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短編集118(過去作品)

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 それは就職活動時代の一環でのことだが、実際に告白するところまではいかない。告白しようと心に決めて夢を見ていることで、自分の気持ちがいつもウキウキしている気分になっている。
 これは夢にとっては素敵なことだった。
 就職活動もやっている最中はつらいものだったが、あとから思い起こせば、楽しい気分でもあった。気持ちに余裕を持てなかったことでつらいというイメージが強いが、過ぎてしまうと、
――ひょっとして思っていたよりも気持ちに余裕があったのかも知れない――
 と感じる。その余裕を一瞬でも感じることができたから、就職活動もうまくいったのではないだろうか。
「今度はうまくいくはずだ」
 何の根拠もないのに、言い知れぬ自信が湧いてきた先では結構内定を貰った率が高かった。別に滑り止めというわけではなく、最初から狙っているような会社であってもであった。
 夢の中で余裕を持てるのも、その表れなのかも知れない。
――苦しい時代の中でこそ、本当の気持ちの余裕を感じることができるのだ――
 と思うからである。
 そんなことを考えながらテレビを見ていると、目が重たくなってくるのを感じた。
――おっと眠ってしまいそうだ――
 そのまま眠ってしまえばいいのに、なぜか眠ってしまうことに気付いてまたしても眠れなくなってしまう。
 心のどこかで、
――眠ってはいけない――
 と思うからであろうか。まさか雪山というわけではあるまいし、おかしなものだ。
 目が覚めた午後一時から、一度時計を見た。その時には二時半を少しまわっていたが、
――思ったよりも時間が経つのが早いな――
 と感じた。
 一時間半というと、さっきまで眠っていた時間と変わりない。眠っている時間があっという間だとすれば、一時から今までの時間で、身体は起きていても頭が眠っていたのかも知れない。
 二時半過ぎの時計を意識してから、すぐに眠ってしまったようだ。起きてから表を見るまで、夜中目が覚めたことを忘れていたくらいである。
 表は雪が降っている。粉雪が舞っている程度だが、風もなく、一度降ってきた雪が地面に落ちる前にもう一度舞い上がっているかのように見える。
 そんな日は起きるのが億劫ははずなのに、なぜかその日は爽やかだった。前の日にタイマーで暖房を入れていたのも功を奏しているのか、洗面所まではポカポカ暖かい。
 顔を洗ってリビングに戻るとテレビのチャンネルをつける。
「おはようございます。八時になりました」
 ちょうどキリのよい時間で、女性キャスターの元気な声が響いてきた。いつも聞く声なのに、時間が八時? 彼女は七時の担当のはずではなかったのか。
 その日はちょうど休暇を取っていて、本当であればもう少し遅くまで寝ていてもよかったのだが、目が覚めた時に起きるのが一番楽に目を覚ますことができると思い、布団から出た。
 時計を見ていなかったので、テレビをつけるまでは九時過ぎだろうと思っていたのだが、八時というのは、我ながら感覚がずれている。平日の感覚になったとすれば、夜中に目を覚ましたことで、緊張感が生まれたからかも知れない。どちらにしても、早起きは三文の徳というではないか。起きてしまったのを喜ぶ方がいいだろう。
 テレビを見ていると、聞いたようなニュースがあった。昨日、朝出かける時に見たニュースにそっくりだ。
 線路に大型トラックが侵入し、そのまま横転して線路を塞いだために、上下線とも大幅な遅れが出ているという。
「連鎖反応かな?」
 交通関係の事故や事件は続くといわれる。何の作用が働いているのか分からないが、頭の中には「シンクロニシティ」の文字が浮かんでくる。一般サラリーマンにとっては、実に困ったものである。
 事故の現場も昨日に非常に近いとのこと、駅間はまったく同じである。テレビのニュース速報では先ほど復旧したとのことなので、ダイヤの乱れは午後までは続くであろう。
 ちょうどラッシュの合間である。幸い近くを私鉄が走っているので、私鉄に流れる人も多いはずだ。しかし、都心部に出てからの私鉄との駅はそれほど近いわけではない。私鉄で出ても、そこからはバスか地下鉄を利用するしかないだろう。
 昨日の事故の影響を思い出していた。
 何とか復旧できるかと思って待っていたが、いつまで経っても復旧しない。仕方なく私鉄に乗り換え都心部へ、そのまま地下鉄で会社に向かったが、会社に着いた時には、まだ半分くらいの人しか出勤していなかった。
「かなりの人の足に影響が出たんですね」
「そのようだね」
 それでも自分の仕事はできるので、淡々と仕事をこなしていく。一時間ほどで一仕事を終えると、気がつけばほとんどの社員が出勤していた。まわりを見て皆が出勤していることで、自分が仕事に集中していた時間が一時間だったことに気がついた。自然と時計に目が行ったからだ。
 一時間というのは実に中途半端な時間である。
 昼休みなどはいつも感じている。
 会社の近くに食事をするところはたくさんあるが、その分企業が多いため、どこに行ってもいつも満員である。少し時間をずらしても同じことなので、暖かい時は、雑居ビルの合間にある公園で弁当を買って食べていたりもした。
 そんなサラリーマンが多いせいか、公園の近くにいつもワゴン車で手作り弁当を売りにきている会社がある。まるでちり紙交換のようにゆっくりとしたスピードで停車し、マイクで弁当屋が来たことを知らせる放送が流れる。
 ワゴン車売りのパン屋もやってきて、競い合っているようだが、意外と仲がいい。OLのようにパンだけで済ませる人も多いからで、男性サラリーマンが主に弁当を買っている。
 なかなか味もいいし、何よりも暖かいのがありがたい。味噌汁もついているので、汁物にも困らない。まさしく至れり尽くせりだ。
 しかし、如何せん、飽きは来るもの。数ヶ月続けるとさすがに飽きてきた。それは食堂や喫茶店で昼食を摂っても同じかも知れないが、雰囲気の違いもあってか、弁当の方が早く飽きがきそうに思えた。
 表というのは暑い時期、寒い時期。それだけではなく、梅雨の時期など雨ばかりで、表で食べることができない時期がある。仕方がないので、食堂で待ってまで食べるようになるが、今までが表の広さに馴染んでいたので、こじんまりとした窮屈な雰囲気はいかんともしがたかった。
 食堂での方が一時間を中途半端に感じる。待っている時は意識はないが、いざ自分たちが食べる時になると、今度は待っている人の視線が痛く感じられる。体調の悪い時などは、おいしいと感じることなく、食事を流し込んでいるとしか思えない。
 食事を済ませると、いつもカフェでコーヒーを飲むようにしている。最近流行の喫茶店ではなく、オープンカフェ形式のお店である。タバコを吸わない太郎にとって、禁煙席と喫煙席が歴然と分かれているのはありがたかった。夏になるとアイスコーヒーが飲みたくなる。
 アイスコーヒーは店によって当たり外れがある。おいしい店でなければ、飲めたものではない。逆にアイスコーヒーがおいしいお店ならば、ホットもおいしいに決まっている。
作品名:短編集118(過去作品) 作家名:森本晃次