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間隔がありすぎる連鎖

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 今までに誘拐事件も何件か解決してきた横山警部補にとって、確かに犯人に対しての怒りや憤りが漏れなくあったことは間違いない。だが、今回はどこか誘拐事件だというのに、不思議な感覚があった。
 なぜなら、あまりにも誘拐された社長のまわりでいろいろな事件が起こりすぎているからだった。
 偶然なのか、それとも一連の連続した事件なのかと考えてみると、すべてがすべて、同じ犯人による犯行だとは思えない。それだけいろいろと集中しているように思えるのだ。
 まるで、
「これでもか」
 と言わんばかりの状況に、横山警部補は、却って冷静に考えている自分を感じる。
 どこか他人事のようにさえ思う事件の経過を、
「他人事のように見る方が、案外全体が見えてくるものだ」
 という思いに駆られていた。
 まるでこの事件が、
「いくつかの偶然が重なってできあがった事件であるかのような気がするくらいだ」
 と感じていた。

               第二の殺人

 行方不明となっている異母兄弟の二人の捜索、さらに誘拐された松川社長の状況、放火の跡で見つかった黒焦げ死体の正体。まったく分からなかった。
 特に社長を誘拐した誘拐犯からは、結城亜翌日に連絡があったきりで、それ以降はまったく音沙汰がなく、三日が経っていた。
 誘拐したのだから、何かの要求があってしかるべきで、犯人が言っていたように、金目的ではないのかも知れない。金目的であれば、早めに勝負を決めようとするのが犯人側であろう。何しろ誘拐した時点で、向こうは綿密な計画を立てていて。こちらはまったくの青天の霹靂の状態なので、立場は明らかに警察側の不利だ。
 しかし、時間が経てば捜査が及ぶことで誘拐犯の方は、相手と立場が近くなることで
いかにも不利な状況が相手に近づけるようになるはずだ。そうなる前に片を付けなければせっかくの優位性が意味をなくしてしまう。それだけに誘拐というのは、一気にけりを付けなければいけない犯罪の一つなのではないだろうか。
 ただ、身代金目的であれば、一番逮捕の危険があるのが、金の受け渡しの瞬間だ。普通の誘拐であれば、
「警察には知らせるな」
 という方法での驚愕になるのだろうが、今度の誘拐は、最初から警察を相手に話をしていて。まるで警察に挑戦しているかのようではないか、大胆不敵というか、身の程知らずというか、よほどの素人か、よほどの知能犯かのどちらかだと言えるのではないだろうか?
 さらに、この誘拐が、放火とその後の黒焦げ死体の発見とどう繋がってくるのか、そもそもあの死体は、犯人殺されて、その後に火にかけられたものなのか、それとも生きたまま縛られていて、火やぶりの刑に処せられたのかも分からない。まさか、どこかから死体を盗んできて、放火したなどという昔の探偵小説のような話があるわけもない。何しろ、今は昔のように土葬が残っているところはほとんどないのだからである。
 しかも、そんなことをして何になるというのか、犯人が精神疾患のある人間だったり、異常神経の持ち主であったりするという偽装目的でもなければ成立しない。そんなことを思わせて何になるというのか、それよりも、
「顔のない死体のトリック」
 を考えた方が、よほどマシなのではないかと感じた。
 そう考えてみると、一つ気になるのは、社長の息子である、研修に来ている異母兄弟の失踪である。
 まさか、
「黒焦げの死体をあの二人だ」
 ということもないだろう、
 少なくともあの二人は九時頃まで会食をしていて、十時には宿に帰りついたことでのカードキーを差し込みで防犯カメラでも確認ができたではないか。確かに身体の大きな方は兄の松川に見えないでもないが、プレハブ倉庫が火事になった頃には、まだ会食中だったことは、レストランの複数の人間が見ていたのだ。
「木下課長と、松川社長、それに若いにいちゃんが二人で仲良く会食をしていたよ」
 という証言があった。
 だが、木下課長と松川社長の顔は知っていても、異母兄弟の顔を知っている人は誰もいない。しかし、別人だとすれば、社長も木下課長も気づかないわけはない。
 ここでは、皆個室での食事になり、一種の接待に使われることが多い。密室の談合などを行うには、ちょうどいいのかも知れない。
「何時までいましたか?」
「ええっとですね。九時くらいまではいましたかね」
「皆一緒にですか?」
「そういえば、木下さんは、途中で一度外出しはったような気がするんですが、私の気のせいでしょうか?」
 とフロア担当がいうと、
「どうしてそう思われたんですか?」
「最近では、食事中に庭に降りたり、庭から、通路を抜けて表に出られる人もいるんですよ。商談のために、ケイタイ電話を手に持ってですね。他の人に訊かれたくないお話もあるでしょうからね。だから表に出はったとしても、詮索しないようにしているので、そういう人が頻繁にいると、誰が表に出たかなど、ほとんど意識がなくなってしまいます。その中に木下さんがおられたとしても分かりませんからね」
 と言った。
「木下さんだけなら、すぐに分かるかも知れないけど、木下さん以外の誰かと一緒に出たというようなことは?」
「あるかも知れませんね」
 ということだった。
 その日の夜になって、第二の殺人が発見された。死体発見現場になったのは、原罪の厚川コーポレーションK支店の倉庫兼修理工場だった。近代的な建築にはなっているが、やはり倉庫であることに違いはなく、だだっ広い倉庫内に、所せましと、資材や修理に必要な機会が置かれていた。
 専門家にしか分からない機会も多いので、説明にもおぼつかない。そんな感じの倉庫だった。
 倉庫は事務所とくっついている部分があり、その事務所側の入り口に面した形の前の部分が大きな敷地であり、シャッター部分に車をつける場所もあり、トラックなどでの部品入荷が行われる場所であった。
 シャッター部分の奥は倉庫内の詰め所になっていて、事務所や更衣室、小さな給湯室、からなっていて、現場の事務所となっていた。
 詰所の奥には畳の部屋があり、?忙期には数人で泊まれるようになっていた。
 最近では、あまりざ行はさせられないという会社の方針にしたがって、残業を減らすと、それに合わせたかのように、仕事も減ってきて。そのあたりが少し気になっているところであった。
 しかし、それはこの会社だけではなく、しかも今始まったものでもない。世の中不況になってきて、しかも、
「高いものを修理して使うよりも、安いものを使い捨てた方が、経皮的にはいい」
 という、どこかの研究所の論文がベストセラーなどになったものだから、修理業界はたまったものではなかった。
 そんな状態なので、宿直室が使われることは年間を通してたまにしかなく、まったく使われない年も増えてきた。今では祝職質というよりも、昼休みの休憩時間に使う人もいるという程度で、ほぼ、当初の目的が何だったのか、知っている人も少なくなってきたくらいだ。
 工場の朝は結構早い。一番の出社が午前六時くらいにやってくるのだが、始業自体は九時からで、社員が出社してくるのは八時頃が平均ではないだろうか。
作品名:間隔がありすぎる連鎖 作家名:森本晃次