ああ、僕はそう思っているんだ。だから、さっきも言ったように、『死体はどこから? どこへ?』というキーワードが出てくるのさ。つまりは、最初考えていた波多野千晶の死体がどこかで殺されていて運ばれてきたのではなく、逆にここで殺された人間が、他に運び出されたことで、被害者は実は二人ではなく、三人だったのではないかという考え方なんだ。それを考えれば、阿佐ヶ谷課長の怯えともいえる表情の説明もつくし、凶器をどうして女はナイフで、男は絞殺だったのかということも分かる。犯人としては、あくまでも、波多野千晶が他で殺されてここに運ばれてきたということを強調したかった。ただ、それにはもう一つの意味もあるんだ」
「もうひとつ?」
 と山崎が聞くと、
「ああ、あの部屋がオートロックのような仕掛けになるので、もし、他から死体が運ばれてきたのだということになると、仲から扉を開けるために協力した共犯者を必要とするということだよ。つまり、他から死体が運ばれてきたということを強調したいのは、共犯者の存在を警察に印象付けたいという思いが強いからではないかな?」
 と辰巳刑事がいうと、
「あっ」
 という声が漏れた。
「なるほど、ここで共犯者の存在があるとすれば、不倫関係にある男女が殺されているので、お互いにどちらかを殺したいという二人の利害が一致したという捜査方針になり、動機はあくまでも、不倫の男女に対しての恨みということに固まってしまう可能性が高いですからね。犯人はそれを狙ったということかな?」
 と山崎刑事がいうと、
「その通り、その考えが一番しっくりくると思うんだ。現に我々だって、動機はそのあたりにあるという感覚で捜査していたはずなんだ。逆に他に動機があるとすれば、パッとは思いつかない。ましてや、波多野副所長の死体が発見されなければ、また別の見方がでてくる」
 と辰巳刑事がいうと、
「うんうん、その通りなんだ。なんて頭のいい犯人なんだ」
 と、山崎刑事は感心している。
「どうやら山崎君にもピンとくるものがあったようだね。そう、犯人にとってのも一つの目的は、本当に自分が殺したかった相手を行方府営にすることで、その人が実は犯人で、身を隠しているんじゃないかと思わせるところにあるんだ。そのために、波多野千晶が不倫をしていた相手を殺害するのが一番いい。可愛い妹を不倫という形で弄んだ相手を殺すというのはあり得ることだからね」
「でも、千晶まで殺すことはないのでは?:
 と山崎刑事が聞いたが。
「そこはよくわからないのだけど、犯人の中には、『可愛さ余って憎さ百倍』という気持ちがあったのではないかな? 波多野副所長がそういう気持ちでいただろうという思いだね。しかもその思いは犯人が波多野千晶に向けていた思うとしても考えられることであって、そういう意味では被害者と犯人の気持ちはある意味で一致していた。だけど、それだけに犯人には波多野副所長の気持ちがよく分かったんだろうね。そのために、殺しまで計画してしまったと言えるのではないだろうか?」
 と辰巳刑事は言った、
「じゃあ、犯人の真の目的、動機というのは何なのだろう?」
 と山崎刑事が言ったが。
「今、山崎君が言った言葉が、実はこの事件の神髄ではないかとも思うんだ。つまりは、犯人の真の目的というものが、果たして動機だと言えるかということを私は考えているんだ」
 と不思議なことを辰巳刑事は言い出した。
「ん?」
 当の山崎刑事も、ピンときていないようだ。
「犯人の目的というのは、表に見えている殺害の状況を裏付けるものであって、動機というのは、最初は小さなものであるけど、次第に膨れ上がって、相手を殺さなければ気が済まないというところまできた場合ですね。つまり、動機というものが、膨れ上がって形になって、初めてそこから殺人計画に入る。そこからが、犯人にとっては動機が目的に変わってくるのが、普通の場合の殺害の敬意なのだろうけど、ひょっとすると、これは本当に妄想の域なんだが、犯人が動機が確定して、目的に変わった時点で、動機という概念が消えてしまったとも思えるんだ。殺害目的だけが残ってしまって、当初の動機がなくなっているので、そこから少しずつ変化していっても、本人には分からない。だから、この事件の計画は実によく寝られているんだけど、その分、一か所に何か穴が見えると、そこから発覚することは大きくなってくるのではないでしょうか?」
 と辰巳刑事は言い始めた。
「殺人の目的と動機が違ってきたというのは、考えたこともない発想だね」
 と捜査主任がいうと、
「それはそうでしょう、証拠として採用されるのは、きっと目的であって、それを動機だという裁判になってしまう。それはすべてが同じだからであって、誰も疑わない。ひょっとすると、この犯人には分かっているのかも知れないと思うんですよ。もう殺害の時には自分の中に動機はないんだってね。そう思うことで、ある意味、形式的に殺害計画に忠実になれたのかも知れない」
 と、辰巳刑事は苦虫を噛み潰していた。

              大団円

「じゃあ、一体どういうことになるんですか?」
 と山崎刑事は呟いた。
作品名:動機と目的 作家名:森本晃次