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悪魔のオンナ

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――それにしても、長谷川巡査というのは、どういう人なんだ?
 と辰巳刑事は気になっていた。
 長谷川巡査とは事件が起こってからの初動捜査で何度も一緒になっているが、細かいことによく気が付く警官として、捜査するうえで、これほどやりやすい、
「パートナー」
 はいないと思っていた。
 巡査だからと言って、決して刑事が偉いんだという感覚にもっていかせない、そんな雰囲気を感じさせる唯一といっていいかも知れない存在である。
「私は、被害届を彼女が出さないと言っていた連続暴行、あるいはひったくり事件を、密かに追いかけていたんです。時には私服になった非番の時でも、非番の状態で動いていましたそれを知っているのは女将だけだったんですが、最近、お美紀ちゃんにもバレたようなんです。皆さんは、露風のカウンターの一番奥の席に座っている男が、いかがわしい裏風俗の男であることを知っているでしょう? 私は、暴行班を捜査しているうちに、そんないかがわしい風俗までもが存在していることを知り、本当に愕然としてしまったんです。一見何もないと思える平和な街であっても、一歩入り込んでしまうと、まるで犯罪の巣窟が渦巻いているように思うと、こんなにゾッとすることはなかったです。誰がいつ、お美紀ちゃんのような目に遭うか分からない。お美紀ちゃんの場合は彼女の意志を尊重したえど、本当はそれではいけないんじゃないか? 警察官としてではなく、人間として、そんな連中が許せない。そういうジレンマに襲われてしまって、しばらくどうしていいか分からなくなりました。そこで発見されたのが、あの三橋の死体でした。やつは、いかがわしい裏風俗の片棒を担いでいました。気の弱そうな客を見つけては、喧嘩を吹っ掛ける役だったんですね。そこで、気落ちした暴行を受けた気の弱い男性に、囁きかける初老の男がいる。まんまと引っかかった男は、女がいる巣窟へと誘い込まれるという寸法なわけですよ。愛艇よっては、それがゆすりの対象にもなる。そんな連中を見つけた私は本当に愕然としましたね。しかも、やつらが最近の暴行ひったくりを計画していたんですよ。犯罪にならない程度にことを起こして、警察の目をそっちに引き付けることで、裏風俗を守っていたんですね。でも、本当の暴行魔やひったくり犯は別にいる。それを一緒に見ていたことが、却ってこの事件を複雑にしていたんです。でも、殺人事件の捜査だけは、どうしてお一方だけを見てしまう。だから、殺人事件もこのままいけば、ずっと平行線をたどったままになってしまって、解決はしないのではないかと私なりに思っていました。本当はそれではいけないと分かっているんですが、下手に裏風z句に入り込んでしまうと、今まで必死に隠そうとしてきた人に迷惑がかかるのではと思うと、私にはどうしても、このことを捜査本部に進言することはできませんでした。本当に申し訳ないことをしたと、私は深く反省しています」
 という、長い長谷川巡査の話が終わった。
「いや、いいんだ。よく話をしてくれたと私は思っている」
 と本部長がいうと、同じように清水警部補も、二人の刑事も頷いていた。
 横を見ると、涙ぐみながら、必死に長谷川巡査を見つめているお美紀ちゃんの姿が凛々しく感じられるほどである。今の捜査本部は、その日が始まった時とはまったく違う様相を呈してきたのだった。
「それにしても、裏風俗が話題にならないのは、何かの勢力に守られているんだろうか?」
 と、辰巳刑事が言った。
「もし、そうだとそれが、今回の殺人事件は、『トカゲの尻尾切り』で終わってしまうかも知れませんね」
 と、山崎刑事がいった。
 それを聞いた捜査員は一様に苦虫を噛み潰したような表情になったが、この表情は、最初にここに姿を現した時の長谷川巡査に似ていた。そのことを皆分かっていたのか、犯罪そのものが理不尽なものであることを象徴しているかのようであった。
「ところで、長谷川巡査は、独自に捜査を続けていて、どこまで掴んだのかな?」
 と清水警部補にいわれて、我に返った長谷川巡査は、清水警部補が向けてくれた話題に感謝したようで、
「そう、そうなんですよ。やつらの一人、きっと、この間お二人が見たと思われる男を追いかけて、やつらのアジトのようなところを発見したんです。最初の頃はやつらもかなり警戒していなのか、誰かに追跡されているという意識を持っていたようなんですが、やつらも手の内を見せなかったんですが、今はそれが慣れに繋がったのか、警戒が極端に薄れたんです。普通に尾行していると、やつらのアジトが分かったんですよ」
 と長谷川巡査がいったが、長谷川巡査としては、自分の手柄としてひけらかしているようすはない。
 それを謙虚と取るか、他に意味があるのかすぐには分からなかったが、
「その時に、偶然、見つけてしまったんです」
 と、長谷川巡査が続けた。
「何をだい?」
「倉庫のようなところがあって、そこで二人の男が待っていて。何やら話をしていたんですが、奥の方に、少し黒い何かがついているのが見えたんです。最初はペンキだと思ったんですが。、ペンキがあるような雰囲気の場所ではなかったんです。しかも、その黒い色が元は真っ赤だったような気がしてくると、そのシミは、飛び散ったものがついたという感じがしたんです。それで、鮮血の痕だと思うと、私はすぐに我に返って、その場を立ち去りました。正直、どうしていいか分からなかったんです。別の目的で尾行していたはずなのに、まさかそこで鮮血らしきものが見えたかと思うと、ここで何かの犯罪が行われたと思いました。それでこの間辰巳刑事のお話にあった『殺害現場は別にあった』という話を思い出したです。しかも、この間の話の中で、被害者の三橋という男が問題の席に座っていたということが分かると、急に怖くなったんです、最初は仲間割れかと思いました。でも、実はそうではなく、いろいろ見ているうちに、あの男が殺される理由は、組織お中ではなかったんですよ、あるとすれば例の不倫相手が絡んでいると思ったんですが、どうなんでしょう?」
「なるほど、不倫相手の女は相当のワルに思えたので、ひょっとすると、裏風俗に絡んでいたかも知れないね。絡んでいなかったとしても、あの男から自分の素行か何かをネタに脅迫されているとすれば、それが殺害の動機になる。あの女であれば、組織に罪を重ねるかのように、あの場所で殺害しておけば。犯行をやつらに着せることができる。だが、やつらとすれば、被害者があそこで見つかることだけは避けたかった。それで、あの場所に死体を移動させたという考えもできますよね。あの場所に移動させたことで、あそこで暴行未遂やひったくり未遂が起こっていることを逆に印象付けさせて。逆に今回の事件との関連性のなさを強調しようとする考えが働いたのかも知れないですね」
 と清水警部補が言った。
「でも、やつらの後ろには大きな力が働いているとすれば、裏の組織の指示があったとも言えるでしょうね。やつらのやり方は、結構、細かいところが節目になって、何重にも積み重ねられた欺瞞が、渦巻いているということなのかも知れないですね」
 と、辰巳刑事が補足するように話した。
作品名:悪魔のオンナ 作家名:森本晃次