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動機と目的

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 これは、相手が興奮状態にあるのに、こちらも一緒に興奮状態になったのでは、相手と同じ目線であることから、彼女は聞き手が別に興味を持っていないのではないかと思ってしまうように感じるのだった。それよりも、ニコニコ笑って、興味をそそられている気持ちがあるということを含ませる方が、こちらが興奮をカモフラージュしているように見えるという心理の錯覚を辰巳刑事は利用したのだった。
「実は、波多野さんが、お兄さんである波多野副所長と、会議室でキスをしているところを見たんです。二人とも目をつぶって、うっとりしていました。あの二人は、兄妹ではあるんですが、兄妹ではないと考えると、ある意味お似合いのカップルに見えるかも知れないほど、見た目は、好男子であり、綺麗な女性なんです。いつも爽やかな笑顔を振りまいている波多副所長と、気さくで天真爛漫に見える波多野千晶さんのことを皆、兄妹という目でしか見ませんよね? 事実私もその時まではまったく二人を恋愛対象の範囲に考えていませんでしたからね、だけど、一度そんなシーンを見てしまうと、これほどお似合いのカップルはない気がして、それで兄妹であることを、もったいないとまで思うようになってきたんです」
 と彼女は言った。
 その情報が今後の捜査に何をもたらすか、妹の方は殺され、兄の方は目下のところ行方府営になっている。現場に入って現場検証ができないので何とも言えないが、もし現場検証を行ったうえで、ここまでの事実の他に何も出てこなければ、今のところの状況として、一番犯人として疑われるべきは、波多野副所長ということになるだろう。
 波多野副所長には、二人を殺したのだとすると、動機もありそうだ。一応、K署に行方不明の波多野副所長の捜索を任せているので、今動けることとすれば、この現場での事情聴取と、波多野副所長の捜索だけではないだろうか。
 次第に時間がすぎていき、昼を回ることにやっと、一通りの事情聴取が終わった。ちょうど、時を同じくして、
「辰巳刑事、現場が安全であることが分かりましたので、現場検証を行っても大丈夫ということです。ただ、臭いに関しては、なるべく消臭は試みたのですが、少しは残ってしまっているということです。実際に入ってみると、先ほどのように、身体に変調をきたすほどではなく、あれくらいの臭いであれば、この場所を研究所と考えるのであれば、十分な許容範囲だと思います」
 と言って、鑑識が、これから鑑識としての捜査が行えるようになったということを伝えにきた。
 さっそく本部に報告を入れて、いよいよ現場検証に入ることになったのだった……。

             現場検証

 現場がある程度入れるようになると分かった時、ちょうど第一発見者である山口が、ちょうど今から三十分ほど前に気分が悪くなり、次第に呼吸が困難になってきたということで、急遽、救急病院に搬送されることになった。
 劇薬の臭いの中には、その時すぐではなく、だいぶ経ってから、身体の変調をきたすということがあると聞いたことがあったが、まさにその通りなのだろう。
 今、山口は、集中治療室で人工呼吸器をつけて、治療を受けているということだ。となると、この場所の塀さの判断は間違っていなかったということであるが、果たしてこの臭いの正体が一体何なのか、いよいよ問題になってくるのではないだろうか。
 科学班の班長がやってきて、辰巳刑事に話しかけた。
「現場は、ひどい異臭がしていましたが、別に毒性のあるものではありませんでした。ただ、消臭を行って、ここまで臭いを落とすのに、ここまで時間を使ってしまったということは、当然、あの白い液体は牛乳ではありません。どちらかというと、あの液体だけを使うものではなく、むしろあの液体を何かの媒体のように使って、食品に利用するというような感じなのではないかと思います。普段、常温では、粉末として保管しておいて、調理の際に使うような感じですね。でもまだ完成していないのか、水と混ぜて、牛乳のようにしてしまうと、あのような激臭を放つことになる。きっとここが研究所ということなので、研究中の調味料なんでしょうね。そうなると、研究所は研究者として、会社側はコンプライアンスやセキュリティの観点から、その内容を口にすることはないでしょうね。もちろん、これが何か凶器に繋がるようなものであれば、令状も摂れるんでしょうが、凶器とは違いますからね。とりあえず言えることは、この研究所で開発している何かということしか言えないと思います。少なくとも牛乳ではないことは確かですし、あとは、鑑識さんのお仕事でしょうから、我々がこれ以上口を出すことは控えておきましょう」
 と言って、引き上げていった。
 それと入れ替わりに、鑑識が中に入っていき、殺害された二人の検視が始まった。
 少なくとも死体が発見されてから六時間近くが経っている。科学班の人が言及しなかったが、まさかあの白い液体が、犯行現場の何かをごまかすために使われたのだとすれば、どのような判断をすればいいのか、考えあぐねていた。
 鑑識が入って、写真を撮ったり、指紋を採取したりと、いつもの光景が繰り広げられているのを、二人の刑事は表からじっと見ていた。事情聴取に協力してくれた社員は、解放されたとはいえ、仕事場では鑑識が入っている。何と言っても、その場で人が殺されているのだから、そんな場所で、普段の業務を平気でこなせるわけもない。会社としては、とりあえず三日の事務所閉鎖を決めた。
 それでも、課長以上クラスの人は警察からの追加で聴取があるかも知れないということで残っていたが、すでに一度は事情聴取が終わっているので、辰巳刑事も山崎刑事も、見守るしかなかったのだ。
「監視句の捜査を見ることはほとんどないけど、こんな感じなんだな」
 と山崎刑事は言ったが、辰巳刑事は事情聴取を行うにしても、ある提訴の鑑識の情報を持ってから行うので、途中までは鑑識の動くを見ている。それだけに、テキパキと動く鑑識の仕草には、いつも感心させられていた。
 まず、辰巳の方では、いつものように同時の事情聴取がないことから、鑑識には、
「分かったことがあれば、我々はそこにいるので、随時教えてくれると助かります」
 と話していた。
 そこでさっそく中で監察としていた鑑識官が表の辰巳刑事の方を振り向いて、何か言いたげな態度だったので、辰巳刑事は頷いた。それを見た鑑識官は以心伝心で表に出てくると、
「まず、一つ分かったことがありますので、ご報告させてください」
 と言って頭を下げた。
 鑑識官は続けた。
「例の白い液体ですが、そこに、別のものが混じっているのが分かりました。それは最初から白い液体に調合されていたものではなく、白い液体がぶち撒かれてから、少し経って、その上からばらまかれたような感じです」
 というではないか。
「それはなんですか?」
 と辰巳刑事が聞くと、
「どうやら大根おろしではないかと思われます。成分は大根なのですが、綺麗に残像が残らないようにばらまかれたのだとすると、おろし状にされていたと考えるべきでしょう。大根おろしをばらまいたのであれば、何か作為的なものがこの現状からは考えられると思います」
作品名:動機と目的 作家名:森本晃次