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短編集119(過去作品)

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 一年くらい前に同じような夢を見たことがあったような気がしたが、それが本当に一年前だったのかすらハッキリとしない。まるで昨日のことだったように思うのは、それだけ夢の内容が酷似していたからだろう。
――まるで昨日を繰り返している――
 以前に同じ夢を見ていなければ、すぐに夢だと気付かなかっただろう。
 前に同じような夢を見てから、少し変わったように思える。自分のまわりが何となく変わったように思えるのだ。自分だけが変わらずに、まわりだけが変わっている。まるで浦島太郎になったような気分がしていた。
 それはすぐに解消された。次の日にまた違う夢を見たが、その翌日にはまた皆が変わっていた。変わったことで元に戻ったのかどうか分からない。元がどうだったのか、半分忘れかけていたからだ。
 一度変わったところからしか意識が働かない。だから、本当はまわりの人が変わったわけではなく、自分の性格が変わってしまったのではないかと考えるようになった。
 昨日、同じような夢を見たことは、元に戻る前兆ではないだろうか。ワームホールに落ち込む感覚は夢から覚めても残っている。
 ワームホールに落ち込む感覚があるのに、そこから出た感覚がない。落ち込んだものからは必ず出ないと、新しい世界には行けないのだが、出てくる時は穴の中から這い出してくるのだろうか。
 落ち込む穴はあるのに、出てくる時は、下から這い出すのだろうか? まるで地球の裏側にはじき出されるようなものではないか。上下感覚という意味では信じられるものではない。
 夢というものが潜在意識の成せる業であるとすれば、ワームホールの夢を何度も見るのは、そこに何らかの理由が存在するはずである。
――過去に戻って、人生をやり直したい――
 そんな思いがあるのだろうか。
 最初にワームホールの夢を見た時は、何かきっかけのようなものがあって夢に見たのだろう。だが、二度目に見た夢の時は、若干理由が違っていた。
 一度狂ってしまった自分の人生をやり直したいと思ったのだろうが、それも以前に狂ってしまったところまで戻りたかっただけなのか、それとも、最初からやり直したいと思ったのか、それも定かではない。
 元々最初自体が分かっていない。やり直すとすれば、生まれ変わるしかないだろう。
 一度狂ってしまった運命は、狂った場所から、さらに自分の人生が始まっている。ターニングポイントというのは、人生にいくつもあり、その都度分岐点が存在する。分岐点を意識しているつもりだが、実際に分岐点が見えるわけではない。見えるのは、その先を想像している自分の姿だった。
 どっちの道に曲がったのか分かっているつもりだったが、もう一つの道は、見えなくなれば、意識もしなくなる。曲がってから先にも、いくつもの分岐点が存在したが、どこかに元に戻る分岐があるはずだと思っていた。
 本当は、狂ってしまった最初の分岐に戻らなければ、元には戻れないと半分分かっているつもりだが、だからこそ、
――いずれ、もう一度同じ夢を見るはずだ――
 という予感がかなりの確率であったのだろう。
 夢の内容もまったく同じものだったかどうか分からない。だが、夢を見ている時に、
――以前同じ夢を見た――
 という感覚はなかった。ウスウス感じてはいたかも知れないが、思い出したのは、夢から覚めていく途中だったのも皮肉ではないだろうか。
 だが、少しだけ心残りがある。
 夢の中で出会った女性である。彼女は実際に付き合っている女性であった。夢の中では従順で、実際にこのまま付き合っていれば、夢のように従順になってくれると思っている。もし、夢の世界が現実の世界を元に戻すのであれば、せっかく出会った彼女とも別れる結果になるのではないかという危惧がある。
 そういえば、夢の中での彼女は、いつも寂しそうだった。従順な表情の裏に寂しそうな顔が隠れているのだが、夢の中では、それすらいとおしく、忘れられない一番の理由になっていた。
――元に戻って、何のメリットがあるというのだろう――
 狂ってしまった人生であれば、狂った中に正しいものが存在する。その一つが彼女という存在である。
 夢の中で、もう一人気になる女性がいる。それは一人の主婦なのだが、こちらが意識しているわけではないのに、向こうがずっと見つめているのだ。だが、よく見ていると、視線が合っているわけではない。いつも自分の後ろを意識しているようだ。思わず振り返ってみるが、そこには誰もおらず、また視線を前に戻すと、そこにいたはずの主婦は消えていた。
 主婦はいつも乳母車を押していて、中の赤ん坊を大事にしているのが見ていて分かる。見つめられた表情に覚えがあるのは、母親の若い頃に似ているからだろうか。
 だが、似ているのは雰囲気だけで、大切に育てられるであろう子供に嫉妬しているのかも知れない。
 自分が赤ん坊の時のことを一瞬思い出したが、どうやら、そういう雰囲気でもないようだ。まわりがレトロな雰囲気だったので、そんな気持ちになったのかも知れない。
――この世界に、ずっといたい――
 そう思わせたのは、主婦の存在があったから。確かに従順な彼女への思いも強いが、二人の存在を打ち消してまで、元に戻したいとは思わない。
 一年という月日が何を意味するか、その時には分からなかった。
 今感じている一年という月日すら曖昧なもので、一年前から狂ってしまった人生を自分で勝手に演出しているから感じることなのかも知れない。
 肥満に見えるのは、永吉の憧れを彼らが身体の中に受け止めているからで、それが最初は不気味に感じられた。それも夢の狙いだったのかも知れない。
 こんな世界に長くいるものではないと思わせるのが狙いだったのだろう。だが、次第に肥満も愛嬌を感じるようになると、逆効果で、それまで自分にないものを求めていることに気付かされた。それが新鮮に感じるのだ。
 一年後、また同じ夢を見ることになるだろうか?
 その時に夢の中には誰がいるだろう。自分はそのままのような気がする。少なくとも彼女はいるだろう。そして、乳母車の主婦も……。
 二人が一緒に現れることはありえない。なぜなら、彼女も、乳母車の主婦も、狂ってしまった永吉が作り出した彼女なのだから。
 分岐点がどこだったのか……。
 それは一年後に答えを見つけられるかも知れない。ワームホールの存在は、それまで永吉の心の中で封印されることになるであろう。

                (  完  )

作品名:短編集119(過去作品) 作家名:森本晃次