小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

周波数研究の果てに

INDEX|27ページ/28ページ|

次のページ前のページ
 

「私にとっても、あの時のことは、できれば自分からやってもいない罪を認めるというのは究極の選択でしたよ。でも、博士の遺志に報いるため、そして研究成果を成就するため、さらには、自分のためといろいろ考えてのことでした。でも、やっぱり最終的には自分のためだったんですよ。それは、今となってすべてを理解しておられるであろう上杉さんには分かっていただけると思っています」
 というと、川北氏はホッとしたような表情になり、
「やっと僕に笑顔をくれましたね。その笑顔を見たかったんですよ。今あなたが呪縛から解放されたんだって思っています。お辛かった心境をお察しします。ご苦労様でしたというのが、一番の本音ですね」
 と、こちらも晴れやかな表情になった上杉記者の様子を見ながら、川北氏の目からは涙がこぼれ落ちているようだった。
「いいんですよ。そりゃあ、涙も流れるというものです。亡くなった博士も、先輩も今の川北さんの顔を見て、安心されているんじゃないかと思います。いいですか? 川北さん、あなたのことを一人でも理解している人がいるということだけは忘れないでください。私が今日ここにきた一番の目的は、それをあなたに知ってもらいたかったというのが本音なんですよ」
 と上杉記者は言ったが、この言葉を聞いて、さらに涙腺が緩んだのか、滝のような涙が、川北氏の頬を伝った。
「私があの時、告白したのは……」
 と、ゆっくり川北氏は語り始めた。
 それを聞きながら、上杉記者は目をつぶって考えていた。
「別に犯人を知っていて、その人を庇っていたというわけではありませんでした。ですが、結果としてはそれに近いことにはなったのですが、上杉さんには、もう大体のことはお分かりのようですね?」
「ええ、そのつもりです」
「あの時すでに博士は死の宣告を受けていたのですが、博士の中で大体の研究までにどれほどの期間がかかるかということは分かっていたようなんです。それで自分が存命中には、とても発表にまで至ることはできないと感じたのでしょうね。そこで私に遺言を残してくださいました。そこには、研究していくうえで、先生が生き続けられるのであれば、いくら私にであっても決して漏らすことのない博士の頭の中にある今後の研究予定などを克明に書き残していたんです。そして博士はこう書いていました。『私の研究は自分が生きている間に身を結ぶことはない。この研究を狙っている連中がいくつかあるという話は、ある新聞記者から聞いて分かっていたので、彼の助言を元に、自分は研究内容とこれからを克明に残す作業をこれから行うことにする。そして、私からこれを託された人間に、私の研究、そして大げさだが人類の未来を託したいと思う』と書かれていたんです」
「そのある新聞記者というのは、先輩のことなんですね?」
「ああ、そうだ。佐久間記者のことだ。うちの顧問弁護士でる佐久間さんの弟にあたられる方だよね」
「それで佐久間弁護士が私にあれだけ協力的だった理由も分かりました。本当に佐久間さんはよくやってくれています。話は戻りますが、その遺書の中には、かなり自分に危険が迫っているようなことが書かれていたんです。やつらが狙っていたのは、博士だけではないんですね。そこで、博士は究極の選択をなさいました。これは余計を宣告されたからできることであって、普通ならできません。博士は自らで命を断ったのです。その仕掛けが、今研究の周波数に隠されていました。博士は犬のペキニーズの周波数を使用したんです。その周波数で動く、簡易のロボットを使って、自らを殺させ、凶器をイヌに埋めるなりして処分させた。もちろん、そこまでの訓練は行っていたはずですが、まさかそれを自分が死ぬために使うことになるとは、博士も死んでも死にきれなかったかも知れませんね」
 と川北氏は答えた。
「じゃあ、博士は自殺だったと?」
「ええ、研究を守るために、まず自分がこの世から消えて、研究材料を密かに隠す必要があったんです」
「でも、どこに隠したというんですか? 変なところに隠せば見つかるし、よほど信頼のおける相手でないと、信用もできないし、それとあなたが自白したというのとがどのように繋がるのかが、まだハッキリとは分からないですよ」
 と上杉記者は言った。
「私の命もハッキリ言って、秘密結社の連中から狙われていました。いつ誘拐されて拷問に掛けられるか分からない状況です。特に博士が亡くなってからは、ひどくなるということは予想されています。そのためには、まず、博士が自分から命を断って、研究材料を信頼できる人に託し、その人の身も守らなければならない。それが、博士にとって最大の問題でした。博士とすれば、その役目を私に託してくださったんです。だから私は自分の身だけではなく、家族も博士の研究も守らなければならなくなった。家族に関しては佐久間弁護士に任せれば安心でした、何しろ、佐久間弁護士は佐久間記者を通じて、かなりの接近がありましたからね。博士の遺産もかなり佐久間弁護士のところにも行っていますからね。だから、奥さんと、研究内容に関しては、佐久間弁護士の方で、法的にも完璧な金吾に保管もできたんです。少々の結社くらいでは破ることはできません」
「じゃあ、あなたが自白なさったのは、刑務所が一番安全だと考えたからですか?」
「そうです。彼らの秘密結社は、少々危ない橋は渡りますが、まさか収監されている人にまで手を及ぼすことはありません。それに数年の実刑というと、彼らにとって必要な研究結果を得る期間まで間に合いませんからね。だから、私の弁護も佐久間弁護士にお願いしたんですが、適当な年数の実刑を食らう程度の判決でよかったんだから、楽だったかも知れません。いや、逆に弁護士の方で刑期を伸ばすというのは却って難しいことだったかも知れませんね。佐久間弁護士にはひどいことをしたのかも知れません」
 と、川北氏は言って、笑った。
「なるほど、それで刑期を終えて戻ってきての、研究だったわけですね?」
「ええ、すでにその時には危険な連中が狙ってくることもなく、思う存分に研究に勤しめたというものです。これが私にとっての一番の幸いでしたね」
「ところで、モノを捨てられないというところには何かあったんですか?」
「ああ、あれは、私の部屋がいつも散らかっているので、少々目につくところに何かのヒントがあっても、誰も分からないであろうという暗示のようなものです。実際に目に見えるところに博士が自殺をしたという証拠のようなものがあったんですが、警察も見逃しましたからね。もっとも私はそれが見つかったくらいで、このトリックが看破されるなどということはまったく考えていませんでしたから、まあちょっとした実験のようなものですよ」
 と言った。
「やっぱり、ペキニーズにしか分からない音というのは。モスキート音のように、一定の人にしか聞こえないようなものだったんでしょうか?」
作品名:周波数研究の果てに 作家名:森本晃次