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ファイブオクロック

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「男を食い物にする許せない女だけど、同情の余地がないわけでもないな」
 と一人が言ったが、
「難しいところですね。結婚詐欺として刑事罰を与えることはできないかも知れないけど、俺たちが集団訴訟をすれば、民事で争うことくらいはできるかも知れない。それくらいのことしたって、バチは当たらないさ」
 と、もう一人が言った。
 実際にそれくらいしか、結婚詐欺ではできないのだが、
「ところで、相手が死んでしまっていれば、詐欺で訴えることもできないんじゃないですか?」
 と一人が言った。
 それに対して、ニッコリと笑ったのは、辰巳刑事で、
「それは大丈夫です。あの死体は別人なんです」
 というではないか。
「どういうことですか?」
「あの死体は彼女が顔を整形のモデルにした女だったんです。それを梶原奈美恵も知っていて、彼女を殺すことで自分が死んだと思わせようとしたんですよ」
「でも、そのために彼女は殺されたんですか?」
「いいえ、実は被害者も結婚詐欺を働いていた。そして、その女こそ、前に一人の男を自殺に追いやった女だったんです。やはり結婚詐欺をするための顔って、それなりにあるんでしょうね」
 と辰巳刑事は言った。
 詐欺被害者を返した後、捜査本部で清水刑事が話をしている。
「つまりですね。今回の事件の本当の目的は、詐欺を裏で操っていた男を殺そうという目的だったんです。ファイブオクロックをでっちあげて、少年に祠を見せたり。わざと死体を発見させたのは、それが本当の目的だと思わせるため。しかし、実際には別の人を殺すことが目的で、殺されたのに死体がなかったことで、少年をオオカミ少年のように見せかけて、カモフラジュしようとしたんですよ」
「よく分かりません」
 と他の捜査員がいう。
「今回の事件には共犯者がいた。その共犯者は二人の顔が瓜二つ。まあ、一人は整形なのだから当たり前だが、それを唯一知っている人だったんだよ」
「誰なんですか?」
「結婚詐欺を捜査した、あの探偵さ。やつは結婚詐欺などの捜査に関してはプロフェッショナルなんだ。それは実際に捜査して告発することもあるが、中には容疑者と組んで、うまく立ち回ることも結構あったんだよ。それが彼の正体だった。そういう意味では、梶原奈美恵も利用されたと言ってもいい」
「じゃあ、この事件での梶原奈美恵の役割はなんだったんですか?」
「それがあの怪しい人物であるファイブオクロックと言われた髭の男さ。目撃者を少年にしたのも、髭を生やしているんだから、男のはずだという印象を深めるためであり、さらに、二回目の本当の殺人をカモフラージュするためのオオカミ少年をえんじてもらうためだったんだよ。だから時間が五時という正確な時間であったことも、少年にその信憑性を確かなものにさせるためのものだったのさ」
「本当の主犯は誰だったんですか?」
「それは、最初に殺された女に騙された境田美祢子ということになるだろうね。彼女の目的は弟の復讐。最初に実際に騙した女を葬っておいて、結婚詐欺の主犯をその後に殺す。それが目的だったんだ」
「じゃあ、結婚詐欺の主犯というのは?」
「菅原良治だね。つまり犯人たちが本当に殺したかったのは菅原ということになる」
 それを聞いて捜査員は、
「そういえば、被害届を出したまま、菅原さんに連絡が取れなくなったのが少し気になっていましたが、まさか殺されていたということでしょうか?」
「そういうことだろうね。やつは梶原奈美恵に騙されてもいないのに、騙されたふりをした。そして、探偵の動向も探る意味で、その探偵に捜査を依頼したわけだが、探偵の方もすでに怪しいのは菅原だと分かっていた。騙されているつもりで騙していたというわけさ。この場合どっちもどっちというべきなのだろうね」
「じゃあ、ひょっとして梶原奈美恵が整形した時に前の結婚詐欺の顔にしたというのは、ただの偶然だったんでしょうかね?」
「偶然と考えるのが普通だけど、そのあたりから、境田美祢子が関わっていたのかも知れませんね。ただ、まさか奈美恵が同じ結婚詐欺の道に入るとは思ってもいなかったかも知れないですね」
 と清水刑事がいうと、
「そう考えると、彼女が結婚詐欺に走っていなければ、別の形での復讐になったかも知れませんね。まさか、最初から復讐計画が立てられていたとは思えないですからね」
 と辰巳刑事は言った。
「いや、分からんよ。この計画は最初から歯車が合っていたような気がするんだ。だから、あまりにもうまくかみ合ったので、それを解く方も一つ何かが分かってくると、そこから生まれる想像が、繋がった部分に真実があるということだろうね。それを思うと、私はこの事件の本当の意味がどこにあるのか、見つかる気がするんだ」
 と清水刑事は言った。
 犯人たちは逮捕され、罪を素直に認めているという。
 菅原良治という男は、被害届を出したとしても、それが受理されたとしても、刑事事件で捜査されることはなく、民事でもないことを分かっていた。自分が犯人側にいるのだから、告訴など取り下げればいいのだ。それよりも自分を蚊帳の外に置くことで、これからの結婚詐欺をやりやすくしようと思っていたようだ。ある意味で、策を弄しすぎたと言えるのではないだろうか。
 殺しを行った二人には、重い罪が用意されることになるだろうが、どうしても恨むことのできない刑事二人だったが、罪を償って、騙してきた連中に対しても謝罪することで、これからの人生をしっかり生きて行ってほしいと思った。
 今回の事件は、何とも言えない後味も悪さがあった事件であったが、救いとしては、三郎少年がオオカミ少年ではなかったということであろうか……。

                  (  完  )



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作品名:ファイブオクロック 作家名:森本晃次