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静岡のとみちゃん
静岡のとみちゃん
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軽便鉄道「駿遠線」復活物語

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 小春日和の今日、じいじと孫の二人は、自宅からコミュニティバスで、袋井駅南口に向かった。市営のコミュニティバスは軽便鉄道の復活に合わせ、ボンネットバスに置き換わった。
 このバスに乗ると二人はいつも、駿遠線の復活記念の「一番列車」に乗った思い出話になる。孫の財布に入っているコインはその記念乗車のもので宝物だ。
 今日はぶらりと、昔の町並みが残る横須賀まで、ちょっとした買い物のため「あさば5号」に乗る予定だ。この5号は孫が好きな蒸気機関とEVのハイブリッド機関車が牽引する汽車だ。旧駿遠線の駅は全て復活しており、横須賀駅は11番目の駅だ。

 橋上駅舎のJR袋井駅の南口はレトロな木造駅舎になっているが、屋根にはブースターが組み込まれた大容量の高効率のソーラーシステムが設置されている。
 駿遠線の各駅舎にも同様なソーラーシステムが設置されており、駿遠線で使用する分を差し引いても、かなりの電力が残るため、沿線の住宅で消費され、それでも余裕があり、中部電力に販売している。
 スマートシティまではまだまだだが、軽便鉄道の取り組みが効果を生み、市全体の動きにつながっている。

 じいじと孫の二人は、袋井駅の南口を背にして立った。
 目の前に広がる景色は、鉄道模型の昭和の古い町並みのジオラマが現実のものになっているような佇まいだ。その“らしさ”の魅力に惹かれ、多くの人々が集まってきた。その中には、移住してきた人も少なくない。
 南口周辺の住所は改名され、袋井市昭和町になり、レトロなアーケード街の「袋井南口商店街」を形作っている。
 そこには、沿線の酒造メーカーの軽便酒や軽便饅頭を始めとする数々の物産や、かつての一時代を築いたヒット商品の復刻版も軽便とのコラボ販売されている。もちろん、生活に必要な食材や物品も販売されている。
 中でも、軽便鉄道のNゲージの鉄道模型(KATO製)はこのアーケード街と車両基地の売店のみでしか売っておらず、全国的には希少なもので、常に品切れ状態だ。南口の改札口の横に、袋井駅南口の風景のジオラマがあり、この鉄道模型がいつも、ゆっくりと走っている。人気のジオラマだ。
 客が集まっている鮮魚店がある。「朝獲れ魚」だ。駿遠線が開通した直後に、福田漁港までの福田漁港支線が開通した。それ以降、朝一番の軽便汽車が、福田漁港で水揚げされた魚や海産物を運ぶようになった。生しらすも釜茹でしらすも販売されている。新鮮で旨い。
 その隣には海鮮食堂があり、蒸気機関車の煙をイメージしたイカ墨の「軽便しらす茶漬け」がヒットし、レトルト食品にもなった。

 昭和町には、外観がレトロな住宅が立ち並び始めた。市の条例で、軽便鉄道と調和する街並みの創造を決めてはいたが、今では、レトロな外観を好む人たちが、その“らしさ”を自ら追求し始めた。
 更に、茅葺き屋根の住宅が散見されるようになり、その住宅建設工務店が開店した。かつては、蒸気機関車の煙突から出る煙には少し、火の粉が混じっていて、茅葺き屋根の火事を防ぐために、トタン板で覆ったが、復活後に走っている新しい蒸気機関車は火の粉を全く出さないしくみになっている。
 これまで建っていた小学校は耐震工事の必要性があり、それをきっかけに、TVドラマで見るような、昭和前半の外観の校舎に生まれ変わった。