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周波数研究の果てに

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 したがって、最初は聞かれたことに対して素直に答えていただけのので、すぐに返事ができたが、次第に考えてからの返事を余儀なくされたことで、簡単に返事ができなくなっていたのだ。
 返事に対しては黙秘権もいいのだろうが、黙秘をするにしても、それなりの理由を考えておかないと、突っ込まれないとも限らない。特にこの男が相手だと、容赦がないような気がして仕方がなかった。
――テレビのインタビューでなくてよかった――
 と感じたのは、生放送の可能性があるからだ。
 そうなると、余計なことはいえないので、黙秘が多くなるかも知れないが、逆に生放送なので、その分は容赦のあることだろう。
 一件、テレビのインタビューでなくてよかったと思ったが、考えてみれば、生放送ではない分、返事に対しての相手側の捉え方は、本当に容赦がないかも知れない。
「言い訳は一切通用しないぞ」
 と言っているかのように見えるくらいだった。
 この回答には少し時間を掛けたが、いい答えが浮かんでくることもなかった。
「どこまで目指すというのは、今の段階ではなかなか堪えられないと思います。私たちの研究は、たぶん、一直線に進んで行くことになると思いますが、その都度都度で何かしらの答えのようなところに辿り着き、そこから次のステップの終点が見えてきて、その見えてきたものに対して進んで行くことになろうかと思います。だから、今見えているのは、次のステップの最終であり、そこから先はまったくの未知数になりまね」
 と答えた。
「じゃあ、今見えている次のステップの最終というのは、どういうところなのでしょうか?」
 と聞かれたが、その回答も難しい、
「今の段階での説明も実は難しいんです。まず我々も見えていると言っても、漠然としたものであり、形と言えるものかどうかまでは何とも言えないんです。そこでまず次のステップの第一段階としては、見えている目標をハッキリさせることですね。何が見えるかというよりも、その方向にどれだけの大きなのものがあって、そこを目指すには、どの道を通ればいいかということを理解する。それがまずは最初だと思っています」
 と答えると、
「なるほど、見えてはいるけど、ハッキリとはしていないということですね?」
「ええ、第一段階では、見えているものをハッキリさせるというよりも、目指していいのかどうかの判断すらしなければいけないというところですね。ただ、これは重要なことであって、普通の人が何かを目指す時というのは、往々にして、それについて考えないんですよ。だから、いつの間にか目標にしていたことが分からなくなって、何をしていたのかすら分からなくなってくる。時々、すぐに飽きてしまって、自分を三日坊主な飽き性だと思っている人がいると思いますが、その人は飽き性だというよりも、最初に見つけた目標に対して、何も考えずに突き進もうとするから、見失った時、それまで通ってきた道すら分からなくなり、目の前に見えるリタイアの出口から簡単に出ていく。そんな人は、リタイヤの出口どころか、出口の存在にすら気付いていない。だから、最初から入ったという意識がないので、飽きてしまったことへの後悔だったり、飽き性であることを本当に悪いことだとは思わないんでしょうね。誰にでもある『悪い癖』という程度のものにしかならないですよ」
 と、川北氏は答えた。
 答えながら、
―ーよくここなで理論的に説明できるものだ。以前の自分だったら、絶対にできなかったはずなのに――
 と、研究所の所長としての立場が、自分をそのような考えに導いてくれたと思っているのだろう。
 博士が生きている時は、博士の影に隠れて、ただ研究の助手をしていればよかっただけだ。
 今回の研究であっても、博士の助手として一緒にいたからこそ、ここまで進んだのであって、そういう意味で、勝沼博士は、
「本当の先駆者」
 だったのである。
「川北さんは、ここまで本当によく研究を支えてこられましたね?」
 と聞かれたので、
「いいえ、勝沼博士が我々に残してくれた研究成果が、私の手によって実を結んだというだけのことです」
 と川北氏は言った。
 しかし、これは少し危険な回答であった。何しろ、
「博士を殺したのは、川北助教授だ」
 ということになっているので、川北氏とすれば、本当であれば、
「博士の話題をなるべく口にしたくないというのが心情であろうが、それでも、自分が先駆者ではないということを強調したかったのだろうか?」
 と考えるのが普通であろうに、自分から博士の話を持ちだすというのは、よほどの勇気がいるのだろうと思った。
 だが、この返答をした時、川北の表情が変わることはなかった。川北くらいの頭を持っていれば、この状況を判断することなど、そんなに難しいことではないはずだ。
 そんなっことを感じながら、上杉記者は、次の質問に入った。
「勝沼博士はどのあたりまでの研究をされていたんですか?」
 と、言った。
 この質問は、本来であれば、ナンセンスと思われる質問である、それを敢えてしたのは、川北氏の顔色を見たいと思ったからだった。
 案の定、少し戸惑っている。ただ、それでも少し考えて、
「私の口からは説明しかねますね。と言っても、言えないというわけではなく、きっと言葉にしようとすると、皆さんが理解できる範囲を超えた答え方になるのではないかと思うのです。だから、この質問に対してはご回答できないということにしてください」
 と答えた。
 学者の側からすれば、至極当たり前の返答であるが、一般の人からすれば、意味が分からない。下手をすれば、言い訳にも聞こえかねないし、川北氏の立場からすると、微妙なところに追い込まれかねない回答だったと思える。
 ナンセンスかどうかなどという問題以前に、この問題に込められた意味は、もっと深いところにあるようだった。
 川北氏は、上杉記者の質問に対して、思っていたよりもスムーズに答えられている自分に感心していた。
――私はいきなり質問されても、臨機応変に答えるくらいの技量を持ち合わせているんだ――
 と思ったのだ
 相手の上杉記者の方も、
――私は、川北氏を少し甘く見ていたのかも知れないな。ちょっとした軽く抉るくらいの質問で、簡単に黙秘を使ってきて、それに対しての言い訳も、しどろもどろになるに違いないと思っていたくらいだからな――
 と考えていた。
「それでは少し質問を変えましょう」
 と言い出した上杉記者だったが、川北氏もせっかく学術に関しての質問なら、何とか返せる自信ができていただけに、少しドキッとしたようだった。
「どういうご室温でしょうか?」
 と相槌を打つと、
「川北助教授を影で皆さんが支えてくださったと思いますが、今回の発表の好評価について、誰に一番に感謝したいですか?」
 という内容の質問だった。
 少し和やかな質問であるかのように思われたが、どうもそうではないようで、川北氏はどこか身構えていた。やはり、博士を殺害したというレッテルが、彼を臆病にさせるのか、彼とすれば、素直に白状し、刑に服することで、
「禊は終わった」
作品名:周波数研究の果てに 作家名:森本晃次