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間隔がありすぎる連鎖

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 と思っていると、事務員は、何か追い詰められたような表情になり、
「何をおっしゃっているんですか? 分かるようにご説明ください」
 と言って、顔色は真っ青になり、どうしていいのか分からず、目で支店長を見つめていた。

                  犯人の意図

 支店長も異変に気付いたようで、その事務員に無言で電話機のボタンを押す素振りをした。どうやら、スピーカー機能にするように命じたようだ。
 さっそく他の刑事や事情聴取を受けていた事務員に、さっと緊張が走った。今、皆の注目を浴びている電話を取った女性は指を震わせながら、スピーカーボタンを押していた。
「こちらは、おたくの社長を誘拐したものだけどね」
 と、人間の声とは思えないほどの甲高い音で、変声機を使っているのが分かった。まるでロボットか、ヘリウムガスを吸いながら話をしているかのようだった。
「社長を誘拐ですって?」
「ああ、そうだ。それでそちらに支店長がいるだろう? 変わってもらえるかな?
 まあ、もっとも、スピーカーにしているのであれば、それでもかまわないが」
 と言って笑っている。
 どうやら、こちらの動きはみえみえのようだ。
「私が支店長だが、君が社長を誘拐したというのは本当か?」
「ああ、本当さ」
「何が目的だ。金か?」
 とまるで誘拐ドラマのセリフそのままである。
「金? 何を言ってるんだかな。お前頭が悪いんじゃないか? そんなものはいらないよ。社長を拘束するのが目的だとでも言っておこうか」
 と相手は意味不明なことを言った。
 彼の言っていることは、実は的を得た答えだったのだが、慌てふためいてパニックっている事務所では、警察までもが、完全に普通の誘拐だと思い込んでいるようだった。
 もっとも、この男にはその方が都合がよかった。警察がそっちの路線で捜査してくれている分には、作戦通りだった。作戦の本質は、警察や犯人の目をこちらに引き付けておくことにあったのだ。
 そのことはもっと後になって徐々に分かってくることであるが、今K支店の事務所にいる連中の誰一人であろうとも、誰がそんなことに気づくというのか、電話口の向こうでは、犯人が嘲笑っているかのようだった。
 支店長はとにかく、社長の無事だけは知りたいようで、
「社長は無事なんだろうな? 声だけでも聴かせてくれ」
 と、犯人がいうことを聞くわけはないだろうという予感を抱いていたのだが、意外とその要望はすんなり通った。
「よし、分かった。少しだけ聞かせてやろう」
 と言って、受話器の向こうで、
「早くしろ」
 という罵声が聞こえた。
「おお、皆、私は無事だ、心配しないでくれ」
 とそこまでいうと、それ以上社長は何も言わなかった。
 それを聞いて、横山警部補は、
「あれ?」
 と思った。
 犯人が簡単に声を聞かせたのも変な気がしたし、声を聞かせるチャンスを与えられた社長の方も、本当に必要以上のことは言わなかった。本当であれば、犯人に繋がる何かだったり、場所のヒントくらいは与えようと考え、それに気づいた犯人に、止められるというのがよくあるパターンであったが、まったくそんなこともなく、まるで誰かが書いたシナリオを。忠実に演じているかのように思えて仕方がなかった。
 そのシナリオは誰が考えるというのか、この犯人なのか、もしこの犯人だとすれば、社長のこの素直さは何なのだろう? それほど激しい脅迫を受けていて、何もできない雁字搦めの状態にさせられているということなのだろうか?
 それを思うと、横山警部補は、自分がこの状況をどう判断すればいいのか、躊躇していた。普段であれば、もう少し自分の考えに自信を持ち、まわりを誘導するくらいの気持ちになって先導する気持ちになるのに、まず自分が迷ってしまって、何をどうしていいのか、思考回路がマヒしてしまっているかのように思えたのだ。
――私は一体、どうすればいいんだろう?
 今までの刑事として培ってきた自信であったり、経験から来るものも、通用しない犯人に初めて出会ったような気がした。
――ひょっとして、俺は犯人の掌の上で踊らされているだけではないんだろうか?
 と思った。
 そう思うとなぜか犯人に対しての憎しみが和らいでくるのを感じた。
「犯人は憎まなければいけない」
 という信念があった。
 特に誘拐などという犯罪は、被害者の自由を拘束するもので、卑劣な犯罪の一つだと思っていた。
 そんな犯人を憎まなければ、事件解決にはつながらないといつも思っているのに、この日は一体どうしたことだろう?
 何か、不思議な感覚を持ちながら、犯人の声を聴いていると、警察を嘲笑っているかのように思えるのだが、本当の狙いが別のところにあるのではないかと感じるようになったのはなぜなのだろうか?
 この二日間における倉庫焼失事件と、倉庫から見つかった黒焦げの二体の死体。そして、その会社の社長の二人の息子、いわゆる異母兄弟の謎の失踪、そして、今回の社長自身への誘拐事件、すべてが繋がっているのは確かだろう。これだけ一連の事件が社長を中心に繰り広げられているのだから、犯人の目的がどこにあるのかはまったく分からないが、これらの事件がすべて繋がっていることは明らかだし、これだけ立て続けに起こっている事件なので、このまま何も起こらないというのもありえない気がした。
 むしろ、これだけのことが起こっているのだから、急に音沙汰がなくなってしまうと、今度は手掛かりが消えてしまいそうな気がして、殺人などの最悪の自体は困るが、まったく何も犯人側が行動を起こしてくれないのも困る気がした。
 特にこの誘拐事件に関しては終わったわけではない、誘拐したのだから、少なくとも誘拐事件に関しては何か決着がつくような新たな展開がなければおかしいだろうと思うのだった。
 だが、横山警部補は、
――ひょっとすると、これ以上、誘拐事件が進展しないかも知れないな――
 とも思っていた。
 しばらく大人しくしてくれていた方がいいと感じたのは、どうも社長を誘拐して、身代金目的ではなさそうではないか。もちろん、犯人が自分でそう言っているだけで、ただ、犯人の話をそのまま鵜呑みにすれば、犯人の目的は、
「社長の拘束」
 である。
 それ以外にないのだとすれば、この誘拐は今回の事件に何らかの関係はあるのかも知れないが、何か単独の行動に思えて仕方がなかった。
 誘拐に関しては、誘拐専門のチームが当たるだろうから、自分たちは殺人事件を追うことになる。ただ、その動向だけは見守っていかなければ、並行して起こっているだけに、連絡は密にしなければならないと思うのだった。
 まずは自分たちがやらなければいけないのは、社長緒息子たちの捜索であった。まずはホテルに行って、昨夜からの行動を洗いなおすことにした。
 ただ、ホテルでは前述のように真新しい情報は得られなかった。今は深夜でもフロントを通らずに、カードキーで入退室は可能である。ただ、カードキーで入り口を突破できるので、その情報は管理されている。ただ、二人が一緒に出たとしても、一人のカードで十分なので、その時間に二人が一緒だったのか、一人だけだったのかは、カードキーだけでは判断はできない。
作品名:間隔がありすぎる連鎖 作家名:森本晃次