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悪魔のオンナ

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 県警からの警部というのは、門倉警部であり、以前、K署に所属していた人だった。刑事時代が長く、下積みを長く続けてきた叩き上げだということで、清水警部補も辰巳刑事にも馴染みだった。二人にとって門倉警部であれば、捜査本部長として、これ以上ない人が派遣されてきたと感じ、喜んでいた。
 捜査本部の戒名としては、
「ガード下死体遺棄営業マン殺人事件」
 という名前になった、
 捜査本部には県警より数人の刑事も派遣されてきていたが、K市警察署と、県警との間は以前から良好で、よくテレビの刑事ものなので出てくる。
「県警本部のことを本社、所轄のことを支店」
 などというようなことはなかった。
 刑事個人間でも結構仲が良かったりして、実際にそんな警察が存在するなど信じられないと言った感じになっていた。
 さっそく昼前には捜査本部にて最初の捜査会議が開かれた。
「それではまず、被害者について」
 とk門倉本部長が聞くと、山崎刑事が手を挙げて、
「被害者は三橋晴彦。三十三歳、K貿易会社の営業マンです。身元は家族、それから会社の総務部長さんに確認していただきました。鑑識からの死亡推定に関しての見解ですが、死亡推定時刻は、夕方の四時から、五時までくらいではないかと思われるということです。最初は五時から六時と言われていましたが、被害者が同僚と会社近くの食堂で食べた昼食の消化具合から判断して、死亡推定時刻は四時前後ではないかということです。そして死因はサバイバルナイフのようなものを使っているのではないかということでした。そして凶器はその場から発見されませんでした」
 と報告した。
「本当の殺害現場は別の場所だったのではないかという話も聞いたが?」
 と門倉本部長が訊ねると、
「ええ、その通りです、ナイフで刺された後、凶器は抜き取られ、死体遺棄の場所からは発見されませんでした。もし、犯行現場があの場所で、死体からナイフを抜いたのが犯人だとすれば、かなりの血痕が残っていないとおかしいのですが、ほぼそのような血痕は残っておりませんでした。それで、犯行現場は別にあるのだと考えました」
 と山崎刑事が報告すると、
「ええ、それにもしあそこで殺害したのだとすると、犯人もかなりの返り血を浴びているということになりますからね。犯人は、サバイバルナイフを用意してからの犯行だということになるので、衝動的な犯行だとは思えません。計画的な犯行だと考えると、他の場所で殺しておいて、あの場所に運んだと考える方が自然かと思い明日」
 という補足を、辰巳刑事が説明した。
「じゃあ、犯人はどうしてあの場所に死体を放置したんだね? 少なくとも他で殺害したのであれば、その場所から死体を隠すことだってできたであろうに、敢えてあの場所に運んだというのは、死体を発見してほしいからなんだろうか?」
 と。門倉本部長が訊きなおした。
「そうとも言えるのではないでしょうか?」
 と山崎刑事が返事をすると、
「その根拠は?」
「例えば、死亡推定時刻に、犯人はアリバイを作っておいたということなのか、死体がいつまでも発見されないと困る何かがあるのかではないでしょうか?」
「困る何かとは?」
「考えられることとしては、保険金であったり、遺産の分配、さらに死んでくれたことで誰か得をする人間がいるかも知れないということになりますね」
 と山崎刑事がいうと、
「じゃあ、そのあたりも、これからの捜査に加えていくことにしよう」
 と門倉警部補に言った。
 すると、何かを考え込んでいる辰巳刑事の顔に、門倉本部長が気付いたのだった。
「どうしたんだい? 辰巳刑事。何か気になることがあったら、言ってみたまえ」
 と辰巳刑事に、門倉本部長は水を向けた。
「ええ、これは私の考えすぎなのかも知れないんですが、被害者の髭の伸び方が異常に長かったように思うんです。今は言わなくなりましたが、ファイブオクロックシャドーというんですか? 人間は夕方になると、髭が急激に伸びると言いますよね? 彼の顔に浮かんでいた髭を見る限り、夕方の六時くらいまでは生きていたんじゃないかっていう思いがあるんですよ。根拠は何もないんですが、元々死亡推定時刻を鑑識さんでは、五時から六時と言っていたんですよ。でも、今の話では、胃の内容物を考えると、もっと前の四時頃かも知れないという話になったんですよね。昨日の死亡推定時刻であれば、私もなんら疑念はないのですが、今日発表された時間を考えると、どうも納得がいかないような気がして、やはり考えすぎなんでしょうかね?」
 と辰巳刑事は言った。
「ファイブオクロックシャドーというのも、曖昧な気がするんだが、一応意見として考えておく必要があるだろう。被害者は貿易会社の営業餡だっていうじゃないか、被害者の姿を見ていると、結構営業マンとしての身だしなみには気を付けている男のようなので、毎朝髭もキチっと剃って、毎日の営業に勤しんでいることなんだろうね。だとすると、ファイブオクロックシャドーという発想も、結構性格な時刻を示しているんじゃないだろうか? それを思うと、辰巳刑事の意見を考えすぎと言って笑い飛ばす気には私はなれません」
 と清水警部補は言いながら、遠い方向を見ていた。
 昨日の現場を思い出しているのか、それとも、昨夜思い出したように、再度死体を見に行った清水警部補だったが、その時に発見した何かを思い出しているのだろうか。少なくとも清水警部補は被害者のことを最後にかなり観察していたのは間違いのないことのようだった。
 ファイブオクロックシャドーというのは、今では誰も言わなくなったが、男性が朝髭を剃ると、夕方くらいに急激に伸びる時間帯があるというのを称して、午後五時から伸びるという意味で、
「ファイブオクロックシャドー」
 と呼ばれるようになった。
 シャドーとはまさに影であり、口元に影ができるほどの髭の濃さを表しているのであった。
――辰巳刑事もよく、そんな古い言葉を知っていたものだ――
 と、門倉本部長は苦笑いをした。
 この中で実際にその言葉を刑事になってからリアルに聞いたことがあったのは、門倉本部長くらいであっただろう。

            ガード下の秘密

「ファイブオクロックシャドーとはなかなか気づかないところに目を付けたと思うが、果たしてそれが事件に関係のあることなのかどうか、辰巳刑事にそのあたりを探ってもらうことにしよう」
 と、清水警部補は言った。
「他に今の時点で、何か分かったこと、ありますか?」
 と、清水警部補に言われて、
「はい」
 と、山崎刑事が手を挙げて、手帳に書かれたメモを見ながら話し始めた。
作品名:悪魔のオンナ 作家名:森本晃次