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悪魔のオンナ

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「同じ髭剃りでいつもと同じ時間に沿っていれば、毎回同じタイミングでファイブオクロックができるんでしょうが、彼は毎日違うカミソリで、別の時間に剃っているので、規則的なファイブオクロックになるわけではないということです、だから、ファイブオクロックから分かったことは、彼にファイブオクロックが出ていたので、犯行時刻が何か作為されたのではないかという考えでしたが、逆なんですよ。犯行時刻に間違いはない分、ファイブオクロックがあてにならないということだったんですよ」
 と辰巳刑事は、興奮しながら話した。
 清水警部補は、もうここまでくれば、辰巳刑事が何を言いたいのか分かった気がした。
「そうか、それはきっと奥さんを裏切っているということなんだろうな?」
 と感じていたが、それは同時に、昼間の奥さんの話を完全に覆すものだった。
――しかし、鬱病として診断され病院に通っていたのは確かなんだろうに――
 と感じたが、その中のどこかに欺瞞が含まれていないと、どうにも話が矛盾していることになる。
――奥さんが教えてくれた医者に、早急に遭ってみる必要があるな――
 と感じた。
 それにしても、被害者の男が鬱病なのかと思っていると、とんでもない浮気男だったということになるとすると、いろいろ辻褄が合っていないことになる。そうなると、この男に対して、殺したいと思っている人の数は、爆発的に増えてきたかも知れない。だが、動機ということになると、却って狭まってくる。
「同じ理由を動機とした容疑者が、いったいどれくらいたくさんいるというのだろう?」
 一つの動機を考えただけでも、そうなのだから、もし他に動機が見つかれば、さらに犯人の絞り込みが難しくなってくる。
 しかし、逆の考え方をしてみると、同じ動機の人間がたくさんいるということは、その中に、
「犯人はいないのではないか?」
 という考え方である。
 被害者は今までに誰からも恨まれず、密かに複数の女性と浮気を繰り返していたのだとすれば、もし、誰か一人に怪しまれたりバレたりすると、案外そこから芋づる式に、他の女性との関係もバレてくるもので、あっという間に被害者の浮気が白日の下にさらされることになるのではないだろうか。
 特に鬱病を患っているのだとすれば、一つの粗が命取りになり、今まではせっかくすべてがいい方向に進んでいたはずのものが、一瞬にして正反対の動きを示す。それが、すべて悪い方に悪い方に導いてしまう鬱病を象徴してしまうことで、いきなりまわりは敵だらけになってしまうだろう。
――いや、待てよ? 過去にそういうことがあったから、やつは鬱病になったのかも知れないな――
 と思った。
 彼は鬱だけではなく、躁状態も兼ね備えているのかも知れない。
 躁状態では、鬱状態とは正反対に、すべてのことが計画通りに進む。すべての効果がいい方への相乗効果を生み出し、複数の相手と浮気をしていても、バレないという状況を思ずと作り出しているのかも知れない。
 だけど、まさか彼に恨みを持っている人間が、束になって彼を抹殺したわけでもないだろう。そうなると、殺しておいて、それを晒すなどということをしなくても、秘密裏にどこかに埋めるか、自殺の名所で知られる断崖絶壁から突き落とすということもできるだろう。
 そういうところは、えてして藻が絡んでいたり、水流が急になっていて、絶対に死体が上がってこないという場所であったりする。そうすれば、秘密裏に抹殺できるはずなのに、それをしないということは、もし彼らが犯人であるとすれば、やつを殺したという事実を公表したいという意思が隠されていることになる。
「公開処刑」
 という言葉があるが、たくさんの人間がタッグを組んで一つのことを成し遂げた場合というのは、公開の元に行うというのが、普通の考えだと言えるのではないだろうか。
 今までの捜査の中で、男女の関係の縺れによる、嫉妬であったり、裏切りによるプライドを傷つけられたことでの恨みなどが、絡まってはいたが、その動機を探ってみると、結局はその相手を憎みながらも、愛していたというのが、ほとんどであったような気がする。
 嫌いな人に対して嫉妬もなければ、裏切りを感じることもないというのがその結論である。
 そう考えると、もし男と女の関係が殺人の動機だとすると、この男は相手によって、自分というものを使い分けていたのではないかと考えられる。
 もっとも、相手が同じタイプの人間であれば、使い分けることもないだろうが、タイプが違っていると使い分ける必要が生じてくる。
「同じタイプの女性を好きになったとしても、浮気相手に果たして選ぶだろうか?」
 タイプが違うから、リスクを犯しても浮気をしてみたくなるというのが、浮気をする人間の心境ではないかと清水警部補は感じていた。
 とりあえずは、犯人や、動機がどういうものであるかはこれからの捜査に掛かっているとして、不倫の事実があるのかどうか、その見極めが大切であろう。
 どうやら先ほどの奥さんの様子から見ると、
「旦那の浮気を分かっていたのではないか?」
 と思えるふしがあった。
 旦那が鬱病ではないかということを簡単に明かすのも、自分が不倫の事実を知らなかったということを警察に思い込ませるための欺瞞だったのではないかとも考えられる。
 果たして、千恵子はそこまであざとい女性なのか?
 今のところ、清水警部補には理解できるほどの材料もなかった。
 直感としては、分かっているような気がするのだが、根拠があるものではない。やはり地道に調べてみる必要がありそうだ。
「これはやっぱり居酒屋『露風」に行ってみないわけにはいかないな?」
 と清水警部補は呟いた。
 それを聞いて辰巳刑事は、
「そうそう、昨日から清水さんは、何か露風というお店と被害者を結び付けるような発言があったので、何か意味があるのかな? と思っていたんですが、何かあるんですか?」
 と聞いてみた。
「ああ、いや、昨日あのお店に行った時に、カウンターの奥に一人座っている男がいただろう? あの男が座っていたあの位置に、前からよく座っていた男がいてね。その男が今回殺害された三橋さんに似ていたんだよ。ただ、今回は死んでからしか見ていないので、どうにも自信がなくてね。別に知り合いでもないし、話をしたこともないんだ」
 というではないか。
「そうだったんですね。女将さんなら何か知っているかも知れませんね。常連だったんだろうか?」
 と辰巳刑事が聞くと、
「そうじゃないかな? 私が行く時はたいてい、あの一番奥の席でチビリチビリと酒を口に持って行っていたからね。女将と話すことも他の人と話すこともなく、ただ黙って呑んでいるだけなんだ」
 という話だった。
「じゃあ、昨日のあの男のような感じなんですね?」
「ああ、そうだね。どうもあの店のカウンターの奥の席に座る客はあんな感じの客が多いようだ」
 と清水警部補がいうと、
「カウンターの奥に一人で座る客というのは、あのお店に限らず、ああいう客が多いんじゃありませんか?」
 と辰巳刑事がいうと、
「そうかも知れないな。ひょっとすると私も、、一人になりたい時は、思わず端の席に座ろうとするに違いないと思うからね」
作品名:悪魔のオンナ 作家名:森本晃次