周波数研究の果てに
これは、フランケンシュタイン症候群とも言われていて、人間のためになるアンドロイドを作ろうとして、ちょっとした手違いから、怪物を作ってしまったことでの教訓であるが、その教訓が人間の頭の中に、
「人類のトラウマ」
として刻み込まれたのか、その後、ロボット開発における、
「ロボット工学三原則」
なる考え方が生まれてくることになった。
あくまでも、それは、人間をターゲットにした、ロボットの戒律のようなものである。
三つか戒律を破ることは絶対に許されないというもので、これが完全に機能するロボットでなければ、作ってはいけないのだった。
これはあくまでもロボットの安全性についての問題であるが、そもそもロボット開発が理論的に無理ではないかと言われるゆえんも存在する。
これが、一種の、
「フレーム問題」
と言われるもので、こちらはタイムマシンのパラドックスのように、理論的に不可能ではないかと言われるゆえんの発想であった。
ロボットに何か命令をした場合、たとえば、
洞窟の中に燃料があるので、その燃料を取ってくるように」
という命令をしたとする。
ロボットは、洞窟の中で、そこにある燃料を認識したが、その下に別の箱があるのが分かった。その箱が爆弾であるということも分かっている。つまり、ロボットが燃料を運ぶために、燃料を持ち上げれば、爆弾が爆発するという、人間の大人が考えればすぐに分かるようなちゃちい仕掛けであったが、そのロボットは迷わず燃料の箱を持ち上げて、結局爆発してしまった。要するに、爆発するのは分かっていたが、そこまでの知能がなかったということにある。
次に開発した二号には、ロボットに先を予知する力を与えたのだが、そのままフリーズしてしまい、何もできずにその場にいて、結局時限爆弾なので、そのまま爆破に巻き込まれたのだ。
ロボットのいわゆるボイスレコーダーともいうべき、知能の記憶装置には、その時のロボットの考え方が、残っていた。
ロボットは、箱を持ち上げたらどうなるかをいろいろ模索して考えたようだ、その中には、壁が白くなったら、とか、持ち上げた瞬間、別の世界が開けたら、などというまったく考えないでもいいことまで考えてしまった。
つまりは、次の瞬間、何が起こるか分からない状況であるということだ。可能性は無限にある。その無限の可能性を高速で計算したとしても、結論など出るはずもない。
そこで考えたのは、
「人間のように、その場その場をパターンに分けて、考えられるようにロボットの知能を変えればいいという発想が出てきたが、考えてみれば、次に起こることが無限だということであれば、そのパターンも無限にあるというわけである、つまり、いくらパターンでゾーンを決めても、結局無限地獄から抜けることは不可能なのだ。
この場合のパターンやゾーンのことを、フレームという言葉で表し、このような問題のことを、
「フレーム問題:
と表現するのだった。
人間が、このフレーム問題に無意識で解決できる理由は謎であるが、ロボットにはこのフレーム問題を解決することはできない。
ロボットを作り出す人間に、そのメカニズムが分かっていないのだから、それも当然と言えるであろう。
このような、フレーム問題であったり、ロボット工学三原則のようなものが解決できなければ、永久に人間がロボットを作り上げることなどできないのだ。
リアルな問題というのは、このフレーム問題のことで、タイムマシンにおけるタイムパラドックスと同じような解釈だと思っていいだろう。
川北氏の考えた発想は、直接ロボットやタイムマシンに関係があるというわけではないが、どちらかというと、この発想から、ロボットやタイムマシン開発の何か糸口が見つからないかという程度のものだった。
それでも、
「数十年に一度の大発見」
とまで称されたものであり、
川北氏が考えた研究の概略とすれば、
「すべてのモノはある周波数に共鳴するようにできていて、その周波数に合わせれば、最終的には自在に動かすことができる」
というものだ。
「そんなのリモコンと同じではないか」
と言われるであろうが、すべてのものの共通性を見つけ。ある程度まで周波数により、遠隔である程度の動きができるようにするのであれば、ロボットが知能を持たなくても、人間がコントロールすればいいという考え方である。
ただ、ここにもそれなりにフレーム問題が絡んでくるのだろうが、ロボット独自に何かを考えるわけではなく。指示を出すのが人間なので、これなら、ロボット開発における、当初の目的は達成できるだろう。
しかもロボットというものは、ロボット工学三原則を埋め込んで、人間に危害を加えないようにしなければいけないという課題も、最終的には人間の意志で動くのであれば、その問題は解消する。ただし、三原則の組み込みは絶対に必須ではあるが……。
川北氏は、この研究において、第一人者であった、勝沼博士の後継者として一人前になった。それが証明されたのであって、理由あって殺してしまったことになっているが、博士の意志を継いだことで、ある程度、懺悔になったのではないだろうか。
先ほどからよく出てくるいわゆる、
「ロボット工学三原則」
というものが何であるか、
これは、実は学者が提唱したものではなく、アメリカのSF、ミステリー作家が、今から半世紀以上も前に提唱した、
「小説のネタ」
に過ぎなかった。
だが、あまりにもよく考えられていることで、その後の日本においても、アニメーション、特撮などの発展とともに、ロボットものにおいては、この三原則を中心に描かれたものが多かった。
特に勧善懲悪なるストーリーものには、よく描かれていて、あくまでも、
「人間が考えた、人間のためのロボットへの戒律」
となっていた。
これは、三原則という言葉どおり、三つの条文からなっていて。ここからが問題なのだが、最初を最優先として、すべてに優先順位がつけられていた。
まず最初の条文は、
「ロボットは人間を傷つけてはいけない」
というもので、さらに、補足として、
「人が傷つくことが分かっていて、それを黙って見過ごしてはいけない」
という条文もあった。
この二つはすべての状態に対して接待的に優先されるものである。さらに、第二条として、
「ロボットは人間のいうことに従わなければいけない」
というものがある。
ただし、これは第一条の次の優先順位なので、
「人(支持する相手)を殺しなさい」
という命令は、第一条に抵触するので、その命令を聞いてはいけないということになる。
そして第三条であるが、
「ロボットは自分の身は自分で守らなければいけない」
というものがある。
これも、第一条、第二条に抵触しない限りの優先順位なのだが、これは、ロボットを守るためというよりも、ロボット開発にお金がかかっているので、ロボットに勝手に壊れられてしまうと、その分のお金が無駄になるという、どこまでも人間のための戒律らしさを示していると言えるのではないだろうか。