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周波数研究の果てに

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「博士が『バカげている』と言った発想は、なるほど、最初は世間に受け入れられるものではありませんでした。正直私も、最初聞いた時は、『こんなことありえないだろう』と思ったものです。しかし、それが自分の目が一般の人からのもので、研究者としてのものではないと気付かされた時、少しであはありましたが。博士の気持ちが分かった気がしました。そして、博士がこの発見に気付いた時、どのような心境になったのかということを考えてみたのです。きっと、少年のような無邪気で、まわりのすべてのものが自分の発想を裏付けてくれているのではないかとまで感じたのではないかと思います。まあ、だからこそのこの研究何ですけどね」
 と言って苦笑すると、研究の意味を知っているまわりから、笑いが起こった、
 その笑いは、嘲笑のようなものではなく、尊敬を含んだ笑いであり、決して誰も川北助教授の言葉を軽んじて聴いているものはいなかっただろう。
 さらに川北助教授は続けた。
「っこの研究を完成させるために、私は博士の意志をすべてに感じるようにしました。亡くなった博士が、『お前ならできる』と言ってくれていると思ったんです。本当なら今の私にそんなことが言えるだけの立場ではないというおことは重々承知なのですが、この場でしかこんなことを口にできるはずもないので、敢えて、この席で言わせていただいております。ただ、これは、自己を守りたいという気持ちではなく、あくまでも、今回の研究の信憑性とこれがどれだけ、これからの学会、あるいは、この世の発展に寄与していくかということを願ってやまないからなのです。教授が創造し、私が具体的な一歩を踏み出した今日という瞬間を、大げさではございますが、皆様には歴史の証人になっていただければ幸いだと思っております」
 と言って、言葉を締めた。
 再度、一歩後ろに下がって、最初よりもさらに深々と頭を下げた川北助教授は、そのまま無言で壇上から降りてきた。
 まさにその一歩一歩はここに至るまでの苦悩と苦労を象徴しているかのようで、決して上げることのできなかった頭が、それを証明しているかのようだった。
 拍手はなかなか鳴りやまない。それは皆が川北助教授の気持ちを分かっているからであろうか。広い会場が、急に狭く感じられた瞬間だった。
 川北助教授は、壇上を降りると、いろいろな人から取り囲まれた。それを見ながら、一人の女性が、ワインを片手に一人で手持無沙汰のように見えた。
 白いドレスを着て、本来なら川北助教授のそばに寄り添っている立場の人であり、その人の名は、川北つかさといい、川北五郎助教授の奥さんであった。
 そもそもつかさは、勝沼博士のゼミに参加していて、今年で三十歳になる。夫の川北助教授とは五歳ほどの年齢差だが、どちらかというとしっかりしているので、川北夫婦を知っている人は、つかさのことを、
「良妻賢母の鏡のような人だ」
 と言われていた。
 まだ、川北夫妻には子供がいないので、
「賢母」
 という部分ではまだ何とも言えないが、
「子供ができれば、さらにそのしっかりした性格が顕著になってくるのではないか?」
 と言われているのも事実だった。
 その日の川北の研究発表披露パーティというものが、普通のものと違っているのは、この日が実は、
「ちょうど、勝沼博士の五回忌の日に当たる特別な日だ」
 ということも影響している。
 この日に敢えて当ててきたのは、司会者でもある、佐久間弁護士の助言があったからだ。佐久間弁護士は勝沼研究所の顧問弁護士として、博士の存命期間中からの相談役として、研究所を影から支えてきたと言っても過言ではない。つまり、佐久間弁護士が今の実際の研究所における首領だと言ってもいいであろう。
 相談役としてはもちろんのこと、ほとんどの決定権を握っていて、顧問弁護士としてだけの権限ではないことは誰にも分かっていることであった。
「勝沼先生の遺志がまず一番、そして、研究員の自由な研究環境を作っていくのがその次のことだ」
 と常々語っていた。
 それは、雑誌などの取材で明らかになっていることであり、サイエンス系の雑誌だけではなく、経済紙や、一般紙からも広く取材を受けていた。佐久間弁護士はスポークスマンでもあったのだ。
 そうなると、完全に佐久間弁護士は万能であり、広く影響力を持っていると言えるだろう。
 そんな佐久間弁護士を慕ってたくさんの研究所の人間が訪れることで、佐久間弁護士の力がどんどん強くなり、
「影の支配者」
 などと言われるようになっていたが、実際の佐久間弁護士には、
「別にそれくらいのことを言われるくらいは、最初から想像していたことだ」
 とでも言わんばかりに、平然としている。
 佐久間弁護士が博士を慕っていたか、さらに博士がいかに佐久間弁護士をいかに信頼していたかが分かるというものだ。
 だから、博士が亡くなったという第一報を聞いた時、信じられないという思いがあったのも事実であったが、その死がどのようなものであったのかを聞かされた時、
「ああ、そういうことになってしまったか」
 と、まるで予感めいたことがあったかのように呟いていたのだ。
 つまりは、
「博士が亡くなるとすれば、一番可能性が強いと思っていた死に方を、博士はすることになったんだ」
 と、佐久間弁護士には分かったのだろうと、思われた。
 だが、そこからの数年は誰もが認める波乱万丈で、佐久間弁護士も大いに活躍することになるのだが、その活躍は皮肉めいたもので、何も自分から望んだものではなかった。
 しかし、こんな時だからこそ、佐久間弁護士の力が必要であったのだし。研究所の人たちが、五里霧中にならず、分裂を避けることができたのも、佐久間教授の力によるものであったと言っても過言ではない。
 だからこそ、今回の研究発表の披露パーティが、つつがなく行われることになったのだと、誰もが感じていた。
 何しろ、主人公である川北助教授の立場が、博士が亡くなってからは微妙なものとなり、それからの苦悩を考えると、佐久間弁護士は、
「決してここまで来たのは私の力ではない。むしろ、私の力の及ばなかったことを、悔いているくらいだ。せめてもの罪滅ぼしに、研究所をずっと支えていく覚悟であるし、川北助教授を全力でバックアップしていくことを宣言したい」
 と口にしていたのだ。
 そんな時、つかさの様子に気付いた佐久間弁護士は、つかさに近づいていった。
 今回の主人公の妻と、司会者、さらにその司会者が、団体の影の首領と呼ばれる人との会話であれば、パーティの席上という公然の場面なので、何ら違和感はなかったが、実はこれがどれほど違和感のあるものであるということに気づいた人がいるんだろう。
 奥さんの気持ちとしては、本当はこんな場面に自分が浮いてしまっているということを理解していたのかも知れない。手放しに旦那の功績をまわりの人が称えてくれているわけではないことを分かり切っているだけに、この場にいるだけで、大いに不安に駆られていた。
「奥さん、いかがですか、ご機嫌の方は」
 と、佐久間弁護士に話しかけられて、つかさはやっと我に返ったかのように、
作品名:周波数研究の果てに 作家名:森本晃次