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短編集119(過去作品)

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「でも、最初は本当にあなたと知り合った時は、もっと長く付き合っていけると真剣思っていたのよ」
 と話している。
「僕に何かが見えたの?」
 と聞くと、
「ハッキリとは分からないんだけど、後光が差しているようにも見えたのね。私がどうかしていたんだわ」
 二人くらいはそう答えてくれた。他の人は話したがらない様子だったが……。
 好きになるタイプの女性は、似ていないつもりでいても、別れる時に冷静に考えると、皆よく似た性格の女性たちだ。考えてみれば当たり前のことで、それだけ自分がむやみやたらに人を好きになっていないということと、同じような性格の人だから、自分を気に掛けてくれるんだということが分かってくる。
 特にハッキリと答えてくれた二人はよく似ていた。顔の雰囲気もしっかりものが言えるタイプだったので、会話が一番弾んだ二人だった。他の人と会話が弾まなかったわけではないが、会話のタイミングというのが抜群だったのは、この二人だった。
 数ヶ月の間に、身体を重ねた女性もいた。
 もっとも、身体を重ねてからすぐに、余計なことを考えてしまったらしく、それまで平沼に対して感じていたイメージが一気に変わってしまったという。
――どんなイメージを抱いていたというのだろう――
 聞いてみても答えてくれない。身体を重ねるまでに至った女性は、ずっと無口なタイプの女性だった。
 いつも従順で、何ごとも平沼の言うとおりにしていた。ある意味付き合いやすいタイプではあったが、時々、
――何を考えているのだろう――
 と感じないでもなかった。
 身体の相性が悪かったわけではない。あくまでも気持ちの問題だ。平沼は彼女たちと身体を重ねることで、
――やっと一つになれたんだ――
 という満足感に満ち溢れていたのは事実だった。
 彼女は物忘れが激しいタイプのようだった。
 最初は、物忘れが激しいことが不思議だったが、気がつけば平沼自身、物忘れが激しくなっていた。昨日のことも思い出せないくらいになっていて、どれが昨日のことだったかすら覚えていない。
 さらに、何かを思い出してメモを取っても、メモをしたことすら忘れているので、メモを見る習慣をつけていなければ、せっかく思い出したことをまたしても忘れてしまうことになってしまう。
 きっと整理整頓ができないことが物忘れの原因になっているのかも知れないと思ったが、ひょっとすると、彼女と一緒にいるからかも知れない。
 それを意識し始めると、彼女にも分かったようで、お互いにぎこちなくなってしまった。物忘れが激しい分、相手の気持ちを察知するのが早いのだ。
 平沼の場合は、それがまわりへの不信感に繋がっていった。
「敵を欺くにはまず味方から」
 という言葉を思い出すのはそのあたりに原因がある。
 興味を持ったことだけに一生懸命になるのは、物忘れが激しくなる要因だったのかも知れない。たくさんのことに興味を示して一生懸命になっても、せっかく一番興味を示しているものまでおろそかになってしまうことを無意識に憂いているのだろう。反動と言ってもいいだろう。
 興味を示したことに対しては自己顕示欲が強いのに対し、それ以外のことでは謙虚である。それも被害妄想や、猜疑心の強さから来るものであろう。
――眠たいのに眠れない――
 白夜の夢を見ているのも、そんな気持ちを反映している。我慢に我慢を重ねることで、楽しみへの反動を呼びたいと思う気持ちも働いているのか、白い閃光に違和感は感じられない。
「気がついたら寝ていた」
 そんな自分に気付いた時、白い閃光が自分にもたらすものが何かを知ることになるだろう。
 自分の中でずっと沈まない太陽が、一番何に興味を持っているかを示しているのかも知れない……。

                (  完  )

作品名:短編集119(過去作品) 作家名:森本晃次