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血の繋がりのない義姉弟と義兄妹

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 それは、普通の人が無意識に感じていることであり、本能のようなものなのかも知れないが、彼は疾患があったがゆえに、意識として受け入れる必要があった。
 いや、必要があったというよりも、受け入れる余裕があったと言ってもいいかも知れない。
 規則正しい生活の中で、精神論を歌うのは、どこか間違っているのかも知れない。規則正しい生活は、何か一つの大きな、
「支配される時間」
 というものが中心になっての、逆算ではいけないと思える。
 時間というものは、誰にでも平等に二十四時間与えられている。しかし、人間というものが果たして、
「生まれながらに平等だ」
 と言えるのだろうか。
 確かに皆生まれながらに平等なのが人間だという教育を受けてきたのだろうが、それは与えられた権利や義務が同じものだというだけのことで、どの親から生まれるか、いつ生まれてこれるかなど自分で決めるわけではない。その時点で平等性は皆無と言ってもいいだろう。
 あくまでも、大人が子供を洗脳するうえでの口実だというと、身も蓋もないが、決して人間が生まれながらにして平等だということはありえないと言えるのではないだろうか。
 修一はそんなことを考えていると、失踪したくなったのだろう。誰も知らない人ばかりがいる中で生活してみたいという思いであるが、その場合の、
「誰も知らない」
 というのは、自分が知らないということではなく、まわりが自分を知らないという意味である。
 それが恭一にとって大切なことであったのだ。

                天国と地獄

 ペンションの管理人は、橋本夫妻という。年齢は旦那さんが四十五歳、奥さんが四十二歳。雰囲気としては、まだ三十代に見えるくらいに若い雰囲気だった。
 このペンションで管理人を始めてから三年目だというが、どうしてどうして板についている感じだった。
 このペンションに恭一が辿り着いたのは、ペンション巡りを始めてから、三軒目だったのは前述の通りだが、前の二軒も別に嫌だったわけではない。ペンションの管理人も優しかったし、小説家のタマゴのような言い方をすれば、喜んで迎えてくれた。数日間いたが、居心地は悪くなかった。
「もう少しいてもいいかな?」
 と思える程度だったが、そう思っていた時にやってきた客が、芸術家の一人逗留だったので、一緒になることを嫌って、逗留をやめた。別に気を遣うとかいうわけではなく、一緒にいると、自分が作家のタマゴどころか、今までに小説など書いたことがないということを看破される気がして嫌だったのだ。
 そんな風に考えてしまうと、そばを通っただけで、思わず身体を逸らしてしまいそうになる自分の卑屈さを思い知らされるような気がした。子供の頃、いじめられっ子だった記憶がよみがえってくるのも嫌だったのだ。
 一つ嫌だと思うことが起こると、何もかもが嫌に感じられる。それまでうまくいっていたことであっても、すべてが悪い方に向いてくる気がしてくるのだった。
 それがネガティブ思考とでもいえばいいのか、余計なことを考えていること自体が怖くなるのだ。そうなってしまうと、人と関わることの怖さを思い出してしまう。ほとんど強引な脅迫だったのだが、自分にも落ち度がなかったわけではないと思う。何が悪かったのかということを思い出そうとすると、以前、入院していた時に亡くなった記憶を思い出そうとした時に感じた頭痛に似ていた。
 あの時の頭痛は、ズキズキするという感覚よりも、ムズムズが先にきて、イライラがこみあげてきて、そこから強烈な痛みが襲ってきたような感じだった。
 ちょうどその頃、片頭痛のような症状もあり、それは、急に目の前のものにクモの巣が掛かったかのような、いわゆる
「飛蚊症」
 のような状況になり、焦点を合わせたその場所を中心に、どんどん見えなくなってくることがあった時に起こるもので、目の前がどんどん暗くなっていくと同時に、飛蚊症も収まってきて、見えなかったものがまた見えるようになってきた。
 しかし、それで終わりではなく、視界が正常に戻ってくると、その後に激しい頭痛が襲ってきた。
「まるで、頭の中が虫歯になったかのように、脈を打っているような感じなんだけど、ムズムズするものもあって、そのうちに、呼吸困難な状態に陥るんです」
 と岡崎教授に相談すると、
「それは視力の急激な劣化によって引き起こされる、頭の中が何とか追いつこうとする本能のようなものが引き起こす現象ではないかと私は思うんだ。ハッキリとした研究結果が出ていないので、私の見解でしかないんだけどね」
 と岡崎教授は説明してくれた。
 それを一種の片頭痛のようなものだという先生の説明であったが、一番分かりやすい説明だったのだろう。
 岡崎教授は、その時、
「君はこれから、いろいろ今までに感じたことのないことが襲ってくるかも知れないが、恐れることはない。すべては自分が自分の中で納得しようとするものなのだから、自分を必要以上に苦しめることはない。だから、きつい状態があったとしても、あまり悪い方に考える必要はないんだ。それに、君が感じるであろう辛さや痛みだって、他の人も感じるレベルのものなのだから、『自分だけがどうして……』なんて考えることは一切ないんだよ」
 と言っていた。
 それを恭一は、今思い出していた。確かに教授の言われたように、あれから今までに感じたことのない感覚を感じていた。それは、ひょっとすると覚えていないだけで初めてではなかったのかも知れないが、それもひょっとすると、教授には分かっていたことなのかも知れない。
 恭一は、教授に対して申し訳ないという気持ちが大きかった。一番心配してくれていたのに、逃げ出すような形になった。後悔があるとすれば、教授に対しての申し訳のなさであろう。
 それでは、教授以外の人はどうだろう?
 会社の人に対して悪いという思いはもちろんあるが、それ以上に、綾羅木家の人には本当に申し訳ないと思っている。
 だが、綾羅木家の人たちというのは、自分たちが交通事故などに遭わず、結婚していれば、義理の親であり、由紀子は妹だということになるのだろうが、唯子はすでに事故で死んでいるのだ。
 本来なら、そこで関係がキレたとしても、それは仕方のないことであり、誰も文句を言える筋合いでもないだろう。それなのに、身元引受人になってくれたり、緊急連絡先として登録してもらえたりして、言葉にできないほどの恩義を受けている。
 岡崎教授も、
「綾羅木家の人たちは本当にいい人たちばかりだよね。君のことを後見人のように見てくれているのは、きっと亡くなった娘さんの生まれ変わりのような意識でいるのかも知れないね。ただ、その思いが君に対してプレッシャーになってはいないかとも感じているんじゃないかな? だから、君がひょっとすると感じているかも知れない、綾羅木家の人たちのそこか、よそよそしさのようなものは、決して君に対してのものではなく、娘さんに対してのやるせない気持ちを、無意識に君にぶつけているんだって思うんだ。だから、君がその視線に対して何かを感じる必要はない。逆に受け止めてあげられるくらいの精神状態になってくれるのを、私は望んでいるんだ」
 と言っていた。