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血の繋がりのない義姉弟と義兄妹

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「私が彼を幼いと感じ、わざとらしさを感じたのは。決して彼が悪いわけではない。彼でなくても同じことを感じた気がする」
 と感じた。
 では何が悪いというのか?
 そもそも、悪いという概念自体が間違っている。悪いわけではなく、仕方がないことなのだ。
 その仕方なさというのは、由紀子の側にあることだった。
――私は同い年を相手にするよりも、ずっと年上の相手に憧れを持っていて、自分のような若い子を好きな年上の男性との出会いが待ち望まれる――
 と思うようになったのだ。
 同い年くらいの人にも、頼れる人もいるのだろうが、どうしても、付き合う男性としてのイメージが湧いてこない。もし自分が誰か年上の人とお付き合いをしたら、きっと、
「お兄ちゃんと呼ばせるに違いない」
 と考えるようになった。
 また、自分が、
「お兄ちゃん」
 と呼んでいる場面を想像して、悦に入ってしまったことで、きっと自分が硬骨の表情をしているに違いないことを自覚していた。
 彼と別れて一人になると、余計に年上の人への思いが強くなり、もう自分の彼氏としてのイメージとして、年齢的には十歳くらい上でなければいけないとまで思うようになっていた。
 身近にいる十歳年上の彼氏としてのイメ^時としては、姉の恋人として紹介された、
「坂出恭一さん」
 しかいないように思えた。
 ただ、もう姉と結婚するという事実はすでに覆すことのできないものとなり、逆に手に入れることのできないところにまで行ってしまったことで、彼は自分の中の伝説になってしまったのだった。
 せっかくなら、ずっと一緒にいたいと思う相手だったのだ。
 そんな手が届かない相手だと思っていた姉と恭一に対して、その思いが最悪の形で崩壊してしまったのは、それから三か月ほどしてのことだった。
 姉が幸福の絶頂、いや、姉だけではなく恭一も同じように幸福の絶頂であったはずの二人に襲ったものは、
「交通事故」
 であった。
 二人は仲良く歩道を歩いていて、ちょうど交差手に入り込んで、赤信号で待っていたのだが、そこに車が突っ込んできたのだ。
 その車は、パトカーに追われていたという。交差点を信号無視して、狂気のように交差点に進入し、ハンドルを切りそこなって交差点で信号待ちをしていた姉たちに突っ込んだということだった。
 車は大破し、中にいた人は助け出されたが、姉はそのまま即死となり、恭一は、右腕が上がらなくなってしまうという後遺症が残ってしまった。
 二人は婚約も済ませ、後は結婚までのカウントダウンを自分たちで刻んでいる最中の出来事だっただけに、二人を知っている人皆、少なからずのショックを受けたことだろう。
 中でも由紀子のショックは計り知れないものがあり、しばらくは恭一の顔を見るのもつらかった。
 それを恭一の方では、
「由紀子ちゃんのお姉さんを助けられなかったことで、僕を恨んでいるのかも知れないな」
 と思っていたようだ。
 まったくの誤解であり、死んでしまった姉を差し置いて、恭一に対して接することなどできないという思いからだった。
 それだけ、由紀子の中で恭一への思いは特別なものがあり、ひょっとして、
「こんなことを考えてしまった自分が、姉を交通事故に招いてしまったのではないだろうか」
 と考えていた。
 その思いがあるから、恭一に合わせる顔がないからであって、決して恭一の側に落ち度があるなどと思うわけもなかった。
 恭一はしばらく入院を余儀なくされた。
 二週間くらいは入院の必要があるということでの入院だったが、右腕の方は完全に神経がやられてしまっているということで、手術もできないくらいであった。
 しかし、それ以外の箇所はほとんどが修復し、問題は右腕だけだった。
 だが、彼はある程度起用だったこともあって、パソコンの入力もぎこちなくはあるが、左腕でなんとかこなせるようになり、障害者ということで、会社も無碍にはクビにできないようで、部署替えは仕方のないことではあるが、仕事は何とか続けられるのは、よかったというべきであろう。
 しかし、なかなか精神的なところでのショックは拭い去ることはできないようだった。姉がいないというだけで、彼の心は半分以上ポッカリ空いてしまったようだ。その憔悴感は分からないでもないが、気の毒に思う気持ちと、情けないと思う気持ちとはここまで紙一重にあるものだということを、その時の由紀子には分からなかった。
 年上だということは百も承知で、年上というものが頼もしいという気持ちもある。そして、頼もしいから好きになったはずなのに、頼もしいと感じてしまうと彼の情けなさを見ないわけにはいかず、そこに憤りを感じた。
――姉さえ死ななければ、こんな彼を見ることもなかったのに――
 などという決して感じてはいけない思いが頭をよぎる。
 そんな思いを抱いてしまった自分に自己嫌悪を感じるのだが、それは、自分の気持ちは生きている時でさえ分かってくれた姉なのだから、死んでしまった今では、自分の気持ちなど手に取るように分かるはずだという、姉の呪縛が自分のまわりに渦巻いていることに気づいたのだ。
 姉だって死にたいと思っていたわけではない。いきなり突っ込んできたやつに、理不尽に命を奪われただけのことなのだ。事故を起こしたあの男たちは、今は刑務所に入っているようだが、反省しているかどうか分かったものではない。
「いや、反省なんかしているはずもない」
 と感じた。
 反省するくらいの連中であれば、最初から警察に追われて逃げ出すようなことはしないだろう。
 なぜなら、自分たちが訳も分からずに逃げ回れば事故を引き起こしてしまうということくらい、普通の精神状態であれば、分かりそうなものだからである。
 今は恭一に優しくするべきなのだろうか。

                自殺未遂

 恭一が入院している間、誰も彼を見舞う人はいなかった。
 家族が近くにいるわけでもなく、一度は様子を見に来たようだが、命に別条がないと知ると、すぐにそそくさと帰っていったようだ。
 彼の病室に見舞う人が少ないことで、恭一自身、自分に友達が少なかったということを思い知ったのではないだろうか。
 由紀子は、迷っていた。どうしても姉への思いがあることから、恭一の顔を見ると、姉に申し訳ないという思いと、心の中の自分にウソはつけないという思い、そして、恭一自身の気持ちに整理をつけさせることができなくなるのではないかという危惧、いろいろと考えると、どうしても、足が遠のいてしまうのだった。
 だが、どこかで一度は会わなければいけないという思いがあった。それは自分自身の気持ちに整理をつけるという意味でも必要だった。交通事故という大きくてショッキングな事件があったことで、どうしても忘れがちになってしまうのだが、最終的に問題になってくるのは、自分の気持ちだった。
 入院している恭一に、見舞いの人が極端に少ないという話を訊いたのは、偶然だったのだが、それを話していたのは、両親だった。
 両院は姉の葬儀が落ち着いたところで、恭一を見舞ったのだが、最初は、自分にも一緒にいかないかと誘ったのだが、断った。