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間隔がありすぎる連鎖

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「やはり社長に愛着があるんでしょうね。特に世襲による同族会社という趣の会社なので、そういう初代が大切にしていたものを壊すのは、抵抗があるようです。元々歩武として使用していたので、見た目はプレハブのような建物ですけど、防火の効果は結構あるようで、今回あれだけの火災だったにも関わらず、中は黒焦げでしたけど、表に燃え広がらなかったのは、そのおかげもあるというんですね。それともう一つ……」
 と、部下は言いかけて、少し言葉を止めた。
「もう一つ?」
 と再度横山警部補が訊いたが、
「あの倉庫のまわりは、最近まで、結構草がボーボーに生えていたそうなんですが、数か月くらい前にすっかり刈り取って、まわりには何もないような状態にしたんだそうです。近所の人はいよいよあそこを取り潰して、何か近代的なものを建てるんじゃないかと思っていたそうなんですが、プレハブを壊したり、中のものをどこかに持っていくというような様子もないようで、それを支店長に話したら、最初からあの建物をどうにかしようなどという話はないということだったんです。それでまわりの荒れ放題だった草のことも聞いてみたんですが、木下課長のたっての希望で、あのあたりの雑草を撤去することを進言してきたとのことでした。実際に支店長もあのあたりのことはほとんど眼中になかったようで、そのことに気づいてくれた木下課長に礼を言ったくらいだったというんです。それでそれからすぐに、あのあたりの整備を始めたということなんですよね」
「それが終わったのはいつ頃だったのかな?」
「先月くらいだということでした。せっかく綺麗にしたのに、まさか倉庫の中で火災が起こるなど思ってもいなかったと、支店長は嘆いていました」
「ところで支店長は、あの倉庫が防火効果のある建物だということは知っていたんだろうか?」
「ええ、知っていたらしいですね」
「じゃあ、実際にあのあたりを整備した木下課長は?」
「支店長の話では、知らなかったのではないかということです。支店長はかなりこの会社は長いですし、元々本部の総務にも在籍していたので、会社内の施設のことについては精通していたようです。支店長の話では、あの建物がここまで防火効果があるなどということを実際に市っていた人は、ほとんどいないだろうという話でした。別に秘密にしているわけではないですが、別に知る必要もないことですからね」
 と部下は話をした。
 倉庫に防火効果があることを知らなかっただろうという木下課長が、数か月前から倉庫のまわりを綺麗に整備し、最近綺麗になって、それから一月ほどで、火事が起こるというのはただの偶然なのだろうか?
 実際に木下課長が防火効果があるという建物であるということを知らなかったのかどうかも怪しいが、表に出ていることだけを考えると、まるで木下課長は、
「火事が起こるということを知っていて、燃え広がらないようにするために、まわりの草を整備したのではないか?」
 という疑惑が起こってくる。
 今回の火事はボヤでもなければ、火の不始末でもない。中でガソリンが撒かれていたということもあって、明らかな放火であることは間違いないだろう。さらに、中で黒焦げの死体が見つかっているのだ。これが放火殺人なのか、被害者が誰なのかを分からなくするために火をかけたのか、果たしてどっちなのだろう?
 ただ、これは科学班の話であるが、防火設備が整っている中で、猛烈な火を起こせば、その燃え広がり方は表に出ないために、まるで火葬場の火のように、本来なら骨だけになっていても不思議がないくらいだったという。
 ひょっとすると、犯人がガソリンの量を甘く見ていたのか、人に見られる関係もあったのか、、それ以上のガソリンをまき散らすだけの時間がなかったのか、ただ、黒焦げになったおかげで、被害者の特定は非常に難しいことには違いなかった。
「事なきを得た」
 と言っても過言ではないだろう。
 そういう意味で、犯人がこの建物の防火効果を知っていたのかどうか、それは重要なことになってくるだろう。おし知っていたのだとすれば、犯人はかなりの狭い範囲に限られてくる。
 ただ、それも犯人の目的が、
「火をかけたのは、被害者を特定されたくなかったからだ」
 という理由だとするならば、やはり防火効果を知っていたと見るのが妥当であろう。
 ただ、そういうことになると、少なくとも木下課長は重要容疑者の中から省いてもいいのではないだろうか?
 防火効果があるということを知っているのであれば、別に表の草を整備する必要はない。確かに美観という意味では、
「なるほど」
 と思う部分はあるが、自分だけで会社の経費を使わずにやったわけではない。
 会社の一つの事業として行ったのだ。確かにあの場所も会社の敷地内ではあるが、何か新たに建設予定にでもなっていない場所を、ただ美観というだけの理由で、しかもこの時期にわざわざ経費を使って行うというのもおかしな気がする。
 ただ、そうなると矛盾が生じてくるのだ。
 木下課長が火を起こしたとして、被害者の正体を隠滅するために行ったことであるならば、防火効果を知っていたということになる。そして美観が目的ではなく、まわりを整備したのは、
「火事が起こっては大変だ」
 という意識からであろうが、今までに火事が起きそうな雰囲気もなく、このあたりで放火というのも聞いたことがない状態で、しかも季節は春から夏にかけての、ある意味火事が一番起こりにくい時期に行ったというのは、どうにも不自然ではないか。
 まるで火事が起こることを予見していたような行動に、警察も何か怪しいと思わないわけもなかった。
 ただの偶然とは考えにくい。
 ただ、逆も言えるだろう。
「木下課長は何もかも承知していて、まわりを整備した」
 という考えである。
 放火が起こってから木下課長の矛盾に気づく人もいるだろうか、その矛盾を犯人除外の方法として捉えるのが、警察の捜査だと思ったとすると、警察はまんまと木下課長にミスリードされてしまったことになる。
 ただ、この考えは、元々が、裏の裏を考えるところから始まっているので、どこで終わるかで、事件の見え方が変わってくる。
 それはまるで、
「ニワトリが先か、タマゴが先か」
 という禅問答のようなものである。
 横山警部補は、考えれば考えるほど袋小路に嵌り込んでしまいそうで、どこかでいったん考えを辞めないといけないと思うようになった。
「箱の中に箱が入っているマトリョーシカ人形を見ているようだ」
 とさえ思うのだった。
 ただ、木下課長が犯人であるかないかは別にして、この人もこの事件に何か重要な役割を演じているように思えてならなかった。
 そう思うと、昨日の社長の誘拐事件というものも、昨日社長と最後まで一緒だったのが木下課長であるということから、どこか誘拐自体が芝居がかっているかのようにも思えてきた。
 本来であれば、誘拐というのは、凶悪犯罪の一つとして憎むべき犯罪、そこに携わったのであれば、どんな理由があろうとも、犯人に対して、少なからずの憤りを感じ、めらめらと沸き起こる怒りから、犯人に対して、挑戦的な気持ちがこみあげてくるものだと感じていた。
作品名:間隔がありすぎる連鎖 作家名:森本晃次