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ファイブオクロック

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 という、普通に考えれば怪しいということが分かるはずなのに、舞い上がってしまっているとどうしようもない。
 結局、結婚資金として貯めていたお金はおろか、借金に塗れてしまうことになり、最後は借金取りに追われ、風俗に身を落とすことになってしまった。
 何とか金を返し終えた彼女は、復讐に燃えたのだ。
 風俗で客の相手をしながら、いかに復讐してやろうかということばかりを考えていた。
「目には目を、歯には歯を」
 だった。
 風俗で借金を返し終わっても、まだ彼女は風俗で働き続けた。それはひとえに復讐のための資金を稼ぐためだった。
 整形にお金を使い、いい部屋に住み、そしてスター顔負けの衣装をたくさん揃えた。
 もちろん、詐欺を行う相手によって、いろいろな自分を使い分けることもできるようになっていた。
 彼女は清楚な淑女から、妖艶な娼婦まがいの魅力を持った女にまで化けることができるようになっていた。
 元々、俳優になりたいという思いもあってか、演技の学校にも通っていたことで、基本的な演技力は持っているつもりだった。
 その力に、精神が絡みつき、彼女は自分の中に相乗効果を見出していく。
 どんな男にはどんな女性がいいかなどということも、しっかりリサーチし、男心の擽り方も分かるようになってきた。
 そんな彼女は、彼に訴えられた時、彼を合わせて六人の男性と交際をしていたようだ。
 しっかり自分という女を使い分けていることに、さすがに調べさせた彼もビックリしていたようだが、
「これなら、他の男と歩いているのを見ても、彼女だとは思わないよな」
 と思った。
「それが、彼女の狙いなんですよ。ちゃんと、それぞれ違うタイプを好きな男性を選んでいるところは、さすがだと言わざる負えないですね」
 と探偵に言われた。
 確かに、写真を見る限りでは、同一人物だとはどれを見ても思わないだろう。
「五人の別々の女が、男とデートしている写真」
 としか思えないのだ。
 そして、被害届を出した彼が、洞窟で見つかった断末魔の女を見た時、
「あのオンナだ」
 と叫んだ。
 彼にとって、他の男性と楽しそうにしている彼女を見ると他人にしか見えなかったのに、断末魔の表情を見ると、そこに彼女の面影を見たのだ。訴え出たこの男の感情がどんなものだったのか、計り知ることは誰にもできないだろう。
「本当ですか?」
 と、さすがの捜査二課の刑事もこの展開に面食らった感じだった。
 さっそく捜査一課の刑事に連絡を取り、この男性を引き渡すことにした。もし、この男のいうように、自分が訴えようとしている女が死んでいるのであれば、話はまったく違った方向に行ってしまう。被害届を出した方としても、これは重大なことになるのだった。
 被害届を出した男は、名前を菅原良治という。菅原は捜査一課で辰巳刑事と清水刑事と対面した。
「ご足労願いありがとうございます。ところで、菅原さんは捜査二課に、結婚詐欺で被害届を出されたんですね?」
 と辰巳刑事が言った。
「それはどういういきさつだったんですか?」
「その女性、名前を梶原奈美恵というんですが、私には違う名前を名乗っていました。どうやら、私以外にも数人、同時にお付き合いしている人がいたようなんです」
「そのことをあなたが気付かれたんですか?」
「ええ、最初は些細なことだったんですが、一度気になり始めると、どんどんその思いが膨らんで行って、自分の中では、そんなことはないという否定の気持ちと、猜疑心の強さがジレンマとなって襲い掛かってきましたが、結局、疑念は消えませんでした。それで、結婚するにしても、一度ハッキリさせておきたいと思って、探偵を雇って調べてもらったんです。その結果、私が考えている最悪の状態であることが判明したので、今日、ちょうど被害届を出しにきたんです。その時、ここで偶然、この間死体で発見されたという女性の写真を見ることができて、それが彼女に見えたんです。見えてしまうと彼女以外の何者でもないと思えてきて、こうやって今ここにいるということなんです」
 と菅原は話した。
「ということは、この女性は結婚詐欺だということですね?」
「ええ、その通りです。被害にあった男性は私だけではなく、最低五人はいると思います。それも現在進行での五人ですから、過去を遡るとどれだけの人がいるか分かりません」
「なるほど、ということは、今のところ、彼女に対して被害届を出している人がいるかどうかまでは分からないということですね?」
「はい、彼女は偽名を使っていたはずですからね。でも、私の方で、被害者の名前までは分かりませんが、調査を依頼した探偵さんならご存じかも知れません。問題が殺人事件というのであれば、私が許可すれば、ひょっとすると、他の被害者の名前を教えてくれるかも知れ褪せん」
 と菅原がいうので、
「ありがとうございます。さっそくそのあたりを確かめてまいります。我々捜査一課としても、被害者が特定できないと、捜査がなかなか進みませんが、もしあなたのいうように、その女が被害者であれば、こちらとしても、捜査を進めることができます。ところで、最初に知り合ったのは。どこだったですか?」
 と清水刑事に訊かれて。
「私は結婚相談所のようなところに登録していたので、そこで知り合いました。私のようなあまりお金のないサラリーマンが登録するようなごく一般的な相談所だと思います。登録人数も結構いると思いますが、実は似たような相談所も結構あると聞きます。きっと彼女もいろいろな相談所に登録していたのかも知れませんね」
 と、菅原は答えた。
 結婚というものを、結婚相談所で相手を決めるということに対して、辰巳刑事も清水刑事も、反対でもなければ、賛成でもなかった。できれば恋愛が一番いいのだろうが、今の世の中、なかなか自分から異性と仲良くなる機会もなく、趣味などが同じ人がいたとしても、そんな二人が知り合う機会は、万に一つもないとまではいかないが、かなり可能性は低いだろう。
 それであれば、データベースに登録し、趣味の合うもの同士が知り合うきっかけを与えてくれるというシステムはいいことなのではないだろうか。古風な考え方の人には、分かりづらいところがあるかも知れないが、もっと昔であれば、許嫁などというシステムがあるように、結婚も家柄などから、自由恋愛などありえない時代もあったくらいだ。それを思えば、知り合うまでを相談所に任せ、後は自由恋愛でができる、結婚相談所というシステムは、画期的なシステムだと言えるのではないだろうか。
 とりあえず菅原は、結婚詐欺の被害届を出したまま、捜査一課からの回答待ちという状態になった。しばらく中途半端な状態になるが、それも仕方のないことであった。
 さっそく二人の刑事はまず、菅原が登録していた結婚相談所にアプローチを試みた。
 その事務所は、雑居ビルの三階にあり、中には受付と、いくつかのブースがあり、事務所は上の階にあるということだった。まず、受付で警察であることを示し、菅原の担当者に面会することになった。
「ええ、菅原さんは私どもに登録いただいており、私が担当させていただきました」
 と言って、担当が名刺をくれた。
作品名:ファイブオクロック 作家名:森本晃次