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間隔がありすぎる連鎖

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 さすがに、松川コーポレーションの次期社長が決まっている人なだけに、プロサッカーというわけにもいかなかったが、大学に進学し、大学でもその実力をいかんなく発揮し、二年生でしっかりレギュラーの座を射止めていた。
 大学リーグでも得点王を取るくらいの実力を持っていて。
「まさに天は二物を与えた」
 と言ってもいいだろう。
 二物のもう一つは、成績である。
 成績も優秀で、普通の学生でも、彼くらいの実力があれば、大企業が放っておかないレベルであった。
 哲郎の方はといえば、成績は優秀だったが、活発ということはなかった。趣味である小説を書くことに没頭し、文芸サークルに所属し、同人誌に掲載したりしていた。時々、小説新人賞などに応募していたが、二年生に上がった頃に書いた小説が、新人賞に輝いた。
 これは彼の才能の一つである、元々は、
「秘書たるもの、文章をうまく書けないといけない」
 という思いから、小説などに興味を持ったものだった、
 まさか、新人賞が貰えるまでになるなど思ってもいなかっただけに、素直に嬉しかったのは間違いない。
 彼にも、
「天は二物を与えた」
 と言えるのではないだろうか。
 彼は、その容姿が端正な顔立ちで、
「甘いマスク」
 と、特徴のある甘い声が女性を引き付けるのだった。
 何事にも控えめな、妾の子という宿命を持っているせいか、穏やかな性格が、二物の片方であった。
 そんな彼の性格、そしてマスク、さらには声、それらがすべての女性を引き付ける魔力のようなものだったのだ。
 女性にモテるようになった哲郎はその時に覚醒したのかも知れない。
 子供の頃から松川貞夫は、定岡哲郎に対して、英才教育のおかげか、絶対的優位に自分がいるという自覚があり、逆に定岡の方は松川に頭が上がらない自分の立場を理解していた。
 それが当たり前のことであり、これからも一生続いていくと頭の中で理解もしていたが、それは高校生までのことだった。
 大学に入ると、松川の方が、何か自分の絶対的優位を疑問に感じるようになった。確かにスポーツや学業では、素晴らしい結果を出し、誰からも慕われるような帝王のようなオーラを醸し出していた。
 だが、それも二年生までのことであった。三年生になると、定岡が入学してくる。
 彼は、小説を書いて、読ませてくれたのだが、その素晴らしさに正直嫉妬した。元々松川も、
「本当はスポーツよりも、何かを作るということの方がやりたいことだったんだけどな」
 ということを思い出させるだけの素晴らしさだった。
 定岡の実力に嫉妬してしまった。これは松川としては、大いなる屈辱だった。他の人に対しては決してこんなことはないのだろうが、相手が定岡だということが問題なのだ。
 定岡に対しては他の人にはない。絶対的優位であったはずだ。それは大義名分、実力ともにそうでなければいけなかった。
「それなのに」
 という思いが松川の中に芽生えてしまい、嫉妬という思いが屈辱に替わることで、ジレンマが襲ってきて。そのままトラウマにもなってしまった。
 定岡の方は、松川に対して、今までと変わりのない思いを抱いていた。子供の頃から、絶対的な優位を相手に感じながら、かといって、決して主従関係とまではいかない関係、気持ちの中で、
「大切なお兄ちゃん」
 という思いがあった。
 だから、
「従っているわけではなく、自分の力でお兄ちゃんを光り輝かせるという気概を持つことで、劣等感のようなものはないんだ」
 と感じていたことだろう。
 それは、大学に入っても変わりない。
 特に兄は、サッカーというスポーツで成功し、学業における成績も人に劣ることのない、名実ともに、
「支配階級にふさわしい人間だ」
 と思っていた。
 このあたりから兄弟の関係が少しぎこちなくなってきたのかも知れない。だからと言って、それが表に出ることもなく、進んでいるのは、兄には類まれなる才能があったからだ。スポーツにしても学業にしても、表に出ていることが真実であり、誰もが認める秀才だったのだ。
 ただ、兄は天才肌であった。それに比べて弟は天才ではなく、彼の小説における成功は努力の賜物であった。
 それは、本人が努力とは思っていないところにその真意があり、
「兄のために、会社のために」
 ということで、秘書の勉強の一環としてやり始めた趣味が功を奏したというだけのことである。
 元々素質もあったのだろうが、本人は少々の努力を努力と思わず、黙々と励むのは、自分が妾の家系で、本家を支える役割を、持って生まれてきたという運命だと理解しているからであろう。
 運命というものは、普通は最初から感じるものではない。生きていく中での節目のどこかで、自分の運命を感じるものなのだろうが、この異母兄弟は、生まれ持った運命を定めとして与えられていた。
 それに抗うことは許されない。許されないのであれば、最初から意識させておく方が、二人のためであり、ひいては会社のため、社会のためと言えるのではないだろうか。
 英才教育もそのためであり、まるで皇室のようではないか。
 二人揃って大学生になり、それぞれに自分の個性に気づき始めた。最初に個性と運命に対して疑念を抱き、さらに嫉妬心を抱いてしまったのは、兄の方だった。
 これは致し方のないことで、弟の方が嫉妬心を抱くよりもいいのではないだろうか。
 そう感じるのは、楽天的すぎるかも知れないが、それは、兄の方がさらなる成長をお黒んでいる証拠であり、必ずしも楽天的だと言い切れないのは、そういうところが影響しているのかも知れない。
 それでも、嫉妬心を隠してきたつもりだったが、それだけで終わらなかったのは、弟の容姿が欄礼であり、
「弟はモテるんだ」
 ということが分かったからだった。

                 研修旅行

 兄も、もちろんモテた、プリンスとしてすでにその立ち位置を明確にし、スポーツでも学業でも類まれなる才能を発揮しているのだから、帝王として君臨していると言ってもいい。
 しかし、それは、却ってまわりを寄せ付けないオーラを醸し出していて、
「あいつには触れてはいけない」
 という、まるで貴重品であったり、ちょっと揺らすだけで大爆発を起こしてしまう、ニトログリセリンのような効果を、まわりに与えていた。
 大学生として学業に邁進したり、自分の啓発したりして、成長著しい二人であったが、二人とも大学生になったことを機会に、松川コーポレーションの社長である松川社長は、二人の息子を会社に招いて、もちろん、入社させたわけではないが、アルバイトのような形で、ちょっとした仕事に従事させていた。
 松川の方は、企画部、営業部などを総括する部署に配置され、定岡の方は宣伝部に配置された。
 松川の仕事はあくまでも企画や営業の仕事を知ることが目的で、定岡の仕事の方は、新人賞をまだ受賞まではしていなかったが、その文才の実力派定評があったこともあって、文章とアイデアを生かした宣伝効果を狙ったのだ。
作品名:間隔がありすぎる連鎖 作家名:森本晃次