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動機と目的

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 そこに生まれた矛盾やジレンマが、無理に繋がって、せっかくの半歳をほころばせてしまう。 犯罪というものが生き物のようなものだとすれば、必ず犯行の発案者との相性があるはずだ。それが少しでもずれてしまうと、完全犯罪というものは生れてこないであろう。
 さらにもう一つ同じ時に判明したことがあった。
「女性の側の死因なんですが、解剖してみないと何とも言えませんが、確かにショック死ではあります。しかしそれはナイフを刺されたことによる出血多量のショック死ではありません。なぜならナイフは抜かれずに刺さったままですよね。大量に出血したわけではないと思っていたので、私の方でおかしいと思って調べてみました。すると、同じショック死でも、実は彼女は、アナフィラキシーショックを起こしていたようです。つまり、アレルギー性のショックを受けたということですね」
 という話であった。
「ということは、あの白い液体に、何かアレルギー性のショックを起こさせる何かが含まれていたということでしょうか?」
 と鑑識に話すと。
「そうかも知れませんね。でも、犯人は彼女に何かのアレルギーがあることを知っている人ということになるでしょうね。もっともこういう研究所なので、アレルギーに関してはかなりの注意が必要なはずです。それなのに、ここで働いているということは、食物性をアレルギーではない可能性もありますね」
 と、鑑識は言った。
「なるほど、そういうことになると、あのナイフというのも怪しい気がしてきましたね」
 と辰巳刑事が言った。
「どういうことですか?」
 と鑑識が訊きなおす。
「だって実際の死因はアナフィラキシーショックなんでしょう? ということは犯人はアナフィラキシーショックによる殺害を最初から計画しているとすれば、何も後からナイフを使う必要もない。何よりも、どうしてナイフでカモフラージュしなければならないんですか? そのまま死因はアナフィラキシーショックだと特定されても、また特定されずに謎の死ということにしておいてもいいわけですよね? なぜわざわざ、ナイフを突き刺したんでしょうね?」
 と辰巳がいうと、
 山崎刑事が口を挟んだ。
「だって、ナイフで殺したということにしなければ、彼女は殺されたことにならない可能性がある。事故ということで片づけられると、犯人には困ることがあったんじゃないですか? ひょっとすると警察が男を殺したのはオンナで、女はその後に自殺をしたという結論になるかも知れないし、ひょっとすると保険金の問題があるかも知れない」
 と言った。
「殺人の動機がどこにあるかというのが一つの難しい問題になっていることは確かであるが、一つ一つ謎を解決していくしかないのかな?」
 と辰巳刑事はそう言った。
 殺人現場の問題。殺害時刻をカモフラージュしようとしたこと、大根おろしによるカモフラージュ。他にもいろいろあるが、このそれぞれまったく独立しているかのように見える現象が、どこかで一つに繋がっているとすれば。どこから謎解きを始めるかによって見えてくるものが違うのかお知れない。
「パズルというのも、最初は面白いようにできてくるが、どこか一つを間違えると、最後には合わなくなってしまう。どこから間違えたのかを言及し、追求しなければ、答えを導き出すことはできない。だから、犯罪捜査お、ピースがたくさんあれば、それだけ可能性もたくさんあることになり、余分なピースが紛れ込んでいても、間違えて嵌めてしまうと、最後には絶対にうまくいくわけはない。もう一度頭から作り直すか、減点法で遡って考えるかの二択しかない。君ならどっちを行く?」
 と先輩に言われたことがあったが、即答できなかった気がする。今ならできる気がするが、やるとすれば、事件が解決した時である。
「一つが解決すると、余分に違う問題が発生する。それだけだと永遠に埋まることはない。相手に先にて受けようとするのか、それとも、ステップという歩幅を広げて、少し無理してでもつなぎとめておくか、難しいところである」
 と考えていた。
 鑑識の調査も佳境に入ってきた。後は、専門的な解剖であったり、検査で出てくる結果待ちということになる。

                波多野兄妹

 会社側も、捜査を行っている側も、どちらにも懸念として残っていることで一番大きなものは、
「波多野副所長の行方」
 だった。
 所長の清武も、部下の瀬田主任も、波多野副所長の性格をよく分かっているだけに、この場に今まで現れていないということは、
「何かあった」
 という印象が深かった。
 警察の方ではきっと、
「副所長が犯人で、隠れているんだ」
 と思っているかも知れないが、普段の波多野氏を知っている会社の人間には、犯人であるとは到底思えなかった。
 厳格な性格である波多野主任が、連絡を入れてこないのは、何かに巻き込まれたということではないかと思うのだ。彼が犯人だということはありえないと思う理由は、まず妹が不倫をしていてそれを咎めるとしても、決して妹を殺すようなことはしない。しかも、この殺人は、突発的な事故のようなものではなく、入念に計画されたものである可能性が高い。確かに犯罪の計画を立てさせると、簡単に捕まらないような計画を立てるだろうが、それを実行することはないだろう。
 何と言っても、普段から、
「半分、妹のために仕事をしているようなものだからな」
 と言っていたが、決して大げさなことではなかった。
 元々波多野兄妹は、幼い頃両親を交通事故で亡くした。幼い兄妹は、それぞれ別の親戚に引き取られたが、ある日、妹が引き取られた家で苛められたのか、家出をした。
 その家には同い年のいとこがいて、家族は自分の娘ばかりをかわいがり、妹を邪険にしていたようだ。
 よくある話であるが、幼い兄妹には耐えられなかった。親戚がは妹を探し当て、兄が引き取ってもらった家にしばらく妹を置いてもらったが、さすがに二人は難しいということで、兄が養護施設に行くことになった。
 そんな苦労をしたことで波多野氏が学んだのは。
「人は当てにしたってしょうがない。自分たちで生きていくしかないんだ」
 ということだった。
 自分たちだって、好きで親がいないわけではない。それなのに、自分の子供ばかりをかわいがって、引き取った子供に対して恩着せがましく邪険に扱うなど、ありえないと普通の子供は思うだろう。
「そんなのまるでドラマの中の出来事なだけさ」
 というに決まっている。
 しかし、実際にはそれが現実だった。妹と兄はそれから、あまり会うことはなかった。おじさんが自分の代わりに妹を引き取ってくれた時、
「お前には辛いかも知れないが、妹に会いに来ることはしないようにしてくれないか? お前の妹は私たちが責任をもって幸せに育てる。それは約束する。だから、妹の幸せのことを考えて、私たちの子供として育てさせてくれないか?」
 と言われた。
 理不尽であったが、しょうがなく承知したのだが、それでよかった気がした。
 本当は妹が家出さえしなければ、波多野少年を自分たちの家の後継者にしようと思っていたようだ。
作品名:動機と目的 作家名:森本晃次