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間隔がありすぎる連鎖

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 気が付くと心地よく身体が動いているようで、本当に暑い時にはまったくと言っていいほどなくなる食欲が、ここではさほど変わらなかった。
「こんな土地にずっと住んでいたいよな」
 と、松川は言ったが、まさにその通りだった。
「だけどな、夏が涼しいということは、冬は極寒かも知れないぞ」
 と言われた。
 冬のこのあたりの雪景色は、風景写真などでも有名になっているので、寒いのは分かっている。しかし、同じ暑さに見えても、実際には体感がここまで違うのを感じると、雪が降っていても、
「思ったよりも寒くないかも知れない」
 と感じるのも、無理のないことではないかと思えた。
 定岡よりも、実は松川の方が余計にそのことを感じていて。やはりスポーツなど、暑さに耐える練習などをしていると、分かってくるものもあるのかも知れない。
 一度中学時代にキャンプで避暑地の河原でキャンプファイアーなどをしたことがあった松川はその時の感覚をいまだに覚えていて、それが彼のアウトドアの感覚を作りあげていた。
 子供の頃はどちらかというと病弱だったのは、松川の方だった。
 社長候補としては、年に何度も風邪を引いて、発熱で学校を休むようであれば、少し将来に不安を感じた松川氏が中学時代の息子に、
「お前キャンプとか興味はないか?」
 と言って、話をしたのだった、
 元々病弱ではありながら、アウトドア系が好きだった松川は、父親の意外とも思える言葉に一瞬面食らったが、すぐに嬉しさがこみあげてきて、
「うん、興味ある」
 と言って、即決での参加になったのだ。
 運命というのは存在するものなのか、その時の指導の先生というのが、サッカー部の顧問で、顧問の先生の影響でサッカーをやってみることにした。
 最初は体験的な感じで、先生も油断していたが、やってみると、これが素質が十分であった。先生の先見の明もあってか、すっかりサッカーを好きになった松川は、あれよあれよという間に、サッカーにのめり込んでいったのだ。
 それは父親の遺伝もあったのだろう。松川大吾は、いかにも社長という恰幅で、椅子に座ると、所在なさそうなくらいにかしこまって見えるくらいの身体の大きさだった。それでも、社長用に、社長室の椅子は特注なのだが、会議室は特注と会ではいかず、それなりに大きめの椅子を用意しているのだが、それでもやはり狭く見える。
 学生時代には柔道をやっていたという。なるほど、体格の良さは武道から来るものだったようで、息子が、
「サッカーをやりたい」
 と言った時も、
「本当は武道に走ってほしかったのだが……」
 と複雑な心境であったが。病弱だと思っていた後継者が、サッカーができるほどに回復したことを、社長も素直に喜んだ。
 だが、そのうちに息子のサッカーセンスが抜群だったことで、選手としてちやほやされるようになると、
「サッカーで身を立てたい」
 などと言われるとどうしていいのか悩んだほどだった。
 下手をすると、
「もし、貞夫がサッカーに走ったりすると、秘書にと思っていた哲郎を社長に据えなければいけなくなってしまう」
 とも考えた。
 しかし、それはなかなか難しいところでもあった。なぜなら社長を貞夫にして、秘書を哲郎にするというやり方を最初から推し進めていたので、秘書としての英才教育から、途中で社長としての帝王学を学ばせるというのは、ある意味酷であった。しかも、哲郎には、優秀な秘書になる人物がいない。ここからまた、世襲ではない秘書を一から育てるとなると、難しくなってくる。
 そうなると、残った手は、
「外部から引き抜いてくるしかないか」
 とまで考えていたほどだった。
 しかし、幸か不幸かか、貞夫はサッカーの道を断念した。その本心は分からないが、人のウワサでは、プロからも誘いがあったというではないか、サークルの方としても、やきもきしたに違いない。
 だが、
「私には、社長業を継ぐという使命がありますので、サッカーの世界にはいきません」
 ときっぱりと断ったという。
 選手としては、これまで通りに活躍していたので、彼がプロから誘いがあったという話も、プロを断ったという話も、一部の人間しか知らない。もし、この話が他に漏れたとすれば、マスコミがこぞってやってくるだろう。
 松川コーポレーションの子息が、サッカー選手として有名になっただけでも記事になるのに、プロから誘われたとなると、その心境を知りたいのは、サッカーファンなら誰でものことであろう。しかも、その去就となると、世間を騒がせるだけのニュースになる。しかし、それらをすっ飛ばして、水面下での交渉の末、プロを断ったなどとマスコミの取材陣が知れば、さぞや、地団駄を踏んで悔しがることであろう。
 しかも、最近のサッカー界には、これと言ったニュースもなく、多くな記事をすっぱ抜いて、サッカー界の人気を引き戻そうというサッカー担当の記者が、目を光らせている中で、誰も気づかずに出し抜いたというところが、面白い。本当はこのこと自体を記事にすれば、雑誌や新聞も大いに盛り上がるに違いなかった。
 サッカーで培った運動神経は、貞夫をなかなかの好男子に作り上げてくれたようだった。哲郎のように容姿端麗ではなかったが、貞夫の小麦色に焼けている肌は、スポーツマンとしての精悍さは、容姿端麗に勝るとも劣らなかった。
 本人は、おくびにも出さないが、容姿端麗な哲郎に少なからずの嫉妬心を抱いていた。それも仕方のないことで、その理由は、貞夫が好きになるタイプの女性は、皆哲郎の容姿端麗さに惹かれてしまう。哲郎もそんな彼女たちのことを好きであれば、それでもいいのだが、どうやら、好みのタイプではないようだ。
 貞夫の気持ちを知ってか知らずか、哲郎は、恋の悩みを打ち明ける相手を、貞夫にしていたのだ。
「僕に言い寄ってくれる人がいるのは嬉しいんだけど、僕の好みではないんだよね。うまくお断りするにはどうすればいいんだろうね?」
 などとぬけぬけと言ってくる。
 哲郎にはそういうところがあった。
 人の気持ちを忖度し、気を遣うことには長けているのだが、いざ自分のこととなると、まさか相談している相手が自分に嫉妬しているなどと思ってもいないので、責めるわけにもいかず、いつも貞夫は苦笑いをしながら、彼なりに真剣に考えて答えている。すると、そんな貞夫に対して、
「やっぱりお兄ちゃんだ。的確な回答、いたみいります」
 とばかりに、本人とすれば、照れ隠しもあるのだろうが、少しおどけて答えるのも、貞夫にとっては、辛いところであった。
 そんな時貞夫は、
――こいつは、俺の大切な弟なんだ。弟が兄貴に真剣に相談してくるんだから、それに答えてやるのは当然だ――
 と感じていた。
 さらに、貞夫には優しいところがあり、社長の座は自分で揺るがない。そのために、絶対にナンバーワンになれない弟の運命をかわいそうだと思っていた。
――あいつも、この家にさえ生まれなければ、あいつくらいの頭がよければ、自分から叩き上げて、立派な社長になっていたかも知れないのにな――
 と感じ、さらに、
作品名:間隔がありすぎる連鎖 作家名:森本晃次