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間隔がありすぎる連鎖

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 松川コーポレーションは、今は都心部の一等地の高層ビルに本社機能を有しているが、支店や工場をいくつも抱えている。その中で、F県K市は特別であった。都心からは少し遠いが、夏は涼しく、避暑地としても有名なところなので、避暑をかねての研修ということで、二人は赴くことになった。
 F県K市は何が特別なのかと言って、前述をご覧になっていれば、おおかた想像もつくであろうが、この土地が松川コーポレーションの発想の地であった。さすがに昔の事務所はすでになく、近代的な事務所になっていた。ただ、倉庫や修理工場の建物は現存していて、時々解放されて風を通している。
 創立記念日になると、社長を始め幹部がやってきて、お祓いをする儀式になっているのだが、それも本部を都心に移してからの伝統行事として、ずっと行われてきたことだった。
 定岡はすぐに研修としてくる分には、何ら障害はなかったが、松川はサッカー部の中心選手なだけに、
「はい、そうですか」
 と、なかなかすぐにはうまくいかなかった。
 しかし、会社側の粘りで夏休みだけという話で、松川を研修に送り出してくれた。相手が次期社長に決定している人だけに、大学の部活で拘束することはできなかったのだろう。
 二人のK市での研修は、一か月ほどということになった。
 実際に修理の肯定から、機械の扱い方。そして、生産ラインの勉強などを主に行う。
 松川はそちらの流れに精通することを課題とし、定岡の場合は、さらに、仕入れから販売に至る流れ、さらに経費などの総務や庶務の仕事までを見ることを課題とされた。
 松川は、
「深く狭く」
 定岡は、
「浅く広く」
 という課題に挑戦することになる。
 それも次期社長と、次期秘書という立場からの課題であるが、言われるまでもなく、二人とも自分に与えられる課題がどのようなものか、最初から理解していたようだった。
 そういう意味では、この二人の兄弟は優秀だった。
 得てして、世襲会社の次期社長候補が複数いた場合など、全員が優秀というのは難しい場合が多い。二人のように血は繋がってはいるが、腹違いの兄弟ともなると、余計な嫉妬や自虐などはないものであり、それぞれのいいところを引き出すにはいい環境なのかも知れない。
 しかも、二人ともそれぞれに違った英才教育を受けているというのも功を奏しているのかも知れない。そのことを一番よく分かっているのは、減債の社長の松川氏だったのだ。
 松川の母親と定岡の母親が仲がいいというのも、家族としてはありがたいことだった。
 それも松川氏が、妾の家族を同じ家に住まわせるという、一見危険な賭けに見えることをうまくやってのけたのがウルトラCのようなものだった。
 それだけ定岡弘子という女性が穏やかな性格であり、松川鮎子も、本当は一人で嫁に来て寂しかったというのもあったのかも知れない。話し相手という意味だけでも弘子はありがたい存在だったことだろう。
 もう一つよかったこととしては、松川氏が最初から、
「次期社長は貞夫で、哲郎は秘書として、社長を全面的に支える役を担ってもらう」
 ということを決めていたことだ。
 その分、鮎子も変な不安を持たずに済むし、弘子の方も、なまじ期待などせずに済むからだ。
 そもそも子供たちの間で、最初から問題のないような英才教育を施されているのだから、これ以上のことはない。
 そういう意味では、松川氏の壮大な計画は、何年にもわたって、気付かれてきたものだったのだ。
 貞夫が母親を慕っているというよりも、哲郎が母親を慕っているという思いは強いようだ。
――母親が頑張ってくれているから、今の自分はいるんだ――
 と哲郎はいつも感じている。
 母親の控えめの性格が遺伝したこともよかったのかも知れない。そもそも控えめな性格だからこそ、妾という地位に対して不満を持たずにいられるのではないだろうか。
 定岡は世間で妾というのがどういう目で見られているかということを実際には知らない。それだけの英才教育を受けてきた。
「俺は秘書としてナンバーツーになるために、生まれてきたんだ」
 と納得できた。
 ナンバーワンにはなれなくても、ナンバーツーは保証されている。目標がはっきりしている状態からのスタートは、途中で目標を見定めるのとどちらがいいのか、難しいところではあるが、松川コーポレーションとしては、このやり方が最高だと思っている。
 この研修には、本部から、営業本部長と、管理部長のどちらかが、行動を共にするようにしている。二人がどうしても抜けられない事情を持っている時は、社長自らは研修に立ち会うというころになっていた。三人ともダメな場合には、営業副本部長が立ち会うということで決定していて、そのスケジュールもすでに決まっていた。
 研修日数は全部で二十五日あるが、十日ずつをそれぞれの本部長がまかない、残りの五日を社長自らということになった。
 最初の十日は本部長に任せ、その後、二日ずつくらい社長が入り、最後の日にまた社長が来るという日程が組まれた。最後の日は、ある意味家族水入らずと言ったところでの打ち上げのようなものがあるのかも知れない。
 二人にとっては、初めての泊りでの研修になるので緊張もあった。普段は屋敷での生活だったが、、こちらではホテル住まいである。研修とはいえ、二人ともまだ大学生であり、しかも哲郎はまだ未成年だった。
 とはいえ、高卒で社会人になっていれば、今は仕事を覚えるのに必死になっている時期だ。
 入社前からこんなにも手厚く研修を行ってくれる会社などないだろう。
 そもそも、まだ就活時期でもないのに、すでに進路が決まっていること自体、誰もが恨めしく思うほどで、まわりの人からすれば、
「あの二人は別格なので、比較するだけ無駄だ」
 と思っていることだろう。
 比較しても、やっかみしか生まれてこない。それは誰もが分かっていることだった。
 研修一日目には営業本部長が一緒だったので、まず影響活動から見学することになった。
支店には、営業部。現場を仕切る修理部と改造部、さらには、庶務、経理などをしている管理部に分かれていた。
 営業部は、自分の受け持ちのエリアを持ち、既存のお客と、新規開拓を目指す部分との二つに分かれている。
 二つに分かれていると言っても、同じ人が両方を受け持つわけで、分かれているのは、地域だけであった。
 基本的に既存の顧客を大切にしながら、新たに新規開拓を目指すのが一般的なやり方である。
「既存のお客さんに定期的に回っていると、そこからいろいろな情報を貰って、それを新規開拓に結び付けるんだ。たとえば、顧客が絵営業会社だったとすると、彼らも新規開拓を目指しているので、その部分に乗っかることもできるし、彼らの既存の顧客をこっちも狙うこともできる。それには、相手の担当と仲良くなって、そのあたりの情報を仕入れることで、こちらはそれを精査し、いけるかどうかを考える。最初が肝心だということもあるので、情報をしっかり精査しないと、やってはいけないこと、口にしてはいけないことなどをしてしまわないとも限らない。一度嫌われると二度といけなくなるのが、営業の辛いところでもあるんだ」
 と、営業の先輩が言っていた。
作品名:間隔がありすぎる連鎖 作家名:森本晃次