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静岡のとみちゃん
静岡のとみちゃん
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軽便鉄道「駿遠線」復活物語

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 駿遠線が復活してからの10年間を振り返ると、支線の追加や周辺の独特な街づくりが進んでいった結果、「線」で走り始めた軽便鉄道は次々に「点」を生み、「線」と「点」が次第に「面」になってきている。
 かつての中遠鉄道(駿遠鉄道の西側の袋井~浜岡までの17.4km)は、沿線に住んでいる人が袋井駅に向かうための交通手段だったが、その沿線に人を呼ぶ「何か」という「点」が出来たことで、袋井駅からの逆の「人の流れ」が生まれた。
 たとえば、晴れの日数の多い静岡県遠州地方、その浅羽平野の海岸線には最新鋭の日本最大の百万キロワットのスーパーメガソーラー(超大規模太陽光発電所)が建設中だ。その視察で、日本中から、いや世界中から、多くの方々が袋井市を訪れ、軽便汽車に乗る。

 人の流れ以外に、農産物の運搬にも活躍している。かつての小笠山には自然林が多く、一部に牧場が見られたものの、殆ど開発されていなかった。今は、コーヒー園が山肌に広がっている。地球温暖化の影響もあり、コーヒーが採れる北限となった。小笠山の東に広がる牧之原丘陵(まきのはらきゅうりょう)は茶の産地で、駿遠線は、茶もコーヒーも都会に運ぶようになった。

 軽便鉄道が袋井市にもたらす経済効果はかなりの額だ。その結果、市の財政への貢献は計り知れない。がっちり儲かる市になった。その結果、たとえば、
 ・市民税が無くなった。
 ・未成年者と60歳以上の市民の医療費は無料になった。
 ・保育園や幼稚園の数は移住者が増えても十分だ。
 ・袋井市民の市内外を問わず全ての教育費は無償だ(除:外国)。
 ・有効求人倍率は常に2倍を超す。
 ・企業の設備投資は好調だ。
 ・人口は常に増加している。
 良いこと尽くめだ。そして袋井市は「将来の更なる夢づくり」をスローガンに掲げた。

 それを受けて、駿遠鉄道株式会社は、更なる「線」で、新たな「面」の創造に着手した。
 そのひとつが、現在建設中の「遠州山手線」で、その工事はあと半年で終わる。
 小笠山南麓から北上する支線で、スイッチバックで登り、アプト式で急勾配を登る場所もある。山間を抜け、山肌を走り、法多山に抜け、ループ橋を経てエコパ(小笠山総合運動公園、スタジアムは2002FIFAワールドカップやラグビーワールドカップ2019の会場になった)にたどり着く。そして、静岡理工科大学キャンパス内を通過し、袋井駅に戻る山岳路線だ。
 小笠山のちょうど夕陽が見えるところに駅を設けた。駅名は日暮里(にっぽり)でなく「遠州日暮里(ひぐれさと)」、富士山が見える駅の駅名は「遠州富士見」、遠州灘が見える駅は「遠州太平洋」・・・。
 この支線には、スリルを感じる場所や温泉が流れる運河も建設中で、マニアのみならず、世代に関係なく多くの観光客が遠州山手線を訪れるだろう。
 そういえば、太平洋に臨む小笠山南面には別荘地の建設が始まった。コーヒー園の中に建つ別荘だ。更には芸術家が集まるエリアも設けた。数年後には、散策して楽しい散歩道や階段が出来るのだろう。そのための最寄りの駅が幾つか誕生した。
 そして、来年の秋には「紅葉狩り軽便」が始まる予定だ。スイッチバックから見る紅葉に期待したい。

 更に検討中の幾つかの企画がある。
 先ずは、点在する昭和の町並みを「面」で捉えた「懐かしの昭和ゾーン」構想。放置していても、自然にそうなってゆくのだが、推進することで、統一された雰囲気を醸し出すことが出来るはずだ。その統一感が美しいはずだ。
 二つ目は、油山寺(ゆさんじ)と可睡斎(かすいさい)まで延長した遠州三山(えんしゅうさんざん)を回る支線構想。廃線になった旧秋葉線を彷彿させるもので、検討は既に佳境に入っている。三社詣出を活性化したい。
 三つ目は静岡空港までの支線だ。空港ターミナルビルに横付けになった軽便から、駿遠線の体験が始まる。

 駿遠線は、津波の可能性で危機感を覚えた頃もあったが、防潮堤や土地の嵩上げが進んでいる結果、駿遠線の復活は、観光を生み、産業を興し、人の流れを作った。これからもその流れは続き、太くなることを願っている。

 最後に、復活後の駿遠線の幾つかのトピックスを紹介する。

①町おこしで始まった駿遠線の復活は、TV番組「がっちりマンデー」で「過疎対策のビジネスモデル」として紹介され、それがきっかけで映画化され、その反響が大きく、MBA学位修得の際のケースモデルや大学の社会工学の教材として扱われるようになった。
②大井川鉄道と駿遠線をセットで楽しむ鉄道マニアや観光客が多く、大井川鉄道から、金谷駅までの支線の設置要望が届いた。
③世界中の国から、特にそれほど裕福でないアジアやアフリカの国々からの視察を受け入れた。
④テレビCMや映画の風景に頻繁に出るようになった。
⑤経営が厳しいJR線や私鉄会社の再建手段として検討されるようになった。
⑥既に廃線になったJR線の代替手段に軽便鉄道が取り上げられるようになった。
⑦時の総理大臣が視察に来られた。
⑧静岡県西部の遠州地方は昔、幾つもの軽便が走っていた。浜松市も先日、奥山線の復活に向けた動きが始まった。将来、遠州地方は軽便王国になるかもしれない。

そして、大学を卒業した孫は、駿遠鉄道株式会社に入社した。

おわり

  ※この小説はフィクションで、登場するものは全て架空であり、実在の団体や人物とは一切関係ありません。でも、こんなことが起きてしまうと良いなあと思っています