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周波数研究の果てに

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「それはそうだろう。脅迫されたという事実は昨夜からなんだからな。だから、この話は川北君も知らない、だが、俺はこれを完成できないまでも、無傷で川北君に託したいんだ。だから、もちろん、そんな脅迫に応じるつもりはないし、どうしたらいいか、少し君の意見を聞きたいと思ってきてみたんだが、どうやら君の方ではそれどころではなさそうだな」
 と言われた私は、
「本当に申し訳ない。私ももうほとんど起き上がることもできないくらいになっているんだ。身の回りもヘルパーさんがやってくれていて、今は自分の残りの資料整理だけで精一杯なんだ。お前も警察に届けるわけにはいかないのか?」
 というと、
「そんなことをすると、やつらは何をするか分からない。殺される覚悟を持ってやるしかないんだろうが、実は今の俺は、以前の俺のように殺されるということに対して、敏感なんだ、つまり、余命が分かっているだけに、それを自ら縮めるということに非常な抵抗がある。だから警察沙汰にはしたくない」
 というではないか。
 その気持ちは私でなければ分からないだろう。私は博士にどういっていいのか分からずに考え込んでいたが、
「とにかく、私は川北君に後を託したい。本来ならあなたに彼の相談相手になってほしいくらいなんだが、お互いにそうもいかないだろう。後は、正直川北君の判断にゆだねるしかない。本当に頑張って完成させてほしいんだ」
 と書かれていた。

 そこには、先輩と川北氏とはまったく知らないわけではないと書かれていた。
 どうやら、博士は一度、先輩に会いにいくように、川北氏に話をして、一度会いに来たことがあったらしい。その時にどんな話をしたのかまでは書かれていなかった。
 どうして書きこの差なかったのかを考えると、二つが考えられる。
 一つは、博士の殺人事件が起こった場合、そしてもう一つが、先輩自体の容態が急変し、それどことではなくなってしまった場合、
 上杉記者は、
「これは後者の可能性が高いのではないか?」
 と思ったというのだ。
 その時、川北氏と先輩がどんな話をしたのかは、あまり詳しく書かれていなかった。しかし、この時に川北氏が先輩に会っているということは、ひょっとすると、博士が殺される前に、博士の命が余命よりもさらに短くなるかも知れないということを、分かっていたのかも知れない。
 それを考えると、川北氏が博士を殺したというのは、どう考えても矛盾しているような気がする。
 ハッキリと下物証があるわけではない。殺していないという物証である。もし、彼が犯人でないとするならば、物証になることは一つしかない。
「真犯人を確定させる」
 ということ以外には考えられないのではないだろうか。
 川北氏が自白したのは、
「真犯人を庇いたいと思ったからだ」
 というのが、理屈としては一番考えられることであった。
 それでは川北氏が一番庇いたいと思っている人がいるとすれば誰になるというのだろうか?
 普通に考えればやはり奥さんのつかさのことであろうか。しかし、その時の容疑者の中から一番最初に外されたのは、確か奥さんだったはず。どんな内容だったのかまではハッキリと覚えていないが、鉄壁のアリバイが確か存在したからだったはずだ。
 それを思うと、奥さんは絶対に犯人ではないと分かっているのだから、奥さんを庇うという理屈は成り立たない。
 それ以外に川北氏が庇う相手は誰もいなかった。何しろあの時に勝沼博士を殺害する動機があったのは、川北夫妻しかいなかったからだ。
 状況的には佐久間弁護士もありえるが、佐久間弁護士にも鉄壁のアリバイがあったし、動機という意味ではむしろ、勝沼博士には死なれては困るくらいで、殺害など、考えられない。
 しかも、犯行現場から見て、とても衝動的な殺人ではないのは確かだった。それを思うと、博士が殺されたというのは、
「容疑者は最初から限られていた」
 ということである。
 だが、ここにもう一つの可能性が考えられた。
 今まで封印してきた
「先輩記者の遺産」
 ともいうべき書置きを見たからである。
 勝沼博士は、川北氏と一緒に研究を進めていた。二人で共同で進めていて。まだその頃は外観が見えたくらいの頃であったので、川北氏にとっても、博士に今死なれてしまっては、困るという事情もあった。
 それは警察が掴んでいない情報であり、博士は誰にも言わなかったので、知っているのは、川北氏と先輩記者の二人だけだったのだろう。
 そして、研究が狙われているということを知っていたのも、この二人ということになる。それが意味することはどういうことなのか、川北はどこまで分かるというのだろうか。
「川北助教授が、犯人だとすれば、確かに借金というリアルな問題があったが、科学者としてもう少しで、世界があっと驚くような発見ができるというのを、みすみす見逃してしまえるのであろうか?」
 それを考えると、上杉記者は、よくわからなくなってきた。
「川北氏が一体何をしたかったのか、なぜ実刑を受けてまで、前科者という烙印を押されてまで、自供したのか、そして、出所後にいきなり研究を再開し。二年という期間で、教授のいない環境で開発を完成させることができたのは、早いのではないか」
 と思えるほどであった。
 上杉記者は、本当はそこまで深く聞いてみたかったのだが、まるで過去の確定した事件をほじくり返しているようで、特にこちらがジャーナリストという立場であることもあり、きっとその後に抱いた不信感のせいで、二度と彼は上杉記者に心を開くことはないに違いない。
 そんなことを考えていると、一つ気になってきたことがあった。
「この研究に関しては、あくまでも川北氏と勝沼博士、そして先輩記者の三人が私から見ると見えてくるのだが、事件を背景にしても、この三人しか出てこないというのはおかしい気がする。確かに、鉄壁なアリバイに守られているとはいえ、まったく関係者としても、その名前が出てこないのは、いかにも不自然な気がする。その名前というのが、佐久間弁護士ではないか?」
 と上杉記者は思った。
「この事件での佐久間弁護士の役割がいまいち見えてこない」
 というのが、不思議であった。
 佐久間弁護士には、一応、遺産の一部と、顧問弁護士としての会社の経営に参画できるようにしてくれたことが大きな収穫であるので、まったく殺す場合の動機がないことは分かった。
「では、何か弱みを握られているのではないか?」
 という疑問も、どうやらなさそうである。
 そもそも、そんな危なっかしいことをしなくても、事務所経営はそれほど危機に瀕しているわけでもない。むしろ研究所の顧問をやっている方が、よほど利益には繋がるというものだ。
 先輩は、佐久間弁護士の女性関係を疑ってみたようだが、どこからも、怪しい話は出てこない。つかさ夫人との間にもそんなウワサはなく、
「二人で共謀し、博士を殺した」
 という説もありえなさそうだ。
作品名:周波数研究の果てに 作家名:森本晃次