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ファイブオクロック

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 それはさておき、いろいろな疑問がこの事件にはある。まずは、何と言っても「ファイブオクロック」と呼ばれる人物の存在だ。しかも、その男を見たのが三郎少年であり、しかも三郎少年が意図をもってその人物を探っている時に事件が起きている。二つ目の事件は事件としては表に出ていないが、少年がウソをついているのでなければ、そこに誰かに殺されかけた人がいたと言ってもいいだろう。
「まるで、ファイブオクロックと呼ばれる人物と三郎少年が二人で狂暴して犯行を重ねているかのようじゃないか」
 と、辰巳刑事は言ったが、本当にそんな感じを匂わせる事件だと言ってもいいだろう。
 またこの事件で特徴的なのは、三郎少年が見たという「祠」であった。
 他の捜査員は、
「そんなの子供の戯言にすぎませんよ」
 と言っていたが、辰巳刑事と清水刑事は少年がウソを言っているようには思えなかったし、少年にどうしてウソをつく理由があるのか、それが分からないではないか。
 さらにいまだに残っているこの防空壕。どうしてその場所にポツンとあるのか、それも不思議であった。誰かに聞いても知っている人はいない。ただ、近所に昔から住んでいる老人がいるのだが、その人は何かを知っているようなのだが、語ろうとはしない。
「この事件に関係のないことだ」
 というだけで、渋い顔をする。
 これ以上追求すると、何が飛んでくるか分からないほど怒り狂いそうに見える頑固おやじなので、誰も近づくことができなかったのだ。
 そして問題になっている死体である。顔がちゃんと残っているのに、なぜ被害者の特定ができないのか、不思議だった。さらに、被害者を結婚詐欺の女ではないかという男が現れるが、被害者の指紋に、前科はない。それだけ結婚詐欺をうまくやっているということなのか、ただ、その結婚詐欺の女は整形手術をしているという。どのような整形をしたのか、ひょっとするとモデルになる女性がいたのではないか。そうなると、似たような顔の女性がもう一人いることになる。本当に身元が判明しないところが難しいところであった。
 結婚詐欺の被害に遭ったと目された男性たちの情報は、警察の力で令状を取り、何とか聞き出すことができた。
 彼らには全員が青天の霹靂だったという。
 一人一人訊ねるよりも、一堂に会した方がいいのではないかという清水刑事の発案で、捜査本部の会議室で、五人の男が初めて顔を見合わせたのだ。
「どういうことなんですか? 警察から呼び出しがかかるなんて。正直会社にも印象が悪いですよ」
 と言って、出頭を命じられた人たちは皆プンプンしている。
「これは本当に申し訳ありません。今日来てもらったのは他でもないんですが……」
 と辰巳刑事は苦笑いをしながら、
「皆さんは、それぞれ結婚相談所で紹介された女性とお付き合いされておられますよね?」
 と言われて、五人はそれぞれ目を合わせるようにしてから、そのうちの一人が、
「ええ、私はそうですが」
 と答えると、他の皆も堰を切ったかのように、
「俺も、俺も」
 と言って、手を挙げた。
「非常に申し上げにくいんですが、皆さんにはこれをご覧になっていただきたい」
 と言って、探偵が撮った写真を机の上にばらまいた。
「これは?」
 見るからに明らかな隠し撮りであることで、彼らはさらに憤慨した。
「これじゃあ、まるで盗撮じゃないですか?」
 と言ったが、そのうちの一人は写真を手に取って見比べてみると、
「ちょっと待って、刑事さんの言いたいこと分かるような気がする」
 と一人の男が呟いた。
「お察しがいいですね」
 と言ったが、その男はそれには答えず、他の四人の顔を見渡して、もう一度刑事を見てから、
「これって、結婚詐欺ということですか?」
「ええ、そうです」
 と刑事がいうと、室内に低い声のどよめきが起こった。
「そんなバカな」
 と頭を抱える人、
「信じられない」
 と言って、眉をゆがめる人。
 何も言わずに、うな垂れる人、さまざまであったが、
「何となく、そんな気がしていました」
 と冷静にいう人もいた。
「というと?」
 と辰巳刑事が聞くと、
「あのオンナ、毎回違う服で来ていたんだけど、自分たちが買ってあげた服ではないものを着てくることが多かったんです。普通なら買ってもらって嬉しいから、次のデートにはその服を着てくるでしょう? でもあの人は、自分が買ってあげたことのない服を時々着てきているんですよ。そういうところには無頓着だったんでしょうか? それとも、たくさんの男がいて分からなくなっていたのではないかとまで思ったほどでしたが、まさか最悪の方だったとは、参りましたね」
 と言って笑っていた。
「じゃあ、結婚詐欺を疑っていたということでしょうか?」
「ええ、怪しいと思って。最近はお金のかかることはしなくなりました。すると彼女の態度がみるみるうちに変わっていって。どうしようもなくなったんです。これで本当に結婚詐欺だと思ったので、いつ切ろうかと思っていました」
「訴えようとは思わなかった?」
「訴えても証拠がないと警察は動いてくれないでしょう? 証拠を掴もうにもお金がかかるし」
 という。
「なるほど、実は我々も、もう一人あなたがた以外に騙されている人がいて、その人が訴えてきたので、分かったというわけなんです。その人は探偵を雇って、彼女の結婚詐欺の証拠を揃えていました。それが、この写真というわけです」
 他の四人は、刑事と冷静な男性の会話を聞きながら、すべてが初耳だったことに混乱しながら、この写真の意味が分かったことだけには安心したのだった。
「言われてみれば、どしてあの女の手口が分からなかったんだろう? それだけ好きになってしまったのか、それとも、あの女の手口が鮮やかだったのか」
 と一人がいうと、もう一人が、
「そんなことはないさ、実際に気付いた人が二人もいたんだ。俺たちが気付かなかっただけさ。きっと女の方でも、五人も六人にも手を広げているんだから、どれかの一人に分かったとしても、その人から手を引けばいいだけで、訴えることもできないとタカをくくっていたのかも知れない。いろいろな結婚相談所に登録するというのは、別に悪いことではない。それだけ結婚を真剣に考えているという人もいるだろう。だから騙されやすいのかも知れないし、二股くらいなら、実際にしている人だっているんじゃないかな? でもどうしてあの女は結婚詐欺なんかしたんだろう? お金が目的なんだろうか?」
 と一人が言ったが。
「整形までしているので、かなり準備段階で出費もかさんでいるだ。女は男に騙されて借金を背負わされて、風俗で働いた。そこで男を手玉にとることに喜びも感じたのではないかな? 復讐を込めて、男から金銭を奪う。自分がほしいというよりも、男への復讐だね」
 と辰巳刑事がいうと、
「なるほど、だから彼女は敢えて自分を淑女のように装わなかったんだ。妖艶さを醸し出しながら、清純を装っていたかのように思えたのは、風俗の経験と、男に対する復讐心から彼女をそんな性格に作り上げたのかも知れない。逆にあの彼女の性格は作られたものというよりも、本性だったのかも知れないな」
 と被害者の一人が言った。
作品名:ファイブオクロック 作家名:森本晃次