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短編集119(過去作品)

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 しかし、ちゃんと夜を迎えて眠るようなわけにはいかないだろう。あくまでも夜を迎えて寝ている我々から見た感覚であるが、どちらにしても体内時計は我々と彼らではまったく違う構造になっているに違いない。
 夜になると眠くなるという概念、朝が来ると起きるという概念は、あくまでも体内時計が作るものであろう。最近は二十四時間勤務の人もいるので、夜勤をしている人でもキチンと睡眠を取る。
「体内時計が狂ってしまうよ」
 とは言っているが、日常になってしまうまでがきついだけで、そこを通り越せば後は体内時計がコントロールしてくれる。
「俺にはできないかもな」
 平沼は一人考えていた。
「敵を欺くにはまず味方から」
 という言葉があるが、平沼にはそんなところがあった。
 どうしても、人を信用できないところがあった。しかし、それに気付いたのも最近になってからのことだった。
 以前は、人をついつい信じてしまうタイプで、人を信じることが自分の性格の一つだと思っていたのだ。
「ちゃんと人のいうことは聞きなさい」
 という親の教えを忠実に守っていたわけだが、その言葉の本当の意味を理解していなかった。
 そういうことは得てしてたくさんあり、知らず知らずに子供の頃に受けた教育を文言どおりに守っていることというのはたくさんあるだろう。しかも、それを言われたのがごく最近だったように生々しい記憶として残っているものである。それは自分だけではないと思っている平沼だった。
 友達と一緒にいると、どうしても自分を分かってもらいたくて友達に言われたことが悪いことであっても実行してしまうようなこともあっただろう。今から思い返してみると、本当は誰にも言わず、墓場まで持っていかなければならないだろうこともあった。
「ほら、お前もやれよ」
 手足は震えていた。中学一年の頃だったか、当時の友達の中に不良グループもいた。促されるままにコンビニに出かけ、まわりをキョロキョロしながら、手に持ったものをレジを通さずに出てきたことがあった。
 実際には、思わず手に取ったものを地面に落としてしまって、あたふたしているところのそのうちの一つを持ってきてしまったので、成功したのだろう。もし、あれが普通にやっていれば監視カメラに写っていただろうし、怪しまれたに違いない。地面に落としてしまったことで、ある意味注目を浴び、
「まさか、こんなやつが万引きなんて」
 と思わせたのかも知れない。功を奏したとはこのことだろう。
 その時、平沼は、一瞬意識を失ったかのような気がしたが、実際にはどうだったのか分からない。
 それからというもの、不良グループは平沼に関わらなくなった。
「お前のあの時の顔、恐ろしかったぜ」
 不良グループも中学三年生になると、普通の中学生に戻っていて、受験勉強も一生懸命にやっていた。
「きっかけは、お前だったかも知れないな」
 平沼を相手にそう話していた。
「あの時のお前は恐ろしい形相だった。いや、形相というか、まるで後光が差しているかのように顔がハッキリ見えなかったんだ。まるで金でできたお地蔵さんのようだったんだぜ。俺たちは恐ろしくてお前に関わるのをやめたのさ。そのうちに悪いことをしている自分たちが情けなくなってな」
 と、そんな話だった。
「こんな俺でも役に立ったということかな?」
「ああ、もちろんさ。今ではお前に感謝しているくらいさ」
 三年生になれば立場は逆転していた。平沼はクラスでも成績はトップクラス。まわりから一目置かれていて、ノートを貸してほしいという人が後を絶えない。勉強を一緒にしたいという人も少なくなく、なるべく、一人でしていたが、付き合ってあげることもあった。それが気分転換にもなり、何よりも優越感に浸れるのが嬉しかった。
「時々、平沼が真っ白に見える時があるんだ。まるでのっぺらぼうというのかな」
 そんな噂が少しずつ立ち始めた。まさか、本当にのっぺらぼうになるなんてkとはありえないのだろうが、それを聞いた時に感じたのは、かつての不良グループに言われた、恐ろしい形相というのと、後光が差しているという言葉だった。
 彼らにはまるで神様仏様の類に見えたかも知れないが、他の人には気持ち悪く見えたことだろう。どうしてそんな風に見えるのか分からなかったが、それで人が遠ざかって、一人で勉強ができるようになるのであれば、それでもよかった。
「白い閃光」
 ちょうどその頃に読んでいた小説の中にそんなフレーズがあった。皆がいう、真っ白に見えて後光が差しているというのは、白い閃光によるものかも知れない。自分で見ることができないのは残念だった。
 高校受験も無事に済み、普通に迎えた高校時代だったが、またしても、物理の宿題によって、「白い閃光」を意識させられるとは、何とも因縁めいたことであろうか。平沼は自分が白い閃光から逃れることができないことを悟った。
 だが、自分に危害を加えるわけではない。誰かから後ろ指を指されたり、迷惑を掛けるわけでもないので、とりあえず気持ち悪いだけであった。いつまでも気にしているわけにもいかないだろう。
 高校を卒業してから、大学に入ると、大学というところが、一人でいることはないところだと思うようになった。一人でいても、必ず誰か関わってくる。元々大学に入ったらたくさんの友達を作るつもりでいたので、違和感などなかった。
 ただ、さすがに彼女はほしいと思った。高校時代までは彼女がほしいとは思っても、一人でいることの方がよかったかも知れない。
「まずは大学受験」
 という意識があったので、大学受験を成功させるためには一人でいる方がいい。下手にまわりに人がいると、自分の中で依存心が生まれたり、気分転換という名目で甘えが発生してしまうと思っていたからである。
 確かにその傾向はあった。一人でいると捗るものも、人といると話題が変わってしまってなかなか先に進まない。それを、
「人がいたからな」
 と正当化してしまう自分にも腹が立っていた。
 高校時代は文系で、受験も文系を目指していた。入った学部も法学部、だが、、なぜか化学は好きだった。
 歴史や文学に造詣が深く、それで文系を目指したのだが、法律にも興味があった。そんな中で化学に興味を持っていたことが、社会人になって役に立つとは思わなかった。ひょっとして会社の人事の人にも平沼に「白い閃光」を感じたのかも知れない。
 大学に入って彼女は数人いた。そのどれもが長くても数ヶ月の付き合いという短いもので、その理由は今になっても分からない。
 最初に仲良くなるきっかけを掴むのはうまかった。
「お前は女性と仲良くなるのがうまいな。見習いたいものだ」
 皮肉にも聞こえるが、半分は本心だ。確かに仲良くなるきっかけを掴むのはうまいのだろうと自分でも思っていた。それだけにすぐに別れがくるのは納得がいかない。理由を聞いても、
「お友達以上には思えないの」
 という理由だったり、
「ごめんなさい。私が恋愛というものに憧れを持っていただけなのかも知れないの」
 と、当たり障りのない理由に思えるが、うまい断り方で、本当の理由はまったく見えてこない。だが、
作品名:短編集119(過去作品) 作家名:森本晃次