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悪魔のオンナ

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「被害者の件なのですが。これは総務部長の話ですが、被害者には、誰か不倫をしている相手がいたようです。分からないように目立たないようしていたそうなんですが、どうやら被害者の性格上というべきか、特性として、隠そうとすればするほど目立ってしまうことがあるそうなんです。妙にソワソワしてみたりですね。だから、彼がその日、不倫相手に会う日なんだと思っていると、その日に限って、急いで仕事を終わらせて、いや、終わっていなくても、そそくさと定時になったら帰るそうなんです。普段なら、仕事を中途半端にして帰る男ではないというのにですね。それを聞いていると、まんざら総務部長の話もウソや出まかせではないような気がしてきたんです」
 という報告だった。
「その相手に、総務部長は心当たりはないというんだな?」
「はい。でも、あの様子からすると、そんなに遠くの存在ではないと思えるというんです。営業先で知り合った女性なのか、ひょっとすると会社の人かも知れないともいうんですね。でも、すぐに目立つ性格である彼に、会社の人間であれば、隠しおおせることはないというんですよね。それを思うと、会社の人間というのは、ちょっと違うのではないかということでした」
 という山崎刑事の話を訊いて、門倉本部長も納得がいったようだった。
「それでは、その不倫相手というのも、犯人の一人として大いに浮き上がってくるようだね。そちらの捜査は山崎刑事に引き続きお願いしよう」
  ということで、この仕事は山崎刑事の仕事になった。
 ただ、被害者である三橋という男に、
「不倫相手がいる」
 と聞かされた清水警部補は、それを聞いた途端、一瞬考えたような顔になった。
 まるで、
「あの男が不倫していたなど、考えにくいのに」
 とでも言わんばかりだった。
 確かに彼の死ぬ前の写真を見る限り、不倫をするようにも見えないが、人間のやることなので、顔や人相だけで一概に判断ができるものでもない。
 清水警部補が被害者を知っているというのであれば、別だが、清水警部補であれば、知っていたのなら、何も隠すことはないだろう。
 変に隠し立てをすれば、自分が怪しまれるだけであり、余計な詮索をされかねない。それを思うと、別に清水警部補と被害者が知り合いだと思うのは、早急な考えになるであろう。
 それは、清水警部補を疑うようで失礼に当たることであり、辰巳刑事には到底できることではなかった。
 他に何ら目新しいことがあるわけでもなく、その日の捜査会議はそれで終わり、明日また一番で、本日の捜査状況の報告が行われることとなり、朝の会議は終了することとなった。
「清水君は、今回の事件をどう思うかい?」
 と門倉本部長が、清水警部補に訊ねた。
「そうですね。単純な殺人ではないような気がしますね。少なくとも犯行現場から死体を動かしていて、凶器にサバイバルナイフが使われていること、そして、傷戯力考えると、殺害に関してはずぶの素人であるにも関わらず、計画的な犯行であるということ、まず私は、死体を遺棄した場所がなぜあそこなのかということに疑問を持っています。やはり何か理由があるように思えてならないんです」
 と言って、昨日出た意見としての、アリバイトリックや場所の特徴についてを門倉本部長に話した。
「そんなに寂しいところなのか?」
「ええ、そうですね」
「じゃあ、私も被害が見つかったその時間、一度その場所を見てみることにするか?」
 と、門倉本部長は、そういった。
 どうやら、門倉本部長が中心になってこの街の治安に携わっていた頃も、このあたりでは少なくとも当時刑事だった門倉本部長が出向くような事件は、ほとんどなかったということであろう。
 まったくなかったとは言い難いが、記憶にはないということである。
――いや、ひょっとすると記憶にあって、その記憶にあるのが、かなり昔のことなので、今も変わっていないのかを確認したいという思いがあるのかも知れない――
 と、清水警部補は感じた。
 ただ、清水警部補もこのあたりの記憶はほとんどない。もしこのあたりにきたとしても、事件が発生したから来たというよりも、誰か目撃者か、犯人に繋がる何かを見つけにきたくらいであろうか。それも記憶に乏しいということは、そういう事情があったとしても、大した発見にはつながらなかったということであろう。
 捜査会議が終了し、それぞれに決まった聞き込みや、目撃者捜しなどに飛び出して行ってから、清水警部補と門倉本部長は残って、少し話をしてみた。
「久しぶりにここに来たけど新鮮だよな。まだ刑事課の若い連中は入ってくる前だっただろうからな」
 と門倉本部長が言った。
「ええ、私もまだまだ駆け出しの刑事でしたので、本部長にはいろいろ教えていただきました。感謝してますよ」
 と清水刑事がいうと、
「それを今は君が辰巳刑事や山崎刑事に教えていく番だからな。頼もしいと思っているよ」
 と言われて、清水警部補は照れていた。
「なかなか、二人は優秀だと思っていますよ。特に辰巳刑事の場合は、本部長もご存じの通り、事件解決にかなり貢献しているところがあるので、私も頼もしく思っているですよ」
「山崎刑事もなかなかだと思うよ。竜居啓二のような熱血漢ではないけど、冷静沈着な判断力は、清水警部補譲りのところがあるんじゃないかと思うんだ。彼には、人のいいところを吸収し、自分の長所に結び付けることができる才能のようなものがある。私はそれを結構買っているつもりなんだよ」
 というのが、門倉本部長の山崎刑事への評価であった。
「山崎刑事を見ていると、自分の若かった頃を思い出して、気になるんですよ。辰巳刑事の場合は逆に自分にはない羨ましく思える勧善懲悪な熱血漢、逆の意味で気になっています。とにかくこの二人は、それぞれに能力を引き合っているというか、相乗効果がありそうに思うんです。ただ、一緒に組ませるというよりも、競わせる方が、二人のためになると思って、決して二人を組ませないようにしているんですけどね。どうでしょうか?」
 と訊ねると、
「いいんじゃないかと思うよ。確かに君の言う通りm二人には相対的な力が備わっていて、相乗効果も認められると思う。でも、競わせると言っても二人の間で競っているという感覚はないと思うんだ。どちらかというと、楽しんでいるようにさえ見えるくらいなんだ。そんな二人を見ていると、私は時々、清水君、君を思い出すんだよ」
「私をですか?」
「ああ、私は部下ではありながら、君の捜査能力に敬意を表していた。一緒に組む時、別々に組む時いろいろあったけど、今の辰巳刑事や山崎刑事のような感じだったと思うんだ。今の二人を一緒にさせないという気持ちはきっと、あの頃とは時代が違っているという意識があるからなんじゃないかい?」
 と本部長がいうと、
「確かにそうかも知れませんね。でも私はそんなに時代が変わったという感覚はないんですが、どうしてなんでしょうね?」
作品名:悪魔のオンナ 作家名:森本晃次