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動機と目的

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 もちろん、恋愛感情ではないことは分かっている。だが、そもそも恋愛感情とはどんなものなのか分かっていないので、
「分かっている」
 と言って、しまっていいものなのだろうか?
 そんな千晶の心の動揺が清武には分かっていた。
「何か言いたいことがあれば、いくらでも聞いてあげよう」
 と言っていつもねぎらっている。
「彼女は、言いたいことが山ほどあるに違いないのに、言う相手がおらず、それが彼女の悲劇なのかも知れない」
 と、清武は感じていた。
 その感情を、清武は知っていた。
 大学時代などは、あまりにも自分の発想が奇妙だったため、
「いや、奇妙だったというよりも、まわりがついてこれないだけで、奇妙でも何でもないことなのにな」
 と思いながらも、まわりに誰もいないことを悩んでいた。
 それは、一部の人間にしか分からない感情であることは分かっていたので、
「どうせ他の人に俺の悩みなど分かるはずもない」
 と感じていた。
 清武は、自分のことを天才肌だと思っていたので、
「天才とは孤独なものなんだな」
 と感じていた。
 だが、千晶が入社してきて、彼女を見た時、
「自分と同じ匂いを感じる」
 と思った。
 その感情は、好きになった人に対して感じるものではなく、あくまでも同類としての感覚で、ひょっとすると、恋愛感情を抱いた人が目の前からいなくなるよりも、彼女がいなくなる方が辛いかっも知れないと感じた。
 恋愛感情程度でしか結び付いていない相手であれば、簡単に別れることもできるが、なかなか自分にあるものを持っている人がいないと思っていることで、それを持っている人間が目の前に現れると、その人が自分の前からいなくなるという感覚は、ないのではないかと思うようになっていた。
 波多野千晶はそんな自分の心の隙間を埋めてくれる存在であり、しかも、その存在の大きさは、研究であったり、学術的な面でもサポートしてくれる相手であるのは、公私ともに一緒にいるような錯覚を覚えるくらいであった。
 そんな思いは相手の千晶にもあるようで、
「同じ匂いがする」
 という感覚は彼女も持っていた。
 しかも、二人は知らなかったが、その感情を抱いた時というのは、ほぼ同時期で、気持ちが引き合うくらいの距離だったのではないだろうか。
 兄には感じることのできない思いだったのだ。

           死体はどこから? どこへ?

 その日の状況で分かったことというとそれだけのことであったが、実は肝心で決定的なこと以外であれば、この日の状況で、大体分かるくらいだった。
 それは、事実というだけではなく、刑事たちが想像していることや、清武の理解している状況も含めてという話であるが、後は別に何かを隠しているというわけではなく、まだ捜査がそこまで追いついていないだけというだけで、ほぼ、全体の七割くらいは、表に出てきていることではないだろうか。
 不思議なこととして残された課題も、一つの情報として考えれば、決して解明できないわけではない。それぞれの事柄をその周辺だけに絞って見てしまうから、見えるものも燃えなくなる。それはきっと、目の前のことを見落としがちという、
「灯台下暗し」
 という発想から来ているのかも知れない。
 これを積み木を組み立てるように、一から考えていくか、将棋のように、最初の隙のなさをどんどん狭めていくかということでも決まってくる。積み木のように一から積み重ねる場合は、意外と難しい。何が難しいのかというと、完成品に近づいていけばいくほど、そのスピードは鈍くなり、しかもゴールには、双六のように、ピタリと止まらなければ終われないというルールであれば、
「百里を行く者は九十を半ばとす」
 という言葉が示すように、最後まで気を緩めないという意味のことで使われるが、最後が難しいということも示している。双六ゲームなどでも、ピタリとゴールまでの目が出なければ、また後戻りして、堂々巡りを繰り返すこともある。この事件も、案外そういう事件なのかも知れないと思った。
 だが、逆にいえば、何かきっかけになる事実が見つかれば、最後のピースがピタリと嵌り、できなかったパズルが完成することだろうことも大いにあるのだ。
 この事件はまさしくそのどちらにも言えることであり、ゴールが見えたとして、それが本当のゴールなのか、考えさせられてしまう。
 別の考え方をすれば。不思議に思う部分はまったく違っている単独の部分だとどうしても思ってしまうのは、単独で考えるから不思議だと思うということを感じていないからではないだろうか。頭では理解しているつもりなのだが、本当にそうなのか、どこまで突き詰めればいいのか、考えさせられてしまう。
 ただ、何から考えればいいのかが難しい。
「タマゴが先かニワトリが先か」
 というような、どこを切っても同じところに戻ってくるというような発想が果たしてこの事件では有効なのかどうか、それも難しいところである。
 たとえば、一番の疑問である、
「あの白い液体は何のために使われたのか?」
 と考えると、激臭を醸し出すことで、毒薬か劇薬を思わせ、捜査を遅らせようとしている意図が感じられたが、果たしてそうなのか、確証があるわけではない。
 だが事実として、捜査が遅れたのは周知のとおりであり、それが何らかの思惑を秘めていると考えられる。そうなると、一緒に撒かれていた大根のろしにも何かの意味があるようにも思えるが、大根おろしの効果は、シミ抜きである。死体の血液のシミを取ることから、
「死体がどこかから運ばれてきたということを隠蔽したいという思惑がある」
 と考えられる。
 だか、科学捜査をすれば、ここにどんな薬品が使われているか、大根おろしの存在だって分かるはずだ。ここまでの激臭があるのだから、それはまるで警察に、
「毒薬かどうかの捜査をしてくれ」
 と言っているようなものである。
 ということは、そこに作為があるということか? 何のために?
 と考えさせられてしまう。
 さらに、ここに転がっている死体の殺害方法である。片方はナイフで刺され、もう一人は首を絞められている。まるで、
「犯人は別にいる」
 と言わんばかりである。
 さらに、ナイフは見つかっているが絞殺された凶器は見つかっていない。ナイフがその場にあったのは、血が噴き出さないようにするためだと言えば説得力にはなるだろうが、じゃあ、絞めた凶器も一緒にその場にあってもいいはずだ。それがないというのは犯人が持って行ったのか、それとも、この殺人だけは、計画になかったことで、犯人がパニックになり、行動パターンが変わってしまったのかなど、いろいろと考えることが可能であった。
 ここまでが一つの括りになるかも知れない。
 今は死体が発見された翌日の、夕方の捜査会議の中でのことであった。
 その日の捜査を締めくくる形で、実際には捜査はまだ行われていたが、その日に分かったことをおさらいする意味での、その日のいわゆる締めくくりの会議だった。
 その日の捜査で分かったことは、前日に比べてほとんどなかった。前日でほぼ出尽くしたと言ってもいいくらいで、とりあえず、会議は開催された。
作品名:動機と目的 作家名:森本晃次