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悪魔のオンナ

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 まだ、死体はその場所にあり、断末魔の表情から、すでに死後数時間は経っているのではないかと思えた。
「何分、真っ暗な場所でもあり、車の往来が少しあるくらいで、なかなか人通りは期待できない場所ですので、このように端の方に死体が放置されていると、気付く人も稀なのかも知れません」
 と山崎刑事は言った。
「それで、やはり殺人事件ということなのかい?」
「ええ、そういうことになりますね」
 と山崎刑事は答えた。
「ところで、発見当時はどういうことだったんだい?」
 という辰巳刑事の質問で、
「発見されたのは、今から一時間くらい前でしょうか? 第一発見者の人から一一〇番通報があり、私たちが駆け付けたのが、二十分くらい前になります。通報の内容は、人が刺されているということでした。急いでここにやってきますと、なるほど、胸を刺されてすでに絶命した死体があったというわけです」
 と山崎刑事は答えた。
「ところで、検屍の方はどうなっているんですか?」
「今、鑑識さんに確認してもらっています」
 と言って、白衣を着た鑑識の人がこちらにやってきて。
「死因は刺殺で間違いないようですね。たぶん、ナイフのようなものではないかと思われます。それも殺傷能力の高いものなので、たぶん、殺傷用のものではないかと思われます。そういう意味では、犯行は女性にも可能かと思われますね」
「死亡推定時刻はどれくらいですか?」
「死後、六時間近くは経っているのではないかと思いますね:
「ということは、午後四時から、五時くらいの間ということになるのかな?」
「はい、詳しい解剖を待たなけれなハッキリとは言えませんが、大体そのあたりになろうかと思われますね」
 と聞いて、清水警部補は、少し頭を傾げながら、
「犯行に使われた凶器は?」
 と訊ねられて、
「それがですね。見当たらないんですよ」
 と山崎刑事が答えた。
「ということは、被害者に刺さったままではなかったということだね?」
「ええ、そういうことになります」
「じゃあ、犯行現場は別の場所だと思って間違いないのかな?」
「ええ、争った跡もなければ、ナイフを抜き取ったにしては、血の痕があまりにも少なすぎます。それに、いくら人通りが少ないとはいえ、近くに民家があるので、誰かに刺殺されたのだとすれば、声が響いてもいいのでしょうが、誰も通報はおろか、表に出てきた人もいないようですからね」
「それは、差し方にもよるんだろうね。苦しまずに即死状態であれば、声を立てることもなかっただろうから、一概にはいえないんじゃないかい?」
 と清水警部補がいうと、
「いえ、それはないと思われます。刺し傷の跡から見て、正直慣れている人のものではなく、明らかに震えている手で刺し殺したというイメージがあります。刺した本人もかなり緊張していた証拠ですね。だから、被害者もすぐに死んだというわけではなく、それなりに断末魔の時間はあったと思われます。声を出したことも十分に考えられますので、即死状態ということはなかったのではないでしょうか?」
 と、鑑識の先生がそう言った。
「なるほど、確かに傷口を見ている限り、かなり深いというよりも、広く抉られているようだね。どちらにしても、どこで殺した場合であっても、被害者はかなりの返り血を浴びたことでしょうね。それを考えると、このようないくら人通りが少ない場所と言っても、犯行現場に選ぶというのは、棄権が孕んでいるような気がするな」
 と、清水警部補が言った。
「でもですよ。それならばなぜ刺殺だったんでしょうね。絞殺であっても、他に選択肢はあったと思うんですが」
 と辰巳刑事が言った。
「犯人が女性だったというのも考えられないでしょうか? 絞殺するにはかなりの力が必要になるし、毒殺なら毒をいかにして手に入れるかが問題になるだろうが、それ以上に、そこから足がつきかねない」
 と山崎刑事が言った。
「では、ナイフはどうなるんだい? さっきの先生の話では、傷口から、凶器の種類は断定できるほどであり、しかも、特殊なものだというじゃないか。だったら、ナイフからだって足がつかないとも限らないんじゃないかな?」
 と、辰巳刑事が反論した。
「どちらにしても、犯行現場がどこであったにしても、どうして、最終的にこの現場に死体が遺棄されなければいけなかったのかということもあるんじゃないかと思うんです」
 と、清水刑事が言った。
 その話を訊いていた、ちょうど検視の立ち合いをしていた制服経験である、長谷川巡査が近寄ってきて、
「ちょっとよろしいでしょうか?」
 と言った、
 それを聞いて、
「ん?」
 と頭を挙げた清水警部補は、長谷川巡査の顔を見るなり、
「ああ、長谷川君か。何か気になることでもあるのかね?」
 と聞き返した、
 清水警部補は、以前この街で起こった連続強盗殺人の時に協力をしてくれたことでその時から顔見知りになっていた。
 その時の事件というのは、県内広域にわたって荒らしまわった強盗が、いくつかの殺人も犯していて、K市にも当然その被害は報告され、実際に殺人事件にまで発展していた。県警本部からも数人の刑事が派遣され、所轄の警察の協力の下、何とか犯人を捕まえることに成功した。
 長谷川巡査は、庶民に人気があったので、聞き取り調査などを長谷川巡査と同行して行うと、結構重要な情報が得られたりした。そのことから長谷川巡査の存在は、清水警部補にとって、第一線での捜査を行う時に重宝すると思われたのだ。
 その長谷川巡査が発言を求めてきた。これは、きっとここに死体が遺棄されたことに何か感じるものがあるとでもいうのではないかと感じたのだ。
「このあたりはご存じのように、K市の中では昔からの住宅と、新しく建て替えた住宅が複合しているあたりではありますが、基本は昔からの土着の人が住んでいるという場所なんです。だから、他からの人が入ってくるということも少なく、悪くいえば、閉鎖された地域と言ってもいいかも知れません。そんな地域なので、人通りも少なく、実際にここは日が暮れてしまうと、真夜中と変わらないくらいになります。せめて、住宅からの光が漏れてくるか漏れてこないかという違いくらいですね。ただ、最近のことなんですが、ひったくり事件であったり、暴行未遂事件というのが、数件起こっているんですよ・他の地域から比べれば騒ぐほどのことではないんでしょうが、このあたりとすれば、ありえないかずなんです。しかもそのほとんどは未遂。これだけまわりに何もなければ、失敗する方が不思議なくらいなんです。犯人は最初から計画をしていたと思うのに、そこまで失敗してまで犯行を続けるというのもどうにも腑に落ちない気がしているんですよ」
 というではないか。
「長谷川巡査は、今回の殺人と、これまでの事件との間に何か関係があるとお考えなのかな?」
 と、清水警部補が質問した。
「ハッキリとしたことは分かりませんが、無視できないことではないかと思うんですよ」
 と、長谷川巡査が話した、
「まあ、長谷川巡査がそこまで言うのであれば、何か調べる必要はありそうだな。辰巳刑事、そのあたりから明日は探ってみてくれないか?」
 と言われて、辰巳刑事も、
「了解しました」
作品名:悪魔のオンナ 作家名:森本晃次