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動機と目的

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「波多野副所長は、被害者の娘である。目に入れても痛くないほどだと思われることだろう。そして、一緒に死んでいるのは、その上司と言える人物で、見ようによってはm不倫にも見える。不倫カップルが殺されていて、女側の父親が行方不明だとすると、二人の泥沼の関係に父親が入り込んで、修羅場と化したと言っておいいのではないだろうか? 一番考えられる不倫の果ての悲劇と言えるのではないか」
 と、辰巳刑事は考えた。
 だが、それにはあまりにもおかしなことが多すぎる。このおかしなことを犯罪の隠蔽であったり、何かをごまかすための欺瞞であったりと考えると、そんな愛欲恋愛小説に出てくるようなありきたりなストーリーでもないような気がしてくるのだった。
 少なくとも、一つ一つの疑問を解き明かし、それによって近づいてくる真実でなければ、それが本当に事実なのか分からずに、状況を判断することができるであろうか?
 辰巳刑事は、笑われるかも知れないが、自分の中にある、
「刑事の勘」
 を信じている。
 そのためには、早く臭いものの正体が判明し、検屍が行えなければ、いくら考えたとしても、机上の空論にしかすぎないのだ。
 だが、もう一つ気になる事実が出てきた。まず警察としては、その事実関係だけは調べておく必要が出てきた。これから先は、一人一人をこちらに呼んで、事情を聴くことが必要になるだろう。
 ます、その前に一度、第一発見者である山口の、
「第一発見者としての事情聴取」
 を終わらせておく必要があった。
「山口さん、最後の質問になりますが、あの部屋は、あなたが発見した時、密室だったと考えていいんですね?」
 という刑事の質問に、一瞬、
――何を愚にもならない質問をして――
 と感じたが、
「ええ、その通りです。オートロックの状態だったんだから、当然のことですよね?」
 と逆に聞き返すところを見て、
「ああ、そうですか、ありがとうございました。また後で質問があるかも知れませんので、その時はご協力ください」
 と、辰巳刑事は言って、第一発見者としての山口はそこで解放された。
「清武所長、あなたにも後でまた質問したいことが出てくれば、お伺いいたしますので、今のところは皆さんのところに戻っておいていただいて結構ですよ」
 と言われた。
「じゃあ、お言葉に甘えて戻りますが、一体これはどういう事件になるんですか?」
 と訊ねた。
 まだ警察は何も分かっていないはずなので、何も答えられるわけもないが、清武は訊いてみた。先ほどのお返しという気持ちも無きにしも非ずだった。
「それは我々が訊きたいくらいですよ。ただ、何かの人間関係の縺れでしょうね。男女の間に何かがあったのか、そして、なぜあの場所なのか、そして、臭いものの正体が何で、どうしてぶち撒く必要があったのか……。考えてみればたくさんの疑問があるんですよ。今言えることはそれだけですね」
 という話だった。
 ただ一つ、気になることがあった。それは質問された山口も同じことを思ったのかも知れないが、それは最後に受けた質問だった、
「密室だったと考えていいのか?」
 だって?
 密室だったからと言って、それが何だというのだろう? 表からカギを閉めなければ閉まらない扉であれば、
「密室の謎」
 というものが明らかな問題となるのだろうが、密室が出来上がったとしても、オートロックのようなものである。
 中から外にでれば自動的にカギがかかる。つまりは、結果的に密室になったからというだけで、密室殺人でも何でもないのだ。
 この部屋が密室だったとして不思議に感じるのであれば。それは、
「何かを表から運び込む時」
 というのであれば、確かにカギがかかっている部屋にどうやって入ったかということが問題になるのだが。人を殺して出ていく分には、密室になったところでおかしなわけではない。
「ん? もしかして」
 と、清武は感じた。
 それは、
「警察の方では、殺人現場はここではなく、他で殺されて運ばれてきた」
 と考えているとすればどうだろう?
 それであれば、密室であったのかどうかを確認する必要がある。だとすれば、警察は何を見て、ここが殺害現場ではないと思ったのだろうか?
「まさか、この臭い状況を作り出したのは、他から死体を運び込んだということをカモフラージュするために撒かれたものではないか?」
 と言えるのではないか、
 この場所は殺害現場としては、あまりにお不自然だ。争った跡がないというのも気になる。女性の方はいきなり刺されて即死だったのかも知れないが、男性の方は断末魔の表情を浮かべている。
 ということは、誰かと争ったと言えるのではないだろうか?
 それなのに、どこにも争った跡のようなものはない。もっとも、本格的な検証が行われる前に立入禁止になったのだから、ハッキリとは言えないのだが……。
 清武所長は、いろいろ思いを巡らせていた。
 辰巳刑事は、山崎刑事と話し合っていた。
「山崎君はどう思うかね?」
 と漠然と聞かれたので、何と答えていいのか分からない山崎だったが、
「僕が考えているのは、まず死んでいた二人の関係ですね。一見不倫のように見えるけど、どうなんでしょうね?」
 という疑問だった。
「それはきっと、個人個人に尋問していけば、一人くらいは話をしてくれる人がいるかも知れないね。誰も知らないということであれば、山崎君の考えが当たっているのかも知れない。ただ、僕はね。少し違った観点から見ているんだよ。それはね。先ほどの山口という男に尋問した時、彼は言っていただろう? いつも自分が一番乗りに会社に来るってね。でもその話をしている時の彼の様子を見ていると、どうもこの話を終わらせたいという雰囲気を感じたんだ。何もなければ、別に気にする部分でも何でもないじゃないか。そこに何かの秘密を僕は感じたんだけど、今君と話していて、君が今言った疑問が、今の僕の疑問に抵触しているような気がして仕方がないんだ」
 と辰巳は言った。
「じゃあ、僕の観点もあながち間違っていないのかも知れないね」
 とニッコリしながら山崎刑事がいうと、
「うん、二人のそのあたりの疑問も解き明かすつもりで、尋問していくことにしよう。尋問のやり方なんだけどね、基本的には皆に同じ質問を同じようにしていこう。そうしてそれぞれの皆の感じ方の違いを見ることで、何か分かることがあるかも知れないからね」
 と辰巳刑事が言った。
 このやり方は、辰巳刑事独自の方法であった。
 実際に今までにやったことがある人もいたかも知れないが、この方法はある程度、自分の頭の中で推理が完成していて、矛盾がないかを確認したい時に行うことが多いのだろうと山崎は思っていたが、それを今の何も分かっていない段階でやろうというのは、辰巳刑事は何を考えているというのだろうか?
 山崎刑事はそう思いながらも、
「それはそれで面白い」
 と思った。
 考えてみれば、どうせまだ何も分かっていないのである。皆に同じ質問をして、その質問に対しての答えと。これから分かってくる検屍などから、誰が矛盾を孕んでいるかというのを見るのも面白いだろう。
 きっと辰巳刑事はそのことを考えていると思い、山崎刑事も納得していた。
作品名:動機と目的 作家名:森本晃次