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周波数研究の果てに

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「どうして川北氏が掌を返したように、自白に転じたのか、理由付けになるのではないか?」
 と思えたのだ。
もちろん、内容はその遺産を見なければ分からないが、一番その内容を読まずとも近づけるとすれば、今まさに先輩の遺産に近づくことができた自分しかいないだろう、
 専門的なことは、実際の宛先人である川北氏にしか分からないだろうが、信教その他であれば、先輩の意向を意識できている自分しかいないと思うのだった。
 だが、勝沼博士は、いつも研究ばかりしている川北氏に、その「遺産」の本当の意味が分かるということを最初から意識していたということであろうか。
 そもそも、この「遺産」のような伝言は、最初から意識していないとr買いできないものだと上杉は思っている。
 博士と先輩の周波数が同じで、先輩の周波数と受け継ぐのが自分であり、博士にも受け継がせる相手である川北氏がいるということになると、
「私と川北氏も同じ周波数の中にいることになる」
 という、三段論法が成立することになるであろう。
 イヌや同種ではない動物の言葉をすべて同じ周波数で皆変わらないように思うことで、言葉としては通用しない。それは敢えて動物の創造主が敢えて仕込んだことなのだろう。そこに何らかの理由を人間という立場から求めていいのかどうか分からないが、求めてしまうのは、博士が、そして川北氏が、周波数というものにこだわっているからであろう。
 それは、
「一定の年齢以上であれば聞こえなくなるというモスキート音と同じ発想だ」
 と同じ感覚なのではないかと思った。
 聞こえなくはならないが、言葉として理解できないという意味でいけば、モスキート音とは逆に、
「一定の能力を有していれば、動物の言葉が分かる人というのが現れたとしても何んら不思議のないことだ」
 と思うのだ。
 しかし、実際にはそんな人は現れない。もし、本当に分かるとして、自分から、
「私は動物の声が分かる」
 として訴えたとしても、その証明は誰がするというのだろう。
 そもそも、それが誰もできないから、誰も分かる人はいないと言われているだけであって。一人でも分かる人がいれば、二人目からは、言葉が分かるというアピールをしても、まったくまわりに響くことはない。最初の人間だから価値があるのだ。
 しかし、それを証明してくれる人がいないのも、最初の人間の宿命のようなもので、誰も分かってはくれないということである。
 そんなジレンマを感じていると、誰も、自分が動物の声が分かるという人はいないだろう。それが、世の中の矛盾であり、大きなジレンマを背負って生きているという証拠なのだ。
 そもそも、今回の学会への発表は、すぐに公開されたものではあったが、世間への公表は、少し控えていたのだ。
 学会で吟味され、受賞者へは、その省の受賞が通知され、マスコミにも発表されたが、内容だけは、公表の時期を、
「近日」
 として、控えられた。
 こんなことは実に稀なことであり、その理由も一切明かされなかった。上層部の一部の人間が、その内容と理由を知っていたが、上層部の中にも、
「理由は知っているが、内容は分からない」
 という政治的な立場の人で、研究にはずぶの素人であったり、逆に、
「内容に関しては理解できるが、理由に関しては意味不明だ」
 と言わんばかりの、学者肌の人もいた。
 ただ、研究の発表にはどこかから圧力がかかったようで、研究んお発端である勝沼博士が、今回の発表者である川北助教授に殺されたということが影響しているのだろうと思われた。
 それはただのウワサにしかすぎなかったが、果たしてウワサだけのことだったのだろうか。いや、火のないところに煙が出るわけもなく。理由が生まれるだけの何かがあったのは事実だった。
 それでも、いつまでも公表を控えていくわけにもいかず、発表記念パーティが開かれた数日後に、学会からプレス発表があったのだ。
 その時、研究者の川北助教授はその場にいなかった。それを見た会場の各記者たちは騒然としていて、
「あの、演台に立つのは発表者である川北助教授ではないんですか?」
 と聞かれた、発表側の主催者は、
「ええ、本当は川北助教授にお願いしたかったのですが、川北助教授からは拒否されました」
 という内容を訊いた時、記者席側では、先ほどよりも大きなざわめきが聞こえて、明らかに戸惑っているのが見て取れた。
 この様子であれば、主催者側からその真意を聞き出すことは難しいだろうと記者連中も思ったのか、それ以上、誰も川北氏がいないことに質問を浴びせる人はおらず、騒ぎはすぐに収まった。
「それでは、発表に映らせていただきます」
 ということで、会場は静粛なムードに包まれたが、その中に上杉記者は、いなかった……。
 上杉記者は、その日、川北氏を訪れていた。川北氏も上杉記者の訪問を意外に感じることはなく、快くとまでは言わないが、訝しがることもなく普通に訪問を受け入れた。
 上杉記者は、別に川北氏にインタビューを申し込んできたわけではない。だが、今回の訪問を、
「インタビューではない」
 と明言していたわけではない。
 記者がインタビューを口にせずに訪問を申し込んでくるというのは、さほど珍しいことではないが、上杉記者とすれば、自分の中では、
「もう、こんなことをするのは、最初で最後なんだろうな」
 と思っていたし、実際に最後にしたいという意思が強かった。
「今日、この時間、学会からの会見が行われているんですね」
 と、上杉記者が言うと、
「あなたは行かなくていいんですか? 私のところに来るよりも記者とすれば、あっちに行くのが正解なのでは?」
 と川北氏が話した。
「いいえ、こっちが私にとっては正解なんです。どうせ発表される内容というのは、おおよその想像はついていますからね。そして私にはその発表をあなたが拒否されるであろうことも、想像済みです。そうでなければ、今日のような日にアポイントを取るわけはありませんからね」
「ふふふ、まさにその通りだ、どうやら、あなたはある程度までのことはご存じのようだ。どうです? その状態で私という人間を見て、軽蔑されますか?」
 という川北氏のにこやかではあるが、挑戦的な顔に対して、
「いいえ、軽蔑などはしません。あなたがとても頭のいい人で、その時、一番いい選択をしたのだと私は思っています。ただ、それが正解なのかどうか、それは私には分かりません。正解というジャッジを下せるだけの技量はありませんし、そこまでの責任も負いたくはありませんからね」
 と、挑戦を受けて立った。
「なるほど、あなたは、正解を責任だと思われたわけですね?」
「ええ、ただし、今回に限ってのことでですね。つまり正解というものに対して責任を伴うかどうかは、その時々の事情によって違うと思っているからですね」
 と、上杉記者は、ハッキリと言ってのけたのだ。

                  大団円

 二人の空間は、空気が薄くなっているかのように感じられた。薄い空気の中では、声は籠って聞こえる。まるで霧の中に浮いているような感覚だ。だが、本当は霧の中というと、空気が濃いものなのではないだろうか?
作品名:周波数研究の果てに 作家名:森本晃次