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動機と目的

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「いいえ、いつもは私よりも早い人がいます。うちの部署は出社する順番にいつも差がないほど、皆規則正しいとでもいえばいいんでしょうか。だから私はいつも二番なんです。だけど今日は事務所が暗かったので、おかしいと思ったんですが、部屋の中で死体を見て、どうして私が今日は一番だったのあが、すぐに分かりました」
 と山口が言った。
「というと?」
「実はいつも一番最初に出社してくるのは殺された波多野さんだったんです。彼女は所長が研究をする時は助手のような形でしたので、所長が来られてすぐいでも研究所に入られる場合に備えて、いつも用意をされていなした。しかも、彼女は秘書のような仕事もしていますので、秘書としての仕事は、所長が研究をするしないに関わらず、毎日のようにありますから、最初に来ないと務まらないんでしょうね」
 と山口は答えた。
「じゃあ、波多野さんには、かなりの会社の仕事が集中していたということでしょうか?」
 と、山崎刑事が聞くと、
「確かに彼女は仕事量もそうですが、仕事の質についても、かなり核心部分を担っていたと思います。でも、彼女はその重圧を顔に出すことはしませんでした。だから、所長も甘えていたのかも知れませんが、それだけ優秀で、頼ってしまうところのある女性だったんだと思います」
「彼女は、それだけ所長さんの信頼が厚かったということなんでしょうね」
「ええ、その通りです。秘書をやりながら、研究の助手もですからね。所長も所長としての仕事をしながら、研究もやっていた。結構大変でしたでしょうが、それも波多野さんがいたからできたことなんじゃないかと思われます」
 と、山口は答えた。
「ところで死体発見をされた時ですが、まず最初に感じたのは、事務所の電気が消えていたことで、おやっと思われたんですよね?」
「ええ」
 と山口は答えたが、実はそうではなかった。
 確かに最初に会社に来たのは、今日は山口だったが、実は毎日波多野さんが最初だったというわけではない。週に二度ほど、今日っはそのうちの一日だと思っていたのだ。
 どうしてそれを言わなかったのかというと、実は咄嗟のウソだった。しかし、それを訂正するのを恐れて結局そのまま第一発見者の供述として取られてしまったのだ。
「山口さんは、カギを開けると当然、この悪臭はお感じになったと思います。この臭い、研究中に感じたことはありましたか?」
 と辰巳刑事に訊かれて、
「確かに洋菓子の会社の研究所ですので、甘い香りや酸っぱい香りも存在はします、そして製品開発部の限られたスペースでの研究ですから、当然臭いがまじりあってしまって、気持ち悪くなって、途中から仕事ができなくなってしまう人も結構いたりしました。私といえども、まったくないわけではありません。私も新入社員で入社以来、ずっと研究所畑ですから、それは分かっています。もっというと、大学も理科系の学校でしたから、当然、薬品に囲まれた学生生活と言っても過言ではないくらいのものでした。それでも、最初に入った時は、本当に気を失ってしまいそうに感じたのは、酸っぱい臭いの中に、腐敗している臭いを感じたからです。何と言ってもここは食品会社の研究室。発酵しているものでも食することができると証明されているチーズのようなもの以外ではありえませんからね。しかも、チーズは過熱して溶かしてしまわないと臭いはしません。これは最初から臭いがひどかったんです。溜まったものではありませんでした」
「ちなみにここはセキュリティがしっかりしていて、カードによる入室と、カギで入る用になっているんですよね?」
「ええ」
「ということは、ここはオートロックのようになっていて、一度誰かが出てしまうと、カードキーを翳さないと、少なくとも開けることができない」
「ええ」
 山口は最初刑事が何を言いたいのか分からなかったが、オートロックと訊いて、すぐにピンときたのだ。
「要するにここは、密室だったということですね?」
 と辰巳刑事に指摘され、
「ええ、その通りです」
 と、想像していた通りの質問に山口は答えた。
「カードキーでの入退室は、データ化されているでしょうから、最後に誰のカードキーが使われたか、調べてもらうことにしましょう」
 と言った。
 普通に考えれば、最後のカードキーを使用した人が犯人だと言えるのだろうが、辰巳刑事はあまり信用している様子ではなかった。
――この事件、そんなに単純なものではないような気がする――
 と辰巳刑事は思ったのだ。
 辰巳刑事は、犯罪捜査を行う時、
「人は平気でウソをつく」
 と考えて捜査に当たっていた。
 簡単に信用してはいけないということであるが、どこまで信用していいのか、いつも考えるようにしていたのだ。
 この事件は、殺人現場一つをとってもおかしなことが多い気がする。
 まず密室になっていたという謎、そして、なぜこのような有毒とも思えるような臭いがあたり一面にまき散らしてあるのか、ここには何の意味があるというのか?
 最初に考えられることとしては、
「臭いに集中させて、本質を見失わせようという魂胆なのか、それとも、臭い自体に作為があり、例えば、少しでも現場検証を遅らせるためにしたということであろうか?」
 と考えたが、もし現場検証を遅らせるためだとすれば、そこには矛盾が生じる。
 それは、言わずと知れた犯行現場であり、現場検証を遅らせたいのであれば、何もこんなに目立つところで殺さなくても、どこか別の場所で時間が経ってから見つかるようにすればいいだけで、何もわざわざ放置することもないだろう。
 しかも、こんな臭いをぶちまけるようなことをしておいて、いまさら何かの作為というのもおかしい。単純に考えて、
「何かの拍子にこの臭いが残ってしまったことで、ここから死体を動かせなくなってしまったのだと考える方が、よほど矛盾した考えではないだろう」
 と言えるのではないだろうか。
 それを考えると、辰巳刑事は最初に
「単純な事件ではない」
 と思っていたが、裏を返すと、
「意外と単純な事件なのかも知れない」
 とも思えるようになったのだ。
 辰巳刑事は時々山崎刑事と顔を見合わせたが、山崎刑事も考えあぐねているのが分かった。もし山崎刑事に考えがあるのであれば、彼のことだから、真っ先に口にするだろう。辰巳刑事にライバル意識を燃やしている山崎刑事であれば、分かり他水リアクションだからである。
 そんな話をしているところに、清武所長が出社してきた。その場にいた捜査員から、事務所が立入禁止になっていて、しかも、臭いがきつくて入れない状態になっていることを聞かされた。
 山口から電話で話を訊いた時、山口自身もかなり興奮したいたこともあって、しかも電話での会話だったので、まったく分からなかったが、
――ここまで重要な情報を言漏らすほど、動揺していたんだな――
 と清武は感じた。
「皆さんは、物流センターの会議室の方に集まってもらっていますので、そちらの方にお願いします」
 と言われて、普段はほとんど入室したことのない物流センターの会議室に赴いた清武だった。
作品名:動機と目的 作家名:森本晃次