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ファイブオクロック

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 と言い続けて、それが狂言であることを遊び感覚で楽しんでいた少年が、最後に本当にやってきたオオカミに食べられるというお話で、最後にオオカミが来たと言って、叫んでもそれまでの素行の悪さから、誰も彼のいうことを信じるものがいなくなってしまうという戒めを込めた教訓のような童話である。
 三郎は、その中に出てくる、
「オオカミ少年扱い」
 されてしまったというわけである。
 ちなみにこの時の先生は佐久間先生ではなかったのだが、この先生もクラスメイトも、数日前の例の防空壕で、三郎が、
「死体を見た」
 と言っていたことを知っている人はいない。
 知っているのは増田警官と三郎だけだった。
 もし、このことを知られていたら、
「オオカミ少年」
 というだけでは済まなかったに違いない。
 まるで三郎には狂言癖があるかのように思われて、そのために、この程度の攻撃で終わるわけもなく、下手をすれば、苛めに発展していたかも知れない。
 三郎もさすがに、一度ならずも二度までも、同じようなことがあれば、
「ちゃんと見た」
 と言い張るだけの自信を自分でもつことができなくなってしまうような気がしてきた。
「俺って本当に狂言癖があるのか、それとも、幻を見てしまうのか、一体どうしたっていうんだろう?」
 と考えてしまう。
 最初は確かに自信を持っていたはずの三郎だったが、だんだんと自分が信じられなくなってくるようだった。
 何をやっていても自分に自信が持てないと、楽しくもないし、まわりが自分をどのような目で見ているのかということを考えると、そこに見えてくるのは、恐怖心だった。
 恐怖という言葉を思うと、思い出すのは、最初に見た殺人現場だった。あの恐ろしい断末魔の表情。あの表情を最初に見て、
「恐ろしい」
 と感じたが、その恐ろしさのピークはその時だった。
 次第に怖い表情を見ても、それほどの恐怖に思えなくなってきた。その証拠にこの間見たと思っていた死体だって、
「あれは本当に死体ではなかったのではないか?」
 という増田警官の指摘にもあったように、言われてみれば、本当に死体だったおかと自分でも信憑性がないようにも思えたのだ。
 さらにとどめに、給食費盗難事件。これは狂言であったが、確かに誰かが教室をウロウロしていた。子供だったのか、大人なのかすら曖昧ではあるが、誰かがいたということだけは分かっている。しかし、盗まれたという事実がなくなってしまうと、自分だけが高いところに上ったまま、梯子を外された気分である。もうこうなってしまうと、自分の正当性を示すためにも、見たことを幻だったということにしなければ、最後には自分が悪者で終わってしまうことになってしまう。

                瓜二つ

 ファイブオクロックの人物が誰だったのか? そして被害者を誰が殺したのか、ファイブオクロックの人物がこの事件にいかに関係しているのか、とにかく、ファイブオクロックなる人物がこの事件のカギを握っているのは事実のようだ。
 捜査が進む中で、分かってきたこととして、梶原奈美恵がこの事件に関わっていると考えると、結婚詐欺が影響していると言って間違いないだろう。そうなると結婚詐欺の方としても、一応被害届が出された中で、殺人事件にも関わっているということで、捜査二課の方でも捜査が行われた。
 その中で、一人、二年前のことになるが、梶原奈美恵と思しき女性と付き合っていた男性が、自殺をして、そのまま死んでしまったという事件があった。最初は、結婚詐欺にあったなどと誰も思っていなかったのだが、葬儀の際に、彼の友人という人から、彼が自殺をするのはおかしいということを家族の方が訊かされていた。
「彼は、結婚相談所で知り合った女性と交際していて、もうすぐ結婚するという話を楽しそうにしていたんです。そんな彼が自殺をするなんて。僕には信じられない」
 と言っていた。
 家族はその話を初耳だったようで、
「誰かと付き合っているという話しは聴いていましたけど、結婚ということまでは聴いていませんでしたよ」
 と言われた。
 話が食い違っているのでおかしいと思っていると、死んだ彼には借金があったようで、その返済を家族に迫ってきた。保険金で何とか借金は返せたが。そこで初めて結婚詐欺の話が持ち上がってきたのだ。
 彼には弟がいて、他の家族は、
「もう事を荒立てる気はありません。そんなことをしても、あの子は戻ってくるわけではありませんから」
 と言っていたが。弟だけは、
「俺が必ず兄貴の敵を討ってやる」
 と言っていたようだ。
 実は。その弟が最近行方不明になっているという話があった。
 急に姿を消したのだが、それまでは何もなかったはずなのに、急な失踪に家族もビックリして捜索願を出したのが、三か月前だという。
 ただ、失踪する前の彼は、急に喜んでみたり、かと思うと、何かを思いつめたような表情になったりと、少しおかしかったという。
「思いつめたというか。何かの覚悟を決めたかのような表情にも見えたんですよ。ただ、彼は普段から自分の気持ちを表に出すことをしなかったので、彼の態度から何を考えていたのかを思い図るのは難しいと思います」
 というのが、友人の話であった。
 友達の中には、
「彼の兄が以前自殺をしたんですが、どうもそれが結婚詐欺だったということで、彼は何とか兄貴の敵を討ちたいって言っていたんです。ひょっとすると、その仇が見つかったんじゃないですかね」
 という人がいたが、
「これはただの勘でしかないですけどね」
 ということだった。
 彼は普通にしていれば、女性からも人気があって、気さくなところがモテる理由だったのだが、女性と決して付き合おうとはしなかったという。それだけ女性に対しての不信感が強く、まわりの女性も、せっかくの彼をそんな風にした結婚詐欺の女を許せないと言っているくらいだった。
 そんな彼が謎の失踪。いろいろなウワサがあった。
「かたき討ちをしようとして、返り討ちに遭った」
 あるいは、
「仇を見つけて、いよいよこれからというところで、捕まって、監禁されている」
 あるいは、
「雲隠れして、忘れた頃に女に復讐し、自分は犯行の圏外に置こうと考えている」
 などと、いろいろな憶測があったが、どれも信憑性のないものだった。
 信憑性があっても、現実味に欠けるものがほとんどなので、本当に憶測の域を出なかったのだ。
「ファイブオクロックと呼ばれている人物は、その弟ではないか?」
 という話も捜査員に中で囁かれるようになったくらいだ。
 そういえば、今まで「ファイブオクロック」と呼ばれている人をまともに見たという人はいない。特徴である髭を皆が覚えているので、ちゃんと見たと思われがちだが、実際に見た人は皆、ほとんど印象に残っていない。マスクや帽子、マフラーなど、数年前までであれば、
「怪しい恰好」
 と言われていたが、今ではそれが普通になっている。
 マスクをしない人には近づいてはいけないとまで言われる時代になっているのだ。
作品名:ファイブオクロック 作家名:森本晃次