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ファイブオクロック

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「ああ、逢魔が時というのは、夕方の日が沈むくらいの時間帯に、妖怪ともっとも出会う可能性の高い時間帯があるというんだよ。それを逢魔が時というんだけど、いわゆる魔物であったり、もののけも、妖怪の一種のようなものだね。そんな妖怪と出会うような時間に、結構事故が多かったり、殺人事件があったりと、あの坂には、昭和の頃にそういう歴史があったというんだ。戦前だっただろうか、例の財閥の暗殺計画があったらしいんだけど、それを実行したことがあったらしくって、その暗殺自体は失敗したんだけど、屋敷の中の書生や施設警官隊のような人たちが多数銃殺されたということで、しかも、それが夕方だったらしいんだよ。本来なら真夜中に行いそうなものなんだけど、夕方の逆光を利用しての犯行だったようで、本当は成功したかも知れない作戦だったらしいんだ」
「どうして失敗したんですか?」
「密告があったようなんだ。そうでもなければ、作戦は成功していただろうと言われている。でも、密告があったせいで、死人が増えたんじゃないかという話もあるんだ、暗殺計画としては、なるべく関係のない人を巻き込まないような計画だったらしく、下手に騒ぎが大きくなってしまったことで、書生や警官隊に、余計な死人が増えてしまった。残虐なクーデターとして伝わったけど、本当はそんなことはなかったんだ。しかも、クーデターが失敗に終わると、政府はクーデターが繰り返されることを恐れて、首謀者には死刑を、実行犯には死刑か無期懲役というようなひどい裁定をしたようなんだ。つまり、見せしめのようなものだよね」
 と先生は話してくれた。
「でも夕方の西日の眩しさを利用するというのは、危険な感じもしますよね;
 と三郎がいうと、
「実はそうでもないんだよ。だって、次第に暗くなってくるだけだろう? いきなりの閃光での眩しさの中から、、どんどん闇が襲ってくる。しかも、急に闇に向かってくるわけだから、当然目くらましになるわけだね。そういう意味では、作戦としては間違っていなかったと思うんだ。要するに、戦術では勝ったけど、戦略で負けたというところかな?」
 と先生が言った。
「ずるがしこい方が勝つということでしょうか?」
「それは少し違うような気がするな。防ぐ方は、クーデターの前と後ろを考えて、複線を敷いていたり、善後策もできていたりするんだけど、起こす方は、言い方は悪いが、場当たり主義のようなやり方になってしまうので、クーデターが成功していたとしても、その後の運命には変わりはないかも知れないね。しかも、クーデターで暗殺したい人が殺されたとしても、他に変わりの人が出てくるので、同じことなんだよね。トカゲの尻尾切りでしかないんだ。それが歴史というものかも知れないと、私は思う」
 と先生は言った。
 三郎も最初は先生の言っていることが難しすぎて分からなかったが、先生の話に追いつこうと、分からないところを質問したり、自分なりに勉強したりして、先生の話についていけるようになってきた。
 先生も三郎の理解力には敬意を表していて、他の人には言えないようなことを先生に話すことも珍しいことではなかった。
 先生にとっても、三郎と話をしている時、三郎をもはや子供とは思っていなかったりする。
 そんな先生であったが、どこかオカルト的なことを信じているところがあり、三郎にはそのあたりが疑問だったのだが、先生とすれば、
「歴史の勉強の一環だからね」
 と言っていたので、それを悪いことだとは言えないと思うのだった。
「でもね、このオカルトっぽい話がたくさん残っているということは、何か曖昧なことをごまかそうという意思が働いているんじゃないかって思うんだ」
 と、先生が言ったが、
「どういうことですか?」
 と聞くと、
「オカルトっぽい都市伝説的な話というのは、結構、いろいろなところで残っていたりするでしょう? でも、そのほとんどの話が似たような伝説だったりするんだよね。例えば浦島太郎の話などは、結構いろいろなところに似たような話として残っているでしょう? それを私は、どこまでが本当なのかって思うんだよ。おとぎ話などというのは、教訓的な話が多いでしょう? 他のところから盗んできた話であっても、信憑性を与えて伝えると、その土地の話にしてしまうことだってできる。それに昔の村というのは、閉鎖的な場所が多かっただろうから、他の地域の伝説など、気にもしないんじゃないかって思うんだよ。自分の土地での伝説のように伝えるために、曖昧な部分を全面に押し出すことで、余計に神秘性を煽ることで、他にはないかのように思わせるというテクニックのようなものがあるのかも知れないね」
 と、先生はいった。
 この街に存在する日暮坂という場所だけでも、かなりたくさんの言い伝えがあるのだと思うと、不思議な気がしてきたが、夕方に姿を現す、いわゆる、
「ファイブオクロックシャドー」
 の異名をとる人を気にするのも、無理もないことのように思えるのであった。
 奇しくも先生とよく話をするのは、どうしても放課後、無意識ながら、先生の口やあごに見える髭を気にしている自分がいることに、気付かない三郎少年であった。

                 五時の秘密

 五時になるとその人が現れるのは皆の周知になっていたが、だからと言って、さほど話題にすることはなかった。どこかタブーのようなところがあったのだが、その理由には、
「どこか奇怪な部分があるので、ウワサにすると、ロクなことはない」
 というところから来ているようだった。
 都市伝説の中には、そういう話も多いようで、昭和の時代であれば、先生から聞いた話として、
「口裂け女」
 というのが流行ったと教えてくれた。
 顔を完全にマスクで覆ったような女性が、学校帰りの子供に、
「私。綺麗?」
 訊くのだという。
 そう訊ねられた子供が、
「きれいです」
 と答えると、
「……これでも……」
 と言ってマスクを外すと、そこには、耳元まで口が裂けた女がいるという。
 恐ろしいのは、最初に、
「綺麗ではない」
 と答えると、包丁や銃で殺されるという。
 また、先生が言っていた話として、
「トモカヅキ」
 という妖怪がいるという。
 その妖怪は、いわゆる、
「ドッペルゲンガー」
 にゆえんするような話であるが、こちらは三重県の鳥羽や伊勢あたりに伝わる伝説で、海女さんがもっとも恐れる妖怪だという。
 海女さんなど、海に潜る人そっくりに化けて、人を暗い場所に誘ったり、アワビを差し出すという、その誘いに乗ってしまうと、海に引きづりこまれて殺されるというのが一般的にいわれていることである。海女さんはそんなトモカヅキへの魔除けとして、五芒星を模した手ぬぐいを身に着けているという。
 こんな恐ろしい妖怪の伝説に似たような話も、この日暮坂には残っているという。もちろん、トモカヅキは海の妖怪であるが、ここは坂の上。シチュエーションが違っているので、内容も違うのは当たり前であるが、それだけにトモカヅキの伝説を知らない人が多い中で、この話もいつの間にか風化してしまって、調べなければ出てこない都市伝説と化してしまっていた。
 一つ言えることとして、先生の話で、
作品名:ファイブオクロック 作家名:森本晃次