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間隔がありすぎる連鎖

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 だが、昨夜は支店長がいるのは知っていたが、一緒に社長もいたことは知らなかった。社長は普段から本社にいる人なので、事件に関してはほとんど関係がない。だから、余計なことを聞くこともなかったのだが、
「こんなことになるのであれば、ひところくらい話をしておけばよかった」
 と、横山警部補は悔やんだのだった。
「ところで、お二人は昨日、こちらに一緒に来られたんですよね?」
「ええ、夜中の一時過ぎくらいだったでしょうか、電話がかかってきて、火事になっているということを私と社長に交互に連絡が入りました。私はその少し前に送っていった社長の宿泊しているホテルに赴いて、社長を伴って現場に来たんです。本当は社長にはご足労を掛けるつもりはなかったんですが、ガソリンが撒かれているようだと聞いて、社長も黙ってはおられなかったんでしょうね」
 と支店長が言った。
「ところで社長と、社長のご子息が泊まられている宿は同じところなんですか?」
 と訊かれて、
「いいえ、違います。社長が宿泊されるところはいつも決まっているんですよ。でも、そのホテルでは、二名の社員を一か月以上も連泊させるというわけにはいかないということだったので、少しランクは落ちますが、一流と呼ばれるホテルを一か月間の研修中に使うようにしたんです」
「そこは近いんですか?」
「いいえ、近いというわけではないですよ。ご子息が宿泊しているところは会社から近くにありますからね。交通の便はいいところです。社長が宿泊されているところは、仕事での宿泊というより、社長クラスのホテルに泊まるということで、夜景がきれいな一流ホテルをいつもご利用になります。しかも、軟白かしかしませんからね。かたや研修なので、主旨が違っていると言ってもいいでしょう」
 と支店長は言った。
「ところで木下課長というのは?」
 と訊かれて、
「彼はうちの副支店長のような立場です。私が出張の時などは、彼が支店長代理を引き受けてくれるので、助かっています。私としては彼に全幅の信頼を置いているんですよ」
「なるほど、そういうことなんですね? 結構支店長の代理ともなるとお忙しいんでしょうね」
「ええ、昨日も仕事を十時過ぎくらいまで仕事をして事務所を出たそうです。それですぐに落ち合ったんですが、彼はあまりお酒を呑みないタイプの真面目な人なんですよ。彼は実は途中入社でしてね。前の会社では結構大手だったんですが、本部勤務で人事をしていたそうです」
「人事というのは、神経を使う仕事なんでしょうね?」
「ええ、そうですね。人の異動だったり、昇進などは、人事部が考えますからね。一歩間違うと会社内で恨みを買わないとも限らないところで、ある意味割が合わないような仕事ではないかと思います。以前、ここに赴任してきた時、最初の頃は、人事が辛かったと愚痴をこぼしていたくらいでしたからね。今でこそ落ち着いてきているので愚痴をいうことはなくなりましたが、あれだけ落ち着いている人がノイローゼ気味になるというんだから、人事なんてやるもんじゃないって感じましたね」
 と支店長はそう言った。
 支店長という仕事も本部と支店の社員との間に板挟みにあって、結構辛い仕事に思えるが、果たしてどうなのだろうか?
 横山警部補も警察組織というものに、結構な理不尽さと矛盾を感じているので、一般企業の人事の辛さも分かる気がしていた。
 しかも支店長クラスともなれば、似たような感覚であろう。そういう意味では木下課長の存在は支店長にとって、結構ありがたいものなのではないかと思えた。
 また、木下課長としても、支店長の存在があるからこそ、トップではない自分が自由に動ける気がして、やりがいがあるのではないだろうか。横山警部補はそんな風に考えていたのだ。
「そういう意味では、木下さんは、支店長さんがいてくれるから結構仕事がしやすいのかも知れませんね」
 と、少しお世辞を交えて行ったが、支店長をそれを真面目に受け取ったようで、
「ええ、そういっていただけると、私も嬉しいです。木下課長も前の会社では結構苦労をしたという話ですからね」
 と支店長は言った。
「それは木下さんが自分から言ったんですか?」
「ええ、一緒に食事に行った時ですね。お酒を呑んでいるわけではなかったのに、その時の木下課長は結構饒舌でした、よほど喘の会社では、誰にも何も言えない立場にあったということなんだって、気の毒に感じたので、言いたいことはすべて言わせましたよ」
 と言って、支店長は笑っていた。
「木下さんは、すべてを話し手くれましたか?」
「ええ、話してくれたんだと思います。何しろ、すべてを話終わってから我に返った木下君は、自分が何を言ったのか覚えていないくらいだったからですね。よほど、不満がたまっていたんでしょうね」
「支店長さんは、そんな不満を聞いて、どうも思わなかったですか? 人の抱えている不満を聞くというのは、よほど親しい仲であっても辛いものなんじゃないですかね?」
「思わなかったですね、それに親しい仲の方が、辛いということもありますよ。まだお互いに腹を割って話したことのない相手の言葉は、言い方は悪いですが、多淫ごとのように聞けますからね」
 と支店長は言った。
「そのお気持ちは分かります。ちなみに、この支店では、そういう人の不満を聞いてあげたりするような人、誰かいましたか?」
「今のところは、私には思いつきませんね。木下課長が入ってきてくれて、その役を彼が引き受けてくれているものだと私は思っていました。実際に若い人の中には、木下課長を慕って、悩みを打ち明ける人もいるようです。木下さんのいいところは仕事以外のことでも相談に乗ってくれるらしいので、そのあたりにも、優しさを感じている若い連中もいるようです」
 と支店長がいうと、
「どういう悩みですか?」
 と横山警部補が聞くと、
「恋愛の悩みだったり、時にはお金の悩みまで聞いてあげていたこともあるそうです。もっとも、的確な助言ができる内容ではないですけどね」
 と支店長がいった。
「そうでしょうね。恋愛にしても、相手があることですし、お金の場合は、自分が出してあげるわけにもいきませんからね、すべては助言でしかない。あるいみ聞いているだけで辛くなりそうに思うんですけどね」
 そんな話をしているところへ、事務所の電話がけたたましく鳴った。朝の時間帯なので、得意先からの電話も多く、さっきから事件と平行していつものように営業が営まれていたが、そんな中で、一人の事務員が取った電話の様子が少しおかしかった。
「はい、松川コーポレーション、K支店ですが」
 と言って、普通であれば、相手が電話口で自分の名前を言って、それを聞いた事務員が、
「いつもお世話になっております」
 というのが、マニュアル化された電話応答なのだろうが、少し勝手が違った。
 その事務員は自分の会社名を言ってから、相手が何かを言っているその時、カッと目を見開き、何か虚空を見つめていたのだ。その様子が何かにとりつかれたかのように見えるところは、最初まったく気にもしていなかった横山警部補を、そっちに意識をもっていかせるだけの力を持っていたのだ。
――どうしたんだ?
作品名:間隔がありすぎる連鎖 作家名:森本晃次